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29)平常心は大事です、勘違いはいけません
しおりを挟むアリエッタは眼前にいる老人に内心辟易していた。
(何故って、孫娘をつれて、ケイト王子に対して婚約者にどうかとアピールしているから・・・。
いや、そういうことはほんと、私がいないときにして欲しいなあと思う。少なくとも、ケイト王子なら、誰もいない時の方がよっぽど話を聞いてくれそう。んで、隣にいる孫っぽいお嬢様、そんなに睨みつけられたらコワイです。せっかくの美人な顏が崩れてしまいそうですよ。)
老人はスコットと名乗り、孫娘の方はローズと名乗った。そして例によってケイトに対し、押せ押せの勢いで結婚相手にと薦めていた。当然ケイトが乗り気になるはずもなく、あっさりばっさりと断られている。
「・・・申し訳ございませんが、私にはこの通り、婚約者がいまして」
アリエッタがため息をついたとたん、ケイトがぐいっと肩を掴んで引き寄せる。「あ、これ故意的に巻き込んだな」と一瞬で理解した私スゴイ。誰か褒めてほしいなぁ。と何気なく現実逃避したアリエッタだが、当然ながら誰も褒めない。
(うん、お願いだから、善良なる一般市民を巻き込まないでほしいかなっ!)
もしケイトがアリエッタの心を読み取れていたら、間違いなくのたまっただろう。一体君のどこが善良なる一般市民なの?と。
事実、アリエッタ自身は拒否しているが、彼女は間違いなく、カルマリア国の聖女であり、大樹の精霊にも認められた子だ。・・・落ちた場所が差別的な国だったため、かなーりこの世界にいい印象をもっていない。それゆえ、アリエッタは日本に帰りたがっている。ケイトとしては協力するのもやぶさかじゃない。ただ、その前にやってほしいことがあるというだけだ。
自分の思惑に笑みを浮かべて笑うケイトを横目で見たアリエッタだが、すぐに目の前で睨みつけてくるローズに顔をひきつらせた。深紅のドレスを翻して扇をこっちに指し向けてくるのにちょっと引き気味なアリエッタだが、ケイトが肩を掴んでいるせいで逃げられない。
「・・・ケイト様、そちらの方はどなたですの?」
「婚約者のアリエッタですよ」
「失礼ですが、家名はどこのお方かしら?」
「アリエッタ、貴方の口から説明するべきかと思いますが」
「え、ええ・・・ソウデゴザイマスネ」
穿った目で見てくるローズに笑顔満開で応じる似非王子に内心でこの野郎とか思ったのは内緒だ・・・うん、心を読めるザン殿下には申し訳ないけれど全力で罵倒する。
(この王子様、知っているよね、知っていて敢えて振ってくるんだよね?この人、本当に外面だけだよ、優しそうに見えるのはっ!!!)
「・・・家名はありません。ただ、父と母がちょっとした貴族の出だったので、その家名を借りてこちらに参りました」
「ほう?では、そちらの家名を教えてもらってよいかのう?」
「父方がオディフェールで」
「あら、あまり聞かない名前ですわね・・・」
「母方が、マリアンヌエットです」
「マリアンヌエットじゃと!!!!」
「そんな、馬鹿な・・・」
ケイト王子が内心でニヤリとほくそ笑んでいるであろうことは予想できる。だって、マリアンヌエットといえば、今はもう無き初代聖女の遠い親戚にあたる唯一の血のつながった家系でもある。そのことを知ったとき、アリエッタはかなり驚いたが、同時に何故、見知らぬ自分を拾って育ててくれたのかという理由に納得した。
おそらく、母は自分の家名ゆえに聖女の末路を知っていたのだろう。だからこそ、聖女である可能性が高い私を捨て置けなかった。そして、母を愛していた父もまた同様に。
もっとも、父曰く、駆け落ちしたことでもう家はなくなったが、聖女の末裔である家名というだけに、影響は大きいから何かあったら印籠替わりに使いなさいとのことだが・・・。
「やはり効果は絶大ですねぇ。遠い親戚とはいえ、さすがに初代聖女の影響は大きい」
「・・・意地が悪いですよ」
「貴方の持つその家名は七賢人相手だからこそ、特に効果があるんです。この時に使わなくては武器にならない。覚えておくとよいですよ。ああ・・・ローズ様、貴方はさきほどオディフェールの名を知らぬと言っていましたが、それは聞き捨てならないですね」
「え、ど、どういうことですの?」
「オディフェールはあの水晶をこの城へ設置した功績者の家系ですよ」
「・・・そうじゃった。思い出したわい、この国の結界を作るにあたり、オディフェール家が水晶を設置したんじゃったわ」
「さらに言えば、彼女自身もカルマリア国の聖女です」
「なんですって」
「な、なんじゃと・・・では、噂は真だと?」
「噓かどうかはさておき、聖女である我が母が彼女を仲間と認めたことは事実です」
やっと気づいたとばかりにわなわなと打ち震えるスコット。目に血走りが出ていてコワイとさりげにケイトの後ろに下がろうとしたアリエッタ。今度はケイトも止めずに隠そうとしている。だが、怒っていると思っていたスコットが起こした行動は誰にとっても予想外だった。
「ご無礼お許しくだされええええええ!!」
突然その場にひれ伏し、地に頭を打ち付け、正座までおこなったことで一気に注目を集めてしまった。アリエッタもケイト王子も思いもよらない展開に目を丸くさせた。そして、スコットの行動に驚いていたのはローズも同様だったらしく、彼女は慌てて祖父を立たせようと必死になっていた。
「ちょ、ちょっと何をやっていますの、お爺様!」
「黙るがよいわ、ローズ!!遠い親戚とはいえ、初代聖女様の家名を引き継ぐ方ぞ!」
「で、でももう没落していますのよ!?」
「没落したからなんだというのじゃ!われら七賢人は初代聖女様に関する一切全てを引き受け、この国の礎となるべき定めを与えれた家。だからこそ・・・だからこそ、貴族としてここにいることを、そして我が一族の存在を許されておる!!しかも、この娘・・・いや、このお方は他国とはいえ、聖女!!そのお方を蔑ろにしてみろ!またあの悪夢の再来・・・いや、下手すれば今度はこの天球自体が女神様の怒りを買うことになるやも・・・」
そんなことは考えたくないとばかりに首をふるスコット。あっけにとられたローズだが、ケイトはようやくスコットの言いたいことを悟った。何もわからないアリエッタを他所にケイトはスコットの近くに座り、彼の耳に囁いた。
「・・・貴方の言いたいことは理解しました。それならば、協力していただけますね」
「う・・・うう、し、しょうがありませぬな」
「結構。では、ローズ様を連れて一時下がってくださいませんか。あとで話を聞きに伺いますので」
「・・・解ったわい」
「それと、面倒でもこれからは貴族図鑑を読んでおくべきでしたね。もし読んでいれば、間違いなく貴方はアリエッタに近寄らなかったでしょうから」
最後に熱烈な皮肉を叩き込んでから、ケイトは立ち上がった。会話に入れなかったアリエッタが拗ね気味だったのを見たケイトはなぜかアリエッタの頬を触り、いきなりキスしはじめた。当然ながらキスで固まったアリエッタは顔を赤ワインよりも真っ赤な色に染めた。
キスの後もほっぺをなでなでされている状態のアリエッタは突然の行動についていけずあわあわとしていた。
「・・・な、ななななな?」
「あ、やっぱりほっぺが柔らかいですね。そのまま項までキスして・・・むさぼ・・・」
「それ以上は禁句っヴううううう!!」
「ふふふ、やきもちで拗ねているとは可愛い子だね。でも大丈夫だよ、婚約者は君だけだし、君以外を妃にするつもりはないです」
(あ、これはケイト王子のパフォーマンスだわ。なんだ・・・ときめいて損した。)
一気に頭が冷えたアリエッタは一瞬にして、いつもの調子に戻った。はいはいとケイトをスルーし、空気に徹していたプリムとビビのところへ近寄った。アリエッタの突然の行動にあれと疑問に思ったケイトだったが、さほど気にはしていないらしい。
「アリエッタ、突然どうしたの?」
「別に、喉が渇いただけ。それに、もう貴族たちも近寄らないと思って」
「ああ、それもそうですね」
「うん、良かったですね」
「そうですね、これで面倒な貴族との挨拶も避けられましたし」
「逆に言うと厄介な貴族しか残ってないってことですよね」
「ええ、パーティーはまだこれからですし、よろしくお願いします」
「・・・・・・はい」
にこにこしているケイトと、眉間にしわを寄せているアリエッタ。対照的な二人の様子を一部始終見ていたビビとプリムは顔を見合わせてため息をついた。
「「うわぁ・・・・見事にすれ違っているよね(ますわね)」」
余談
そして、プリムたちが呟いたのと同時にアリアも全く同じことを呟いていたが、それを聞いていたのは夫であるザンのみ。
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「だとしたらどうするつもりなんだ?」
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