【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

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22)取引の下に婚約成立

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揺れるカーテンの隙間から漏れた光に気付いたアリエッタはのろのろと起き上がった。
目を擦りながらも、自分の現状を思い出しては真っ赤になった。

「そうだ、ここ、店長の部屋だった」



(そして素っ裸なのは。ううぅ、思い出したくないよう。)


昨夜は散々だった。
結局一晩中、ケイトの舌と指の熱に浮かされ、涙をたくさん流した。喘ぐたびに出る涙をケイトがなめとってくれたが、それもまた思い出すたびに恥ずかしくなる。

「ん…やっ、やだぁ……こ、わい」
「大丈夫、怖くないからね?ほら、ね、指ちゃんと入っているでしょう?俺の指をおいしそうに飲み込んでいるんだよ、わかる?ここをもう少し広げたら、もっと気持ちよくなるからね?」
「…この慣れた手つきも、言い方も、全部、全部大嫌いっ!!もう放せぇええええ!!」
「あーうん、やっぱ面白いよね。そこで涙目になりながら絶叫するって、君らしいよ。でも、今は俺のターンだから諦めて」
「ふあっ!!や、だ、あ、あああっ!!!」
「そこで俺を拒絶しないから、好かれてる方かなと思ってしまうんだよ」
「ふあ…?」
「何でもないよ」

(確かに約束は守ってくれたよ、守ってくれたけれど・・・大事なものも失った気がする。)

はぁとため息をついて、自分の隣で寝ている店長をそっと眺めた。寝息が聞こえることからまだ寝ていることがわかる。こうしてみると確かに綺麗な顔立ちではあるのだ。ザン殿下と比べると線は柔らかいけれど、性格は見た目よりも最悪だ。


「うぅ、恋愛感情を持ってない(と思いたい)人に裸を見られるとは」


・・・アリエッタは一瞬考え込んだが、終わったことは仕方ないとばかりに首を振って、ベッドから降りようと身体を動かした。
シーツを動かそうと引っ張っていると、ガシッと右の足を掴まれた。犯人は言わずもがな、この部屋の主であるケイトだ。
アリエッタは驚きながらも、ケイトのほうを見ると、不機嫌な表情が目に入った。のそのそと起き上がり、髪の毛を書き上げている無駄なイケメンに思わずアリエッタは呟いた。

「無駄な色気はいらないんだけれど」
「何を言ってるかわからないけれど、俺を称賛しょうさんしてくれていることはわかったよ。ありがとう」
「ないないない、してませんからっ!!」
「そんなことより、どこへ行こうとするの。その身体で」

ケイトはアリエッタの腕をつかんで自分の懐へと引き寄せた。すっぽりとケイトのあぐらのところにおさまったアリエッタはケイトを見上げる形になった。眉間にしわを寄せて見上げると、ケイトが見下ろしてきた。

「えっと、シャワーを浴びようとおもってたんだけれど」
「そう。なら、後で連れて行ってあげる」
「へ?なんで、今はだめ…んっ~~!」

途中で言葉が途切れたのは、ケイトがアリエッタの顎を掴んで、唇を塞いできたからだ。深いキスを一度、二度、三度と繰り返す。アリエッタはケイトの舌とともに流れ込んでくる液体を飲み干しては喉を潤した。

「……何、これ?」
「美味しいでしょ、レモンスカッシュだよ。ビビが持ってきてくれたんだ、気が利くよね」
「ってことは、寝ているところを見たってこと?」
「うーん、正確には、俺が君の中に指を入れてかき回している時にやってきたんだけれどね」
「ぎゃああああ!!!!」
「うわっ!」

思わずケイトの顎に頭突きする形になったが、アリエッタとしては良しとしよう。顔が火照るほど恥ずかしい姿をさらけ出してしまったのだ、そう考えると頭突きぐらい可愛いものだ。

「痛いよ、アリエッタ」
「貴方が悪いんですよ!!それより、どうしてああいう行為におよんだのか教えてください」


(王子は腐っても王子で、しかも皇族だ。何も考えずに行動するような人ではないことは、仕事をする姿を見てきたからよくわかっている。何より…恋愛に溺れる人じゃない。)

アリエッタはあれこれといろんなことをされながらも冷静に考えていた。その鋭い指摘を聞いたケイトが思わず拍手してしまったほどだ。

「…さすが。誤魔化されないところも好印象だ」
「いいから、早くっ!」
「そうだね、簡単に言うと、婚約者扱いに慣れてもらおうと思ったからかな」
「はっ?」

あっけにとられているアリエッタをよそにケイトはクスクスと笑いだした。

「君は知らないだろうけれど、皇族の部屋はセキュリティが厳しくて、認証が必要になるんだよ。もちろん、聖女も例外なく必要だ。だけれど、君はそんな認証は一切してないだろう?」
「あ、うん。確かに」
「だけれど、例外がたった一つ存在する。それが、精霊の悪戯だ。この国では、精霊たちが、皇族の相手にふさわしいと思った人物を招き入れてもてなす習わしがあるそうだよ」
「え…」
「君も例外なく、精霊の悪戯に当たったわけだ。おめでとう。もう一つ驚くことを言うなら…」
「もう十分驚いているんだけれど!?」
「この部屋の隣に部屋ができてるんだよね。ほら、あそこの扉。前はなかったんだよ。あれって、精霊が作ったものなんだって。もう予想できていると思うけれど、君の部屋だ」

ケイトはそういうと、アリエッタを抱き上げたまま、問題の扉の前に立った。開けてごらんと促されて恐る恐る扉を開けると、そこはケイトの部屋とはまた違った部屋があった。
部屋をみたアリエッタは思わず棒読みで感心してしまった。

「わー、不釣り合いな畳がちゃんとアリマスネ」
「ほら、ね。やっぱり君の部屋だ。つまり、精霊たちはとっくに認めている。君が俺の婚約者に値すると。となると、後は周りを固めるだけ」
「ああ。事実既成を作るためだったと」
「正解。これで、否が応でも周りは認識せざるを得ない。君は他国の聖女のみならず、俺の婚約者であることを」

アリエッタは思わず拳を握り締めたくなった。自分の考えのなさ、迂闊うかつさを呪ったからだ。

「はぁ……忘れていましたよ、マシューからの忠告を」
「へぇ?何て言われていたんだい?」
「店長は腐っても皇族。この悪の巣窟を潜り抜けた猛者だから気をつけろと」
「……そこまで言われるとはね。まぁ、間違ってはいないけれど、褒められた気分はしないな」
「褒めてませんからね」
「怒らないんだ?」
「怒って現状が変わるならいくらでも」
「本当にそこらへんは思い切りが良いよね。でも、これで、君は教会の奥へ行けるよ」

ケイトに卸されて椅子へと座る。シーツ一枚でいるのは滑稽だが、無いよりはましだ。
ズボンをはいているだけのケイトはというと、椅子をアリエッタの前に置いて座りだした。

「どういうことなの?」
「この世界には、三人の女神を祭るための教会がある。もちろん、この国だって例外ない。その中でも、大地の女神の加護を受けた教会はかなり特殊で異世界の鏡があるともいわれている」
「異世界の…鏡?」
「そう、俺たち皇族でさえ噂でしか知らないんだけれどね。ただ、それは教会の本部の奥深くに祭られていて、特例を除けば誰も見ることができない。でも、例外がたった一つだけある」
「何、その例外って!?」
「皇族がらみの式の時だけ教会の中で公開される」
「なるほど、婚約者であれば、皇族に同行できる。つまり、私にもメリットがあるというわけですか」
「そういうこと。だから、取引成立でよいよね?」

にっこりと微笑む姿はやっぱり、かの聖女と瓜二つ。
何度目になるかわからない皮肉を込めて、アリエッタはケイトの首を引き寄せた。

チュ

「……あり、えった?」
「不本意だけれど、取引に応じましょう、腐れ王子様」
「素直じゃないねぇ。さて、シャワー浴びようか」

キスを一つ落としてびっくりさせることはできたものの、動じないケイトにちょっとイラっとする。それでも、アリエッタは信じてみようと思った。なんだかんだ言って、ちゃんと考えてくれている王子様を。


(・・・婚約だけだよね。きっと。それに、異世界の鏡というのも気になる。)


アリエッタを抱き上げる手があちこち弄るのに気づき、暴れるも、ケイトの唇に塞がれるのはこの後すぐ。・・・結局アリエッタはケイトと一緒にシャワーを浴び、ぐったりとした様子で再びベッドにインしましたとさ。





余談

お盆を持ったビビが何かを呟いているところに遭遇したマシューの不運

「ふぅ、任務達成ね。あとはメイドたちに命じるだけかしら」
「何をブツブツいってるんスか、ビビさん」
「ああ、マシュー。丁度良かったわ。少し言いふらしてきて頂戴」
「へ、何を?」
「ケイト様とアリエッタ様がついに結ばれた(ということにする)ようよ」
「……え……ええええええ?」
「じゃあ、お願いね。早くしないと、他の輩が煩くなるし…ああ、忙しい」


数秒固まった後、マシューは叫んだ。


「んなのありかよぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

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