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10)慣れない生活
しおりを挟む「・・・んっ・・・またですか!!」
胸にあたる手の感触に目が覚めた。アリエッタが目を覚ました時、重みを感じることが最近増えている。その原因は言わずもがな、アリエッタを抱きしめているケイトが原因で。
今日も、ケイトの手が抱きしめる形でアリエッタの胸に当たっていた。ヒドイ時は強く掴まれるので、まだ今日は良いほうだろう。
「うう・・・起きて、起きて下さい!」
腕をどけることができれば、それが一番いい。だが、下手に動かすと、彼の手が胸や下半身の方にいったり、最悪、抱きしめられる。そうなる前に、ぺちぺちと頬を叩いて起こさなければいけないのが、やや面倒だった。
以前に起きた時なんかはしょっぱなから抱きしめられて。しかも、顔が胸の所にあったものだから動きたくても、動けず、思わず泣いてしまったことがある。後から起きてきたケイトが、必死にわざとじゃないと話してきたが、そういう問題じゃないと恨めし気な目で睨みつけた。
はっきり言おう。こういう時はやられる前にやる!しかない。例え、相手が皇族であろうとも、だ。
そういう覚悟ができてからは、遠慮なく叩きまくって起こせるようになった。
「あの時・・・後から慌てたケイト王子が、いろんなお菓子で機嫌を取ろうとしてきたっけね」
それにつられて、お菓子を食べまくった記憶があるだけに、少々後ろめたいところはある。しかし、ケイトでも気まずかったのか、そのことを蒸し返すようなことはなかった。
何度も叩きまくって、ようやく起きたケイトの両頬は赤くなっていた。これまた、アリエッタと同じ部屋で寝るようになってからよく見られるようになった表情である。
ケイトはというと、そんな日課になりつつある行動を気にした様子もなく、あっさりと挨拶を返してきた。
「ん・・・おはよう。今日も熱烈な起こし方だね」
「おはようございます。といいますかね、いい加減に私を客間から連れ出すのをやめてくれませんか」
「んー、君を連れ出しているのは俺じゃないから、何とも言えないな」
「じゃあ、誰が連れ出してると言うんですか?」
「・・・さぁ、ね」
肩を竦めつつ、洗面所に向かったケイトを訝しく思いつつ、アリエッタはベッドで座り込んでいた。頃合いとみたのか、ノックする音と同時に、ビビが入ってきた。
「おはようございます、アリエッタ様。着替えを持ってまいりました。湯あみはどうされますか?」
「ビビさん・・・なんで、私はケイト王子の部屋にいるんでしょうか」
「何ででしょうね・・・客間は2階ですし、王子の部屋は5階に・・・不思議なものですよね」
「やっぱり、店長が連れ出しているとしか思えないんだけれど・・・」
首を傾げながらも、アリエッタは納得していない様子。しかし、当のケイトは先ほど見たように、肩を竦めるだけで、何も言葉を発さなかった。そのため断定もできなかったし、事実確認も難しい。
ここに来てから一週間。
いつも朝はこんな風にケイトとやりとりすることから始まる。ビビとも、ここ最近のやりとりを経て、ようやく打ち解けるようになった。後から知ったのだが、初対面の際に紅茶に入れようとしていた白い粉は砂糖だったもよう。
アリエッタ様の警戒心を確認したかっただけで、特に、深い意味はなかったので・・・と言われて脱力したことは記憶に新しい。
アリエッタは、ビビから服を受け取って、ケイト王子の部屋にある小さな個室で着替えた。その間にケイトも着替えていたようで、すでに、席についていた。
テーブルの上に、美味しそうな朝ご飯が並んでいるのを見たアリエッタは慌てて席に着いた。
「スクランブルエッグ、ハム、パンに、牛乳やヨーグルトまで。相変わらず豪華ですね」
「そう?」
「そうですよ。我が家じゃパンと牛乳だけですし」
2人で食事をしながら、会話をしていると、テレビから思いもしなかったニュースが流れた。
『速報です。カルマリア国との国境で山火事があり、死体が2体発見されました。しかしながら、焼けていたことで損傷が激しく、身元が確認できないということです。また、警察は、身体についていた切り傷からして殺人事件とみています。身元確認のために服装と所持品を公開することで、皆様からの情報を募りたい考えです・・・続きまして、次のニュースです・・・・』
アリエッタはすぐにケイトの方に視線を向けた。ケイトの方でも、眉間に皺を寄せて難しい表情をしていたことから、アリエッタと同じ考えにたどり着いたのだと解る。
「・・・王子」
「うん。十中八九、カルマリア国の人間だろうね。しかも、切り傷があったとなれば、仲間割れかもしくは・・・」
「人質が反旗を翻したとかでしょうか?」
「そうだね。とりあえず、兵士をやって事実確認を行う必要がある。悪いけれど今日もここで大人しくしていてくれるかな。ルーフェン、支度を。直ぐに、軍の方の執務室へ向かう」
立ち上がったケイトはドアの近くにいた執事に向かって叫んだ。かしこまりましたという声と共に、礼をして消えていった執事を見届けたアリエッタはポツリと呟いた。
「いつの間に入ってきていたんでしょうか、あれほど気配を隠せる執事もすごいですね」
その呟きを聞いていたケイトは、ちらっとビビと目を合わせた後、アリエッタに話しかけた。
「それに気づいたアリエッタも結構すごい気がするけれどね・・・?」
「・・・・そうですか?」
「そうだよ。とりあえず、行ってきます。ビビ、彼女の相手を頼む。図書室の許可はすでにとってあるから問題ない」
「かしこまりました」
「・・・いってらっしゃいませ」
ケイトのツッコミには反応せずに朝ご飯を食べ続けていたアリエッタだが、ケイトが出る前には必ず目を合わせて見送ることにしていた。
「アリエッタ、もう一度言ってくれるかな?」
「え?い、いってらっしゃいませ・・・?」
「うん、なんかいいよね、新婚みたいなやりとりで」
「おとといきやがれですよ、この腐れ王子がっ!」
「ははは。じゃあ、いってきます」
ケイトの言いたいことを理解したアリエッタは顔を真っ赤にさせたが、ケイトはどこ吹く風で、手を振りながら、部屋を出ていく。
姿が見えなくなるまで見送っていたアリエッタは、ビビの方を振り返った。
「私も図書室の方に行っていいですか?」
「もちろんでございます」
「ごちそう様。そして行ってきますっ!」
善は急げとばかりに図書室へ向かって行ったアリエッタを見送ったビビは小さい声で呟いた。
「・・・ルーフェン様は、かつて騎士だった方。彼の気配を読み取れる人間など、そうそういないというのに、いとも容易く見破るとは」
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