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33.5)プリムが内緒にしていること

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たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情






僕は皇太子としていろいろとこの国について知らなければならないことがたくさんある。
当然ながら、この国の闇の歴史についてもいろいろと教わってきている。8歳になった時、写真を見てどうしても計算が合わないことに気付いた。
写真を見ると、僕が赤ん坊の時にアリア様のお腹が膨らんでいる。でも、僕はケイト王子が生まれるまでの間、一切子どもの姿を見たことがない。
そして僕が3歳になった時には赤ん坊を抱えたアリア様が写っていた。これが多分ケイト王子だと思うのだけれど・・・それならば、僕が赤ん坊の時にアリア様のお腹の中にいた御子はどうなったのだろう?

「・・・これはどういうことだろう」

気になったら止まらないのが僕の悪い癖。いてもたっていられず、アルバムを抱えてお母様を探しに出かけた。お母様はたぶん庭園にいるだろうとあたりをつけてみたら、やはり優雅にお茶を飲んでいた。

「母上、このアルバムで知りたいことがあります!」
「あら、なぁに?」

金髪の髪をなびかせながら微笑んでいた母に疑問を口にすれば、悲し気に目を伏せた。

「この時のアリア様のお子様は・・・命を落とされました」
「どうしてですか」
「簡単に言うと、魔力に耐え切れなかったのね。アリア様やザン殿下の能力はかなり高いの。だから、それを受け止められるだけの身体が必要なのですよ。でも、このお子様はお腹の中で育つことが叶わなかったのです」
「魔力に耐え切れずにですか・・・難しいですね」
「・・・魔力が高い故にこういう弊害もあるということですわ。ねぇ、プリム・・・あなたもいずれはこの国の支えとなるでしょう。その時に絶対にケイト様の存在を無碍に扱ってはなりませんよ。貴方のためにもこの国のためにも、そして・・・この世界のためにも、ね」

この時は母上の言っている意味が解らなかった。だけれど、今ならわかる。
あれはそういう意味だったのだと。

アリア様が生まれたばかりの双子を残して病床に倒れ、ザン叔父上の顏から表情が消えたことでケイト王子を取り巻く環境は激変した。残虐さは鳴りを潜めてはいたものの、王子は自分の思惑を一切誰にもしゃべらなくなった。彼のことだ、おそらく何らかの計画は立てているのだろう。だけれど、彼はそれを悟らせるほど馬鹿じゃないし、僕が彼をこの世界に引き留めようとしていることだって解っているはず。王子が10歳の時に言ってきた言葉を今でも覚えている。

『この世界に聖女は必要だけれど、プリムやこの国に俺が必要だとは思ってないよ』

・・・10歳になったばかりの従兄弟は、13歳の僕でさえ考えていなかった自分の価値について深く考えていたのだ。

でもね、ケイト王子・・・君の認識はかなーーーーーーり、間違ってる。

まぁ、当然か・・・だって、貴方は・・・自分の存在理由が、『聖人』だからだと思ってるだろう?
それ、全然違うからね?でも、君はまだ『真実』を君は知らない。
そして、アリア様やザン様は僕が『真実』について教わっていることを知らない。
でも、僕は知ってしまった。ほかならぬ皇帝である父上から聞かされたのだから。

昔、この国の『王族』は女神様の遣わした聖女とその家系に対し、傲慢にも身分を振りかざして処罰の対象としたことがある。その結果女神様からの恩恵を全て失ったという苦々しい記憶がある。
しかし、それも女神様に必死に願い出て、三人の王子を聖女の生まれ故郷だという『地球の日本』に飛ばし、誰かひとりでも聖女の家族に『聖女の死を伝え、謝罪する』ことができた時には国を許すという神託を受け取った。幸運にも・・・我が国は許された。当時の皇太子が聖女の子孫と出会って結婚したことによって。そのお蔭で我が国は再び恩恵を取り戻し、新たに名を付け替え、「ブラパーラジュ」として再興することが叶った。もちろん、それ以降、聖女に対しての待遇がかなり改善されたことはいうまでもなく、当然のように教訓としてきっちりと引き継がれている。

そうして、運命か、はたまた幸運だったのか。

巡りめぐって、聖女の召喚を通じて、当時の王族の皇太子の血を継ぐ聖女様と縁を持つことができた。つまり、同時に初代聖女様の血を継ぐ方を娶ったことを意味する。それが、現聖女であせられるアリア様だ。つまり、王族がバカなことをしなければ本来皇女となるべきだった人間でもあるのだ。もちろん、今となっては結果論に過ぎないことはわかっている。たらればを考えればきりがない。
しかし・・・その血筋は無視できない。
どんなに今の状況をもって否定しようとも、ケイト王子が・・・いや、ケイト様がアリア様の血を引いていることは違えようのない事実。しかも、今の皇族の血筋もザン様から受け継いでいる。・・・すなわち、それは疑いようもなく、ケイト様が正統なる後継者であることを証明していた。だから、彼は、皇帝である父よりも身分が高い。『聖人』であることは単なるこじ付けに過ぎない。

「だから、僕は父に言われてきた・・・『身代わりとなり盾となれ』って」

誰のなんてもう言うまでもない。皇帝である父上は、ケイト様がお生まれになった時から・・・いや、おそらくは、アリア様の本当の第一子が誕生された時からすでにすべてを決めていたのだろう。だから、僕はアリア様から名前を付けられる必要があったと聞いている。

『聖女が認めた人間であることの証明として』

そもそもさぁ、僕は皇太子だよ?その皇太子を呼び捨てにできるのは、聖人でも無理だ。
その不可解さに気付かないあたり、君も立派にアリア様の子どもだよ!

「・・・ほんと、馬鹿だなぁ。よりによって別の国の聖女を・・・しかも日本出身の子を選ぶなんて」

そんなの、父上が見逃すはずがないだろう。父は・・・『皇帝』だ。
この城にある『結界石』は…我が皇族の恐れの象徴。再び女神の加護を失ったその時にどうなるかわからないという不安。聖女に万が一何か起こればこの国が崩壊するかもしれないという恐ろしい事態を避けるために必要な物。月喰に対して異常なほどに備えているのも、万が一の暴走を恐れるが故に。
全ては再び国を滅ぼすことがないようにと。

今は、アリア様やザン様がいるからいい。でも・・・いずれ寿命は尽きる。そうでなくても、アリア様が不在の間はずっとケイトがにはここにいてもらわないと困る。ケイトがここを離れるとしたら、この国に不満がある時や、留まる理由がない時だろう。そんな時が来れば、この国が女神の加護を失う可能性もないとはいいきれない。

「でも・・・ちょっと、羨ましいかな」

僕はこの役目から逃げることはできない。

例え・・・彼女ビビと敵対することになろうとも、貴方ケイト様を傷つけることになろうとも・・・皇帝の命令がある限り、そしてこの国がほろびる可能性がある限り・・・

「アリエッタ殿。君をなんとしてでも君を城に引き入れる必要があった・・・ケイト様が執着している君が少しでも皇族の目に届くところにいられるようにね。だからこその依頼だったわけだけれど・・・」

本当に僕の本心や意図に気付かないでくれて助かったよ。



もし、気付かれたら間違いなく・・・僕らは・・・・


「敵対していただろうからね」



でも


どうせならば・・・そんな嫌なことは・・・・少しでも先の方がいい。


一日でも、一時間でも、一分でも・・・・いや、ほんの一秒でもいい・・・・


少しでもケイトといとこのままでいたいから。


少しでもいい。ケイトとアリエッタ殿の幸せを見守りたいから。



あの二人が笑いあっている姿をもう少しだけ・・・・見守っていたいから。



だから・・・まだ、内緒にしてあげるよ。
アリエッタ殿、君が・・・ケイト様を引き込まない限り・・・もう、少しだけ、ね。




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