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19)帰国と聖女との出会い

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19)帰国と聖女との出会い






アリエッタは目の前で起こっていることに理解が追い付かなかった。

「なんですか、あの光は」
「ああ、やっぱり少しは良い影響がでているみたいだね」

ブラパーラジュに向かう馬車から外を見てみると奥のほうに少しピンクがかかった空が見えている。唖然としていると、隣にいたケイトが当然とばかりに頷いていた。

「影響とは?」
「あれ、我が国の聖女の力については知らないんだっけ?」
「・・・・・・あ」

ケイトの疑問にようやく、アリエッタは父親から聞いたことを思い出した。

『この国にはね、女神さまが遣わした聖女様がいらっしゃってな、国の願いに応え、繁栄と平穏をもたらしてくださっている。最近は病気で表になかなかでていらっしゃらないから、現状はあまり芳しくないがね』

(あー、あれは比喩じゃなくて、文字通りの意味だったんだね。いや、わかっていたつもりだったけれど、本当に別世界なんだなぁ。)

「どうしたの、アリエッタ?」

静かになったことに気付いたケイトが話しかけると、アリエッタは我に返ったのか、首を振った。

「ねぇ、アリエッタ?」
「あ、ごめんなさい。ええと・・・あれは聖女様の力ですか?」
「そうだよ。まぁ、あれでもまだ一部ではあるんだけれどね。昔と比べたら全然薄いし。でも、もうアリエッタがいるんだから完全に呪いを解けることも期待できるよね」
「婚約の話をなかったことにしてくださるなら全然かまわ・・・むぐっ」

ぽつりといったアリエッタの口を塞いだのは当然ながら店長こと、ブラパーラジュの王子の一人であるケイト。
普段は魔呪符を扱っている店を経営しているため、店長さんと呼ばれることもあるが、正体を知っている人はごくわずかである。
そんな彼が、アリエッタの口を塞いだのは、父親であるザンに聞かれないようにするためだ。

「そういうことをここで言わないでくれるかな。あの父上のことだからやりかねない。言っておくけれど、あの人は本当にやるよ?母上以外には全くと言っていいほど執着がないから」
「よく生まれることができましたね?」
「それ、どういう意味なの・・・いや、言わなくていいよ。なんとなく意味は伝わったから。それに、どちらかというと、子どもを望んでいたのは母上のほうだね」
「子煩悩な方だったんですか」
「そうだね。父上も母上の望みは文句言いながらなんだかんだいって叶えてきた人だから、反対はしなかったみたい」
「そこの二人、聞こえているからな。ったく、もうすぐ着くから準備をしなさい」

ビクッと驚いている二人に呆れながらも、ザンは傍にいた部下に門を開くように命じた。あわただしい中、ようやく、国の中へと入っていく面々。
久しぶりに感じる空気にアリエッタは安堵を覚えた。いつの間にか馴染んでいたのだと驚くほどに。

「意外にもこの国に馴染んでいたんだなぁ。え、ど、どこに連れて行くの?え、ちょっとま・・・っ・・・!!!」


深呼吸して一人つぶやいている間にケイトが後ろから抱きしめてきた。アリエッタが慌てふためく間もなく、一瞬にしてその場から消えた。転移というやつである。



「だから、一言ぐらい言ってから、転移してください!」



巨大水晶のある庭にて正座させられているケイトとアリエッタを奇異な目で見ている周りだが、呆れたザンは放置するように命じた。傍にいたラティスが遠い目で何かを懐かしむように呟いた。

「なんだか思い出しますねぇ、昔のアリア様とザン様を」
「ラティス、それはどういう意味だ?」
「なんでもないっス。いやぁ、若いっていいですなぁ。しかし、そろそろやめさせたほうがよいのでは。ケイト王子の足も限界のようですし」

ラティスの言うように、ケイトは必死にアリエッタに懇願していた。さすがの王子も足のしびれには耐えられなかったようだ。

「わかった、わかったから!!今度から一言加えつけます!!だから、おねがっ・・・」

必死に説得したのが功をなしたのか、ようやくアリエッタの怒りが解けたとき、ケイトは屍のごとく、地面に伏していた。

「あれ、まだ30分ぐらいじゃないですか。もうちょっと説教してもよかったぐらいです」
「いや、勘弁して。30分でも長いよ」
「そうはいうけれど・・・・・・あれ?」

何かを言いかけたアリエッタだが、視線はケイト王子のほうを向いていない。水晶のほうに視線が向いていることに気付いたケイトはアリエッタに話しかけた。

「どうしたの?」
「いえ、なんだか妖精みたいなのが過ぎって‥なんだろう?」
「ああ、精霊か。そりゃ、この庭にはわんさかいるからいて当たり前だよ」
「え、でも・・・前にここに来た時にはいなかったですよ?」
「君が聖女としての意識を抑え込んでいたからだろうね。精霊達のほうは君に気付いていたらずらを結構していたけれど」
「いたずら?」
「そう。君の部屋に花があったりとか、朝になったら俺の部屋にいたりとかいろいろあったでしょう?大抵は精霊達の仕業だよ」

思いもよらなかった事実にびっくりしたアリエッタだが、思い返してみれば納得できるとばかりにため息をついた。どっと疲れがでるのは気のせいではなかろう。だが、ケイトの言葉尻には目ざとく気付いた。

「そうですか…って、ちょっと待ってください。大抵はっていうことは、店長さんがしたいたずらもあるわけですね?」
「さて、仕事をしてこようかな~ぎゃっ!」
「逃げないでください?」
「いやいや、もう正座は勘弁して!!とりあえず、今日はもう休憩ってことでね?この宮の中なら好きにしていいから!!じゃっ!」
「あっ!」

速足で逃げて行ったケイトの後ろ姿を恨めしくみていたアリエッタだが、気づけばあたりにいたのはビビとマシューとラティスだけだった。ザンもいつの間にかいなくなっている。

「あれ、ビビにマシューもいたんだね」
「そりゃいるだろう。おかえり」
「うん、ただいま?」

今頃気付いたとばかりにきょとんとしているアリエッタに呆れたマシュー。その横で笑ったのはラティスだった。

「あはは、アリエッタ殿は面白い。昔のアリア様を思い出しますな」
「えっと、ラティス様、何故こちらに?」
「ああ、ラティスと呼んで下って結構。多分長い付き合いになるでしょうから。それと、私がここにいるのは、アリア様の護衛担当だからですな」
「ああ、あの鳥かご。そうだ、あの精霊たちは鳥かごのほうへ向かっていきましたけれど、大丈夫なんでしょうか?」
「ええ。精霊にとっては影響がないみたいなので、好きにさせております。そうそう、ザン様からの伝言が。『早急にアリア様の呪いを解いてもらいたい。内容によっては条件を受け入れる』とおっしゃっておりました」
「ザン様は柔軟ですね」
「そりゃもう、皇族ですからね…と言いたいところですが、ザン様の人間形成はほとんどアリア様によるものです」

懐かしみながらも汗びっしょりで腕を組むラティス●●歳だが、周りからすれば何のことかさっぱりわからない。

「まぁ、とりあえず、自分のことはお気になさらず、お好きにお過ごしを」
「ええと、できるなら家に帰りたいんだけれどダメなんでしょうか?」
「心配無用。アリア様が目覚めれば、後は我々にお任せを。いかに王子といえども、ザン様相手であれば問題ございません」

にやりと笑ったラティスに少し引き気味だったアリエッタだが、すぐに思い直す。

(そうだ、この人はザン殿下の部下なんだった。そういえば、子飼いとかいるって言っていたから、情報漏れということもありえる。)

「とりあえず、アリア様を見てきます。ビビやマシューは?」
「私達は近づけないので、ここでお待ちしております」
「早く終わらせてこの城から出たい」

頭を下げる二人に何とも言えない表情を見せながら奥へと入っていくアリエッタは気付いていなかった。後ろで、ラティスがマシューに向かってとあるものを渡したのを。


「行ったか。マシュー、お前に仕事だ」
「はっ、はい?なんですか、これは」
「ザン様からの任命証だ。後からお前たちにも通達があるが、アリエッタ様が他国の聖女であることが明らかになった故、彼女に形だけでも護衛をつけねば、我が国の体裁がつかない」
「アリエッタ様が?!」
「そうだ。だから、お前が護衛につけ。ビビも彼女に対しては丁重にな」
「かしこまりました」

二人がラティスの言葉に息を飲んでいた頃、アリエッタは困惑していた。
鳥かごの前に立っていたはずが、真っ白い空間の中にいるのだ。歩けど歩けど終わりが見えないことに疲れてボヤキが止まらない。


「何にもないし。ここはどこよ?一応は皇宮の中のはずよね?」


ひたすらひたすら見回してもあたり一面は真っ白。途方に暮れていたその時、目の前に扉が現れた。


「えーと、これは開けろっていうことかな?罠かもしれないけれど、ここにいるよりよかはいいかな」


驚いたアリエッタだが、ここにずっといるよりはと思い、意を決してドアノブに手をかけた。
開けた先に見えたのは、一人の女性だった。
アリエッタが緊張しつつ、近づいていくと、彼女はお辞儀をしながら笑いかけてきた。



「初めまして、越田えつた莉愛りあちゃん。会えて嬉しいわ」


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