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42)異世界最後の夜は2人で
しおりを挟むせっかくだからと親しくしていた人たちを招待して、たこ焼きパーティーを提案すれば、みんな異議なしとばかりに集まってくれた。
双方の家族はもちろん、皇帝陛下や皇后様もやってきて。プリムもばつが悪そうな顔で来るかどうか迷ったらしいけれど、双子によってあれよあれよとビビの隣に座らされていた。謝ってきたプリムに罰としてビビとのなれそめを暴露させたケイトは鬼だと思う。
お父さんと一緒にせっせとたこ焼きのタネをかき混ぜ、くぼみへとタコを落としていく。その間にもいろんな人が寄ってきては話しかけてくれた。
「寂しくなるなあ・・・」
「マシュー、お父さんをたまに気にかけてもらえるとありがたいな」
「おう。たまにたこ焼きを買いに行くがてら確認する」
「ありがとう」
「正直、今でも実感わかないんだよな。あのケイト様が一般人になるっていうのが」
マシューの言うことももっとも。でも、思うんだよね。
「でも、なんだかんだいって店長をしていた時みたいに吞気にしてそう」
「あーわかる!」
一緒に店長としてのケイトを見てきただけに納得できる部分があるのだろう、マシューは感慨深いといいながらも嬉しそうにケイトを眺めた。
「・・・なんだかんだいってさ、店長は皇族らしくなかったもんな」
たこ焼きを一口喰いながらもそう呟いてケイトの傍へと走っていった。なんだかんだいってマシューもケイトを見てきた人間だ。思うことがいろいろあるんだろう。
「アリエッタ様、少しよろしいでしょうか」
「もちろんだよ、ビビ!」
「まずはプリム様を止められなかったことを謝罪させていただきます。とはいえ、アリエッタ様のお蔭ですべてが良い方向へ行ったこと、嬉しく思っています」
「あれは私がっていうより、おじいちゃんのお蔭だと思うけれどなぁ」
「いいえ。アリエッタ様がケイト様やプリム様と出会わなければ、そのきっかけさえなかったと思うのです。私は・・・プリム様を慰めることで精いっぱいで・・・」
「そういえば、プリム様とはどうなったの?」
「はい・・・その、色々話して私ともずれがちょっと会ったことに気付きまして・・・」
頬を染めながらもじもじと言うビビが可愛く見える。あれだな、プリム様が周りにいわなかったのって、情報が洩れたくないっていうのもあったけれど、ビビが一番信頼しているケイトに嫉妬してたってこともあるって気づいたんだろうね。ケイトに言われて初めて知ったよ、そんなこと・・・プリム様も案外わかりにくいというか遠回しな想いを抱えてるんだねぇ。
頑張ってねと励ますと、羞恥心に耐えられなくなったのかたこ焼きを抱えながらダッシュで逃げていった。あらーと思っていると、お父さんが交代すると言ってくれた。せっかくだから言葉に甘えて、エプロンを外すと、ザン様と目が合った。
・・・アリア様は複雑な心境らしくてここには来ていない。だからザン様が来るとは思ってなかった。そしてもっとびっくりしたのは、ザン様に手招きされたこと。呼ばれていることに気付いて慌てて、後をついていく。少し離れた茂みの方に立ち止まったザン様はこちらを見て口を開いた。
「・・・覚えていますか、秘密の部屋で貴方が持っていったアレを」
「あ、はい。今も持っています」
慌ててポケットから取り出したのは、小さなオルゴール箱。蓋を開けるようにと言われて開けてみると、昔聞いた曲が流れてきた。この曲が気になって思わずポケットにいれてしまったんだっけ。
じみじみと耳を傾けていると、ザン様が箱の中へ何かを入れた。
「・・・あの、これは?」
「ケイフィトラが大事にしていたペンタントです」
「えっ、誰が・・・それに、ペンタントって?」
「・・・この時を持ってあの子との真名繋がりは切れることになる。だからこそ、貴方にこれを。・・・どうか、あれをよろしくお願いします」
あたふたしているアリエッタを前にザンは珍しく穏やかな笑みで一礼してから立ち去ろうとしていた。戸惑いながらも、どうしてもこれだけは聞いておきたいと声を掛けた。
「あのっ、ケイトとの最後の触れ合いは・・・ザン様が勝ったんですよね?」
「・・・何故そう思われたのですか」
気になっていた。朝に見た傷やあざだらけになったケイトにどっちが勝ったのと聞いても教えてくれない。でも、なんとなくだけれど感じた。喧嘩しているわけじゃないだろうと。それでもやっぱり心配になるんだよ。
それに、ケイトには悪いけれど・・・ザン様の方がきっと上だと思っているから。
「だって、ザン様はケイトの心を読めますよね。それって彼より力があるってことでしょう」
緊張気味に聞いたアリエッタはドキドキしながら返事を待っていた。
ザン様は少し瞬きをしてからそっと人差し指を口に当てて囁いた。
「心を読まずとも息子のことぐらい解りますよ。それに・・・あれに勝てないようでは父親としての立場がないですからね」
さっそうと消えていったザンの後ろ姿を見送る。少しの余韻に浸っていたアリエッタは思わずしゃがみ込んだ。顔が火照ってしまうのはザン様がいつになくかっこよいと感じたから。そして、ケイトもいつかはああいう風になるのだろうと想像してしまったというのもある。
「ふわぁ・・・色気がすごい・・・!」
気付けば、曲はすでに止んでいた。そっとペンタントに手を触れてみると宝石の部分がロケットになっていることに気付いた。カチリと開けてみるとそこには写真が一枚入っていた。近づけてみると、そこに写っていたのは生まれたばかりの双子を抱きしめているアリア様とその脇にいるケイトとザン様。アリア様が目覚めていなかった時期を考えると恐らくこれが最後の家族写真なのだろうと分かる。
「これをケイトに渡しておいてってことかな。ふふふ、素直じゃない親子だなぁ」
ペンタントを再び箱にしまい、ポケットに入れておく。あとでケイトに伝えようと思いながら。その時に真名繋がりとか訳の分からないことも併せて聞いておこうと決めた。
「アリエッタ、どこー?」
自分を呼ぶ声に気付いて慌ててみんながいる所へ戻っていく。長いようで短い時間は日が暮れるまでずっと続き、そうして別れを告げたい全ての人へ挨拶を終えた。
どうせならば、最後は笑って別れたいという私達の願いに応じて、たこ焼きパーティーに集まってくれたみんなに感謝でいっぱいだ。
日が暮れ、解散の時間ということでみんなを見送る。ケイトと一緒に門が閉まるのを見届けてから、部屋へと戻った。その間もいろいろと話題が尽きることなくずっと続いていた。
「楽しかったねぇ・・・」
「そうだな。みんな喜んでもらえたしな」
「ついに明日だね」
「おじいちゃん、本当にすごいな・・・あっという間に扉まで作っちゃうし」
「でも、私達は向こうでは離れることになるかもって話だったね」
「アリエッタの家族がどこにいるかにもよるしね・・・でもまぁ、大丈夫じゃない?」
「うん、異世界ぐらいの距離ならあきらめるけれど、全然近いしね~」
部屋のベランダに出て、外の空気を吸うのと同時に、遠くにみえる街の光を眺めた。この景色も見納めと思うと寂しい。でも多分、ケイトの方がもっともっと何倍も寂しいのではないだろうか。
「・・・ケイト、本当にいいの?」
「アリエッタ。何度も言わせないでね?俺は大丈夫だよ」
「ムリはダメだよ・・・ケイフィトラ」
彼が驚くであろうことを想定してわざといたずらっぽく囁いてみる。思っていた通りケイトは顎をぱかーんと開けたまま驚いてくれた。
「な、なんで・・っ・・・」
「ザン様から言われた時、最初誰のことかわかんなかったんだよね~でも、状況的にケイトのことを言っているのかなってわかったよ」
「基本的に皇族は防衛のために本来の名前を明かさないからね・・・うう・・・・」
「そういえば、ザン様が真名繋がりは終ったって言ってたけれど、どういう意味なの?」
思いだしたように質問してきたアリエッタのために、ケイトは丁寧に説明をした。この国の風習であること、そして自分たちの場合は母親の状態から危険と判断された例外的な形であることを伝えた。
「じゃあ、ザン様はザン様なりにケイトを見守っていたってことですね。それをケイトもわかっていたからあっさりとした態度だったの?」
「・・・どっかの親子みたいに脆い絆じゃないからね。だからこそ、父上が母上至上主義なことも含めてちゃんと理解してるんだよ」
「ふふふ。いいな、家族って」
「・・・アリエッタ」
久しぶりに日本に帰れるのは嬉しい。でもちょっと不安にもなるんだ。おじいちゃんが大地の女神様にいろいろと話をしてくれたおかげで、ズレの方は気にならないけれど、やっぱり年齢的には昔と差があるわけで。突然消えた娘がいきなり成長して戻ってきたとなれば親はどう感じるのだろうか。お兄ちゃんがびっくりしないだろうか。久しぶりの再会で溝がどれぐらい埋まるかもわからない。何より、今家族がどこにいるかもわからない状況だ。どんな再会になるかわからないけれど・・・・
「・・・不安だけれど、家族のみんなが私を受け入れてくれたらいいな」
「大丈夫。もし拒絶されたら俺のところにおいで」
「そういうこというあたりがケイトだよね!」
ココ、普通は慰めるところだよ?と突っ込んでもケイトは鼻歌を歌うだけ。それどころか、背中越しに抱きしめてきてはアリエッタを動けなくさせている。
「ちょ、ケイト・・・!」
「ねぇ、アリエッタ。もし、向こうで再会できたらその時はお互いにちゃんと自己紹介しようね」
「・・・・・うん」
「それで、昔テレビを見たみたいに、普通の付き合いをする流れな。名前を言い合って、デートして恋人同士になるパターンで」
「あはは、当然最初のデートではたこ焼きを食べるんだよね?」
「もちろんそこは譲れない。で、いつかは君の家族に会って、話をしたいな」
「えーなんで?」
「もちろん、君をお嫁さんにもらうために」
・・・ここでまさかの結婚宣言と来ましたか!
思わぬ告白にびっくりしたけれど、なんとなくそうなるだろうなとは薄々感じていた。・・・ケイトが皇族だったら絶対考えられなかった未来。
だけれど、ケイトはその未来を捨てて、日本で暮らすことを決めた。自分自身のために、そしておそらくは・・・私のためというのもあるかも。ちょっと・・・うぬぼれているみたいで恥ずかしいけれど、きっと、多分、正解だ。
「・・・ケイト、私頑張るよ。ケイトにあっちの方がやっぱり良かったなんて言わせたくないから」
「あはは、言うわけないよ。だって、君のためなら自分の信念さえ曲げられるから」
そういいながら降りてくるケイトの唇が自分の唇へと重なる。あれだけ不安だったのに、今では満ち足りた気持ち。それはきっと、彼の想いが伝わってくるから。だから、私ももっと伝えられたらいいなと思う。これまで言えなかったことも含めて、これから一緒に歩いていくために。
「ケイトがこの世界にすべてをおいていくかわりに、私がケイフィトラと呼び続けると約束するわ。そしてあなたと思い出をたくさん共有するの。それがあなたと歩むと決めた私ができる精いっぱいだと思うから」
「それは凄く嬉しいことだよね。だって、俺のすべてを君が攫ってくれるってことだろう」
「待って、そこまでは言ってない」
「ふふ、結婚を申し込んだつもりが、逆になっちゃった。でも、悪い気はしないよ」
慌てていると、またキスされた。今度は角度を変えて何度も深いキスを。そっと持ち上げられたことに気付く。ああ、これは寝れないパターンだなと思いながらも、不思議と嫌じゃなかった。
「・・・ケイフィトラ、明日に影響がないようにしてね?」
「努力はするよ・・・ムリだったらごめんね?」
にこーっと微笑んだケイトに悪魔の角と尻尾がついているのが見えた気がした。・・・これは言うことを聞かないだろうなと覚悟を決めたアリエッタは、彼の手が服を脱がしていくのを黙ってみていた。
「んっ・・・」
「ああ、可愛いなあ」
「・・・それ、もう何回も聞いたよ・・・」
「言い足りないんだよね。ふふふ、ここ気持ちよい?」
甘ったるい声で耳元に囁く癖に腰の動きは全然優しくない。それなのに、身体は正直にも熱をもって彼の動きに合わせて淫らに踊ってしまう。彼はすっかり自分のいいところを覚えたようで、あちこちいいところを焦らしては擦り、時には深く突いたり浅くゆっくりと抜いたりと持ち前のドSさを発揮してくれてる。甘い囁きと激しい動きは相反する癖に、自分には悪くないと思わせる毒がある。
動く腰に合わせて今度は手の動きまで怪しくなってきた。敏感になった胸を包むようにゆっくりと揉んでくる彼の手はとても熱い。おまけに時々指が一番敏感な乳頭を責めるものだから、どうしても腰が浮いてしまう。もちろん彼がそれを逃すはずがなく。
ダメだよといいながら小刻みに動いて蓋をきっちりと閉めようと覆いかぶさってくる彼の何もかもが卑猥だとさえ思った。
「本当にこの手慣れてる感がすごく嫌・・・!」
「これからはずっと君にだけ捧げるからそれで勘弁してよ・・・ん、美味しいね」
「んっ・・・・ケイフィトラっ・・・!」
結局今夜も彼に溺れることになるのかと思いながら、彼の背中に手を回す。後のことは明日考えようと何もかもを放棄し、彼の名前だけを呼ぶことに集中することにした。
全ては明日――――
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