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27)皇太子の依頼
しおりを挟むプリム王子は感傷に浸っているケイトを一瞥して、ため息をついた。
「さて、アリエッタ殿。本題に入ろうか・・・ケイトはほっておいていい」
「あ、やっぱり目的があっていらしたんですね」
「当然だよ。ああ、魔術はかけておいた。周りにはたこ焼きについての話題に聞こえているはずだ」
「ありがとうございます。それで?」
「その前に、これは単独の依頼だっていうことは言っておくね。そこのたこ焼きバカにも言っていないことだから」
「は?つまり、個人的な依頼・・・?」
「うん、そうなるね。まあ、まずは話を聞いてほしい」
うんうんと頷くプリム王子の依頼が気になったアリエッタは思わず隣の椅子に座っていた。突然距離が近くなったことに焦ったのか、ケイトがさりげなくアリエッタの椅子の角度を変えた。
「で、どういう依頼なんですか?」
「アリア様の復帰パーティーが今度行われるのは知ってるよね?」
表向きは病気で静養していることになっていたアリア様だが、ようやく回復したので、民衆向けに完治したと知らせるのと同時に貴族たちに対しての公表を行うため、パーティーを盛大に行うことになっていた。
「あ、はい。私も招待状をもらったんで参加します」
「えっ、誰から!?」
「アリア様本人からです」
慌てふためいたケイトだが、アリエッタの言葉にばたんと机に倒れ込んだ。
「は、母上・・・いつの間に!!」
「ははは、出遅れてるね、ケイトってば。でも、お陰で話は早く済みそうだ」
「プリム、危険なことじゃないよね?」
「社交でのルールをわかっていれば、なんら問題ないし、彼女なら乗り切れるだろう」
もったいぶるプリム王子にしびれを切らせたケイトが口をはさんでくるが、当の彼は首を振った。
「ええと・・・何かなんだかさっぱりなんですけど?」
「単刀直入に言うと、恋人と婚約できるように協力してもらいたい」
「ふへ?どういうことですか?」
「ちょっと待って、プリムに恋人がいたなんて知らなかったんだけれど」
「当然だ、言ってないからね。・・・第一、君に知られたら影を通じて叔父上や父上にも伝わるじゃないか。そんなの面倒極まりないよ・・・はぁ・・・・」
「ああ、確かに・・・」
「でも、プリム王子であれば、選り取り見取りでは・・・」
「それがそうもいかない。貴族は身分や階級にこれでもかっていうぐらいこだわるから面倒なんだよ」
とんでもないとばかりに首をふるプリムに、ああ・・・と遠い目になったケイト。何やら思うことがあるのか、しばらく二人ともどんよりとした様子を見せていた。特にプリムはぶつぶつぶつと何やら物騒なことを呟いている。
「あのぴーちくやかましい貴族どもめ。大した功績すらあげていないのに、横やりだけは一丁前にいいやがる・・・くくく、本当にろくでもないやつらだ・・・いっそ全てを潰して首をすげ替えてやりたいぐらい」
「プリム、口調を改めなよ・・・まぁ、そういう意味なら確かにアリエッタは適任だね」
納得とばかりに頷いているケイトにアリエッタはどういうことだと首を傾げた。
「この国でも聖女は皇帝と同じぐらいの力を持っているからね。しかも、表向きは俺の婚約者になっていることもあって、女性の中では特に発言できる立場になれると思う。君が後押しすれば、いかなうるさい貴族も文句をいいながらも最終的には従うだろうね」
「そのとおり!だからこそ、君の協力がなんとしても必要なんだ。まぁ、文句は覚悟してもらわないといけないが、存分にやり返すといい。援護射撃はいくらでもしよう。」
「ええ・・・文句は言われるんですか・・・」
「だが、あいつらは最終的には黙らざるをえまい。ああ、そんな面倒と言いたげな君、この僕に抜かりなどない」
ニヤリとほくそ笑んだプリムがずいっと顔を寄せてくる。アリエッタも空気を読んで、同じように顔を近づけて、プリムの発言を促す。ケイト王子は面白くないとばかりに目を細めたが、突っ込む気はないのだろう、たこ焼きを食べながらひたすら傍観していた。
「と、言いますと?」
「当然、見返りや成功報酬を用意してあるとも!!!」
「それは本当ですか!?」
あまり社交ダンスやパーティーに乗り気ではないというのが一目瞭然だったのだろう、プリムはすぐさま別方向性からカードを切った。
「以前、ここへ来た時に、君はここが狭いからたこ焼き屋を改装して広くしたいと言っていただろう?」
「・・・もしや!」
「ふふふ、任せたまえ。このたこ焼き屋をより立派な建物にしてみせようではないか!もちろん、僕のポケットマネーからだ!」
「私、王子の熱い想いに胸を打たれましたわ!ぜひとも協力させてくださいませ!!」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると信じていたよ」
「当然です、たこ焼き屋のた・・・げふん、とにかく!私もプリム王子の愛の深さが貴族たちに伝わるよう頑張りますっ!」
「頼もしい!もちろん、力及ばずながら全力でフォローさせてもらうとも!ふふふ・・・」
「いえいえ、私がフォローされる側ですよ・・・ふふふ・・・」
握手しながら笑いあう二人に挟まれて座っていたケイトは小さくボソッと呟いた。
「はぁ、二人とも気が合ったようで何よりだよ・・・」
笑いあっていたアリエッタだったが、ふと何かを思い出して慌て出した。一体それにどうしたのかと王子達が聞くと、項垂れる様子を見せた。
「・・・私、ドレスを持ってないです」
「ああ・・・なんだ、そんなことか。大丈夫、とっくに手配済みだよ」
「えっ、どういうこと?」
「元々君を招待しようと思っていたからね。そのためにはドレスやらなにやらないと難しいと思ったから、事前にビビに用意するよう頼んでおいたんだよね」
「・・・ケイト王子、今、初めて貴方と知り合ってよかったと心から思いました!!」
解りやすくぱぁあああと顔を綻ばせるアリエッタ。彼女と裏腹にケイトは複雑な心境だった。思うことはあれど・・・初めてって・・・心からって・・・普段、彼女が自分をどう思っているかなんて知りたくもないとばかりにケイトは言葉をぐっと飲み込んだ。(非常に賢明な判断だったと思う。)
「はぁ、普段もこれぐらい喜んでほしいんだけれどな」
「それは無理です。あと、いい加減に食べるのやめてください」
「ああっ、殺生な~!」
それはそれこれはこれと言い切ったアリエッタとぎゃあぎゃあ騒いでいたが、最終的に負けたようで、ケイトは屍になっていた。
そこまでしてたこ焼きを食べたいかと遠い目になったプリムだが、気を取り直してアリエッタと頷きあった。
「そういえば、プリム王子の恋人ってどんな方なんでしょうか?」
「そりゃもう素晴らしく美人で可愛くて天使のようで・・・」
「あ、もう結構です。長くなりそうなんで遠慮します」
「ええ・・・まだ最初しかしゃべってないのに・・・話し足りない」
「俺も聞きたくないんで遠慮しますよ、自重してください」
「ケイトまで・・・はぁ・・・」
「また会った時にでも紹介をお願いします」
「必要ないよ、君らはもうすでに知り合っているから」
にこにこと笑っているプリムにケイトとアリエッタは思わず顔を見合わせた。
「ええ・・・一体誰なの・・・?」
プリム王子は教えるつもりがないらしい。そのかわりに、たった今気づいたといわんばかりに手を叩いた。話をそらされた気がしたが、王子の問いかけに応えないわけにはいかないとアリエッタは口を開いた。
「そういえば、どうして君はお店の手伝いをしているのかな?」
「ああ、もともと日中はたこ焼き屋さんの手伝いをしてもいいっていう条件でお城に泊まっているんです」
「ああ、そういうことか。ケイトもたまにお店するもんね・・・」
「そうだ、今日は一緒に帰れる?」
「あ、うーん。お父さんと話をしてから帰ります!」
「はぁ、いっつもつれないよね。夜は激しいのに~」
「ケイト王子・・・あることないこと言わないで下さいね!?あらぬ誤解をうけてしまうじゃないですか!?違う、違いますっ、ゲームの攻防のことですからね・・・って聞いてますか、プリム王子ぃいいいい!!」
ケイトの言葉に「おやおや?ふふふ」と楽し気な表情に変わったプリムが面白そうに離れ出す。誤解を受けていると分かったアリエッタは違う、違うとエプロンを外しながら必死に弁解してた。当のケイトはというとそのすきにたこ焼きをやっぱり頬張っていて。
遠くに消えていったプリム王子を追いかけることもできず、うなだれたアリエッタが涙目でケイトを睨みつけたのは必然で・・・・
「あー美味しい」
「ケイト王子・・・・・いい加減にしてくださいよ!!!」
その場にアリエッタの雷が落ちたとか落ちた落ちたとか・・・・・・もう終わろうか。
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