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31)美味い話なんてあるわけないよね
しおりを挟むアリエッタはぜぇぜぇと息を切らしていた。うっかり定番パターンとクチにしたばっかりに、ビビの怒りに触れてしまったようだ。
必死に謝罪し、ようやく座らせてもらえた。ぐったりとしていると、ビビは二杯目のレモン水をアリエッタの前に差し出した。
「で、意識したきっかけはなんでしょうか?」
「まだき、聞くんですか・・・うう・・・・スコット国王との会話の後の・・・あれ?」
「どうされました?」
「・・・さっきの老人がカルマリア国の王様の名前と同じだなって思って」
「ああ・・・あの方はお母様がカルマリア国の人間と聞いております。スコットはあちらでは良くつけられるメジャーな名前だそうですよ」
「ああ、そういうことだったのね・・・良かったわ、繋がりがあったらびっくりよ」
「いえ、繋がりはちゃんとあります。確か、スコット様のお母様はカルマリア国から降下された末の姫君だったとか」
「・・・スゴイ家系じゃないの」
「この国では他国の血よりも初代聖女に関する繋がりこそが何よりも優先されます。・・・初代聖女様のとのかかわりを大事にすることこそ、この国が生き永らえることにつながりますので」
「そこまで重いの!?」
「心配せずとも、アリエッタ様が正式にケイト様の妃になれば説明される話ですわ」
あ、そこに戻るのねと思ったアリエッタは無言で目をそらした。ビビはというとやはりにこにこしている。何故だろう、この国では笑顔で無言の圧力をかけるのが常識とでもいうのだろうか。
アリエッタが首を傾げたのと同時に、扉をノックする音が聞こえた。ビビが入室を許可し、招き入れたのはアリエッタにとっては目を丸くさせる人物だった。
「ラティス様?」
「ラティスで結構といったはずですよ、アリエッタ様。ああ、座ったままで良いです」
「どうしてこちらに?」
「アリア様が心配されてましてな、これを届けてこいと頼まれまして」
「え・・・あ、プリンだ!!しかもおっきい・・・・!」
「アリア様の大好物で、今夜もデザートとして大量に出ておりますよ。せっかくなのでこちらで食べては如何っス・・でしょうか」
「ありがとうございます!わぁ、嬉しい!フルーツもたくさん飾られて・・・生クリームも豪華・・・!!」
「お気に召したなら幸い。そうだ、ビビ、皇妃様が呼んでおられた。すぐに向かうようにな」
「えっ、何か問題でもあったのでしょうか・・・申し訳ございませんが、下がらせていただきます」
ラティスが思い出したようにビビに言づければ、彼女は速足で優雅に出て行った。音を立てずに慌てることがよくできるな・・・と思ったアリエッタはプリンに手を付けようと、スプーンですくいはじめた。その時、だった、ラティスの表情がなんとも言えないものになったのは。口に運ぼうとしたとき、ラティスは頭を下げて下がっていった。
「では私もこれで下がりましょう・・・アリエッタ様・・・その・・」
「はい?」
「・・・いえ、なんでもございません。私が言うことではありませんが・・・その、お大事になさってくれっス・・・いや、なさってください」
そそくさと扉を閉めて出ていくラティスにきょとんとしながらも、アリエッタはプリンを口にふくんだ。
「おいしい!!卵たっぷり使っているだけあって濃厚!!」
あまりのおいしさにパクパクと口に運んでいく。最初こそはテンション高く、味を味わっていたが、途中から体に違和感を感じていく。
「・・あ・・・れ・・・・なんだか、熱い?」
身体の奥の方が熱い・・・それに、なんだか・・じん、じんする?
気のせい・・・と思おうとしてもなかなか違和感をぬぐえない。それどころか、逆に違和感が大きくなっていくのを感じた。
「・・・風邪でも引いた・・・のかな?」
なんだか、顔も火照ってきたし、息も荒くなってきてる。
嫌な予感を感じて、三分の一まで減ったプリンを残してスプーンを置いた。深呼吸しようとしても、うまく息ができない。
だけれど、アリエッタはこの感覚を以前にも感じていた記憶がある。
(あれはいつだった・・・そうだ、ケイト王子にいたずらされた時だ!)
思い当たるのは、契約を持ちかけられたあの日のこと。散々身体を弄られ、涙まで流して必死によがったことも覚えている。
「あれ?ってことは・・・」
アリエッタはさっと青ざめた。人間、顔が赤くなっていても、真っ青になる感覚がわかるんだという発見をしたわけだが、当の彼女としてはそれどころではなかった。
「でも、なんで今・・・・」
心当たりといえば・・・と思った時、ようやくラティスの残した言葉に合点がいった。あれは、もしかして、こうなることをわかっていた?つまり・・・
「プリンに・・・なんか薬でも盛られたってこと・・・・・?」
慌てて立ち上がったアリエッタだが、すぐに腰に来る快感と激しい動悸で立っていられなくなった。椅子から滑り落ちるように絨毯へと座り込む。
「う・・・ど、どうしたら・・・・?」
なぜかはわからないが、ちょっと動いただけで欲望が体全体を駆け巡る感覚が奥から湧き上がってくる。
息苦しさを感じていながらも、朦朧とする頭は考えることを拒んでしまう。
その時、荒々しくドアをノックする音と叫び声が聞こえた。
「アリエッタ?!入るよ?」
「だめ!!!」
ケイトの声が聞こえたとたん、最悪だとアリエッタは目を瞑った。条件反射でダメと言えたことが奇跡なほど。今もなんで!という声が聞こえるが、アリエッタとしてはひたすらダメと言い続けることしかできない。靄がかかるのを必死に振り払いながら首を振る。その間にもケイトとアリエッタの攻防は続いていた。
「どうしてダメなの?」
「なんで・・・・入り、たがるの?」
「母上が心配していたんだよ。ビビがこっちに来ているのなら、彼女を一人にするのはちょっと心配だわって」
「・・・・・・とにかく、入らないで・・・くだ、さい!!」
ケイトの言葉を聞いた瞬間、アリエッタの脳内には、アリアがペロを出してウィンクする顔しか思い浮かばなかった。
(こんなことしていいんですか、聖女様!!!諸悪の根源がまさかの貴方だとは!!!)
だが、皮肉にもアリエッタの残された理性では正しく突っ込みも入っていた。こちらの聖女の基準が清らかさだとは限らないと。
「はは・・・こんな時にも・・・突っ込めるの、バンザイ・・・!」
もうここまで来たら乾いた笑いしか出てこない。
聖女がこんな卑怯な手を使うなら、こちらも受けて立つまで。
堪忍の緒が切れた今、アリエッタには聖女の力を使うということさえ厭わなかった。むしろ今だけは聖女としての力があってよかったと心の底から安堵したほど。
ただ、問題は・・・国が違っても効用があるのかどうか。
「・・・聖女の名においてめいじ・・・・」
呪文を唱えていた途中でいきなりバチンと何かが弾けた。一体どういうことだと目を擦ってよく見ると、アリエッタの周りを精霊たちが囲んでいた。
「・・・な、なんで・・・?」
『あ、やっとぼくらがみえるようになったんだねー』
『うむ、せいじょであることをうけいれたようじゃの』
『でも、ひとあしおそかったよねー』
『そうさのう・・・・』
十匹・・十人程の精霊を交互に見ながらも、アリエッタは余裕がなくぶっきらぼうに聞く。一体どういう意味かと。
『アリアをみくびるのあまいの』
『うむ、そなたがちからをつかうことなどとうにみこしているわ』
『だから、ぼくらがここにいるの』
「・・・・私の、力を跳ね返したのは、あなた達だったのね?」
『ごめんね、でもぼくらはこのくにのせいじょのみかた!』
『ましてや、すうねんぶりかのふっかつゆえ、きいてやりたいのじゃ』
『ゆるせ、たこくのせいじょよ』
かわるがわる謝ってくるが、それすらどんどんイライラしてきたアリエッタにはどうでもよくなっていた。
「くっ・・・あの人は何をしたいんでですか!」
『アリエッタ?!』
「アリエッタ、入るよ・・・!」
呪文を跳ねかえされたからか、意識が朦朧としてくる。思わず目を瞑って崩れていく体から意識を手放すと耳に聞こえてくるのは精霊たちの叫び声と・・・ケイトの声。
(・・・はい・・ってきちゃ、ダメって、いったのに・・・!!)
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