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25)たこ焼きは美味しいに決まってる
しおりを挟む「・・・・っていうことがございました」
「あはは、それは見てみたかったね」
アリエッタは久々にたこ焼き屋で店番をしていた。アリエッタの父は、小さいながらも屋台をもっており、隣にカフェスペースをおいて、お客様がそこで食べられるようにしている。
今日は、お忍びでプリム王子がやってきていたので、アリエッタが対応に駆り出されたというわけだ。
「・・・・ずいぶん仲がいいね?」
まぁ、当然というように、ケイトも一緒にいて、たこ焼きをほおばっているわけだが。
「ケイト、口まわりにソースがついてるよ」
「舐めとってくれるかな?」
「麗しの王子様、今すぐ婚約解消致しましょうか」
「・・・冗談なのに」
ボソッと呟いたケイトだが、アリエッタは無言でスルーしていた。冗談でも笑えないと維持表示をしておかないと図に乗るからね、この王子さまは。
二人のやり取りを眺めていたプリムはクスクスと笑っていた。こちらは優雅に一口ずつたこ焼きをつまんでいる。
同じ王子様でもこう違うのかとびっくりしてしまう。
「でも、マーティも相変わらずだね。さすが、君の弟だ」
「誉め言葉として受け取っておきましょう・・・あまり嬉しくないですが」
「可愛いじゃないですか・・・はい、エッグマヨネーズ味です」
眉間にしわを寄せているケイトに呆れながら、アリエッタは追加注文されたたこ焼きをテーブルに差し出す。すかさずケイトが一個かすめ取り、それに呆れつつプリム王子が一個食べていく。・・・対比が面白いとは敢えて言わない。(多分ケイトはいい顔をしないだろうし)
「そういえば、アリエッタも上手になったよね」
「え、何がですか?」
「ケイトを呼び捨てにするの。前あれほど嫌がっていたのに」
「・・・人間、逃げ出すためにプライドを捨てなきゃならないこともあるんです」
アリエッタはすんっと表情を打ち消し、棒読みで王子様に告げた。いきなり表情が変わったことにビクッと驚いたプリム王子だが、何かを察したのかケイトに視線をよこした。
「ははぁ・・・いろいろと駆け引きも大変だね?」
「ありがとうございます、プリム様」
「アリエッタ・・・俺は君に呼び捨てにされるのにかなりの時間を要したよ」
「はい、そうですね。それが何か?」
「なんで、プリムに対してはあっけらんと呼び捨てを許しているの?」
「プリム様には騙されていませんからね」
噛みついてくるケイトにあっさりと返事をすると、今度はケイトがそっと視線をそらし、無言になった。今更ながらにアリエッタが怒っている原因に気付いたようだ。
「ま、まさか、根に持っていた・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうでしょうね?」
「うん、持っていたんだね。ごめん、アリエッタ。もう何も言わないでおくよ」
海より深い怒りを感じ取ったケイトはため息をついた後、ようやく引きさがった。やっと納得してくれたかとうなずいているアリエッタをよそに、プリム王子はふーんと考え込んでいた。
(この二人、意外と面白いな。性格もわりと違うのに、けっこう良いカップルだよね。何より・・・ケイトが変わったのはこの子のおかげっていうんだから相当なものだよ。)
ケイトとは従兄弟同士ということもあり、プリム王子も幼い頃はケイトに手を焼いていた。賢くも残忍な考え方をするケイトについていけないと思ったのも一度や二度じゃない。三歳年上とはいえ、魔力はケイトのほうが上のため、なかなか抑えきれない。
そんな彼が、いきなり魔力を抑えるようになり、穏やかな様子でいるのを見た時は、思わずケイトをひっつかんで皇帝に面会を求めたぐらいだ。
(そうだよ、アリエッタちゃんをきっかけに人間らしくなったんだった、この子は。)
とはいえ、残忍さを表に出さなくなっただけで、裏では冷たい一面もまだある。だが、それは一般人は知らなくてもいいことだし、何より、敵に対する抑止力になるため敢えてスルーしている。
もちろん、ケイトもプリム王子の意図には気付いていた。だからこそ、総団長という地位に敢えて留まっているわけだが。
その当のケイトはというと、アリエッタに対して頭を下げていた。
「ええええ、もう新作はないの?1セット・・・いや、せめて三個だけでも!」
「ダメ、一人で10個も食べてるじゃない」
「あと一個で終わるから!!」
「青のりをつけて言わないで。それから何度も言わせないでね、ダメです」
「うぅううううう、なんで新作があるの教えてくれなかったの!日本の宝、明太子だよ?その明太子によく似た味があるだなんて!」
「・・・本当によくご存知ですね」
「アリエッタ、俺の母上が日本人だって忘れてるよね?!聖女だよ?」
「いや、わかっているんだけれど、なんだか詳しすぎるなぁって・・・」
「そんなことより、たこ焼きぃいいいい!!」
アリエッタは呆れているが、たこ焼きとなると一気に駄々っ子になるのを知っているプリム王子からしたらもう散々見慣れた光景だ。ケイトは小さいときからこうだったのだから。
(まぁ・・・アリエッタの言うことも間違っていない。だって、ケイトは・・・)
アリエッタとケイトの漫才まがいとなったやりとりを見ながら、プリム王子はお茶を飲み干した。懐かしい過去に思いを馳せながら。
(まさか、あの時にケイトがあんなことになるだなんて思っていなかったし。)
忘れようにも忘れられるはずがない。
あの忌々しい出来事のきっかけはほかならぬ自分だ。
もし、あの時にあの『鏡』を盗まなければケイトはああいうことにならなかった。
『うわっ!?』
『ケイトっ!?』
(突然、鏡に吸い込まれるように消えた従兄弟はある日、ひょっこりと泉から戻ってきた。)
『ケイト、良かった・・・って、どうしたんだ?!』
『・・・なんでも、ないよ。それより、父上に報告しなきゃならないことがある』
(ケイトは・・・あの時にどこへ行っていたのかを明かさなかった。でも、一つだけ覚えていることがある。彼が抱えていたのは、今まさに目の前にある“たこ焼き”だった。)
おそらく、ザン叔父上や父上はケイトがどこへ行って何をしていたのかをご存知なのだろう。だけれど、誰一人としてその時のことは一切口に出さなかった。ケイトが消えていたのは三日間というあまりにも短い時間。だけれど、その三日間はケイトにとって重いものだったのだろう。
その日以来、ケイトは、より、たこ焼きに執着するようになった。
「うう・・・アリエッタの鬼ぃ・・・」
「もう、いい加減にしてっ!!」
「やだ。せめて、アリエッタのぬくもりだけでも感じたい」
「なんでそういう方向へ行くの!!放してったら、あーもー、助けてくださいよ、プリム王子!!」
「だから、なんで、君はプリムにだけそうあっけらんと!」
ぎゃあぎゃあと喚く二人の戯言(?)を耳にしながら、プリムはピンクに染まっている空を見上げて呟いた。
「本当に平和だねぇ・・・」
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