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4)店長の適当なキスに怒る疑惑持ちの娘
しおりを挟む「私、一応、たこ焼き屋の娘なんですけどね?」
「それはもうよーく知ってるって・・・ほんと、美味しいな、コレ」
「呑気にたこ焼きを食ってないで、ちゃんと聞いてくださいよっ!」
アリエッタは机の上を叩きながら愚痴を言うが、当の店長であるケイトはのんきにたこ焼きを食べている。
しびれを切らせたアリエッタが、何を思ったか、窓を開けて、すうと息を吐いた。
「みなさーん、ここにおう・・・・もがっ!!」
アリエッタの意図に気づいたケイトはダッシュでアリエッタの傍に近寄り、手で口を塞いだ。
「もが……っ…なにを…!!」
「アリエッタ、俺が王子であることは内緒だってば!」
「だったらちゃんと話を聞いてください!」
ケイトはただの店長じゃない。魔法のランプで働いているがその実、この国の皇太子様のいとこにあたる王子様。普段は魔力を抑えることによって茶髪になっているが、生まれた時の色は父親譲りの紺色なのだそう。目の色も実は紫色で、これまた魔力を抑制していることにより、茶色になっている。
最近そのことを知ったアリエッタとしては複雑な思いでいっぱいなのだ。
実はアリエッタとケイトは初対面ではなく、かつて、アリエッタが誘拐されたときにケイトが助けた時に会っている。だが、当時の出会いは気まずいもので、しかもケイトは一切世間に出ていない王子ということもあり、なかなか出会う機会もなかった。
それがつい最近、再会することになり、しかも、聖女様の呪詛を解くためにと無理やりケイトの店で働かされることになった。
「もー、たこ焼き屋は暇じゃないんだよ?お父さんもお父さんだよね、ザン殿下にはお世話になっているからってあっさりと娘を売るだなんて」
「いやいや、売られてないからっ?!ちゃんと、給料だって支払ってるよ?!」
たこ焼きを食べ終えたケイトはそれだけはと訂正をしっかりと入れてきた。ケイトの言う通り、アリエッタはちゃんとした給料をもらって働いている。
働いてはいるが・・・本業とは違うので、やはり不満があるのだ。
ぶつぶつと文句をいいながらも、呪符を整理しながら補充していく。
「……アリエッタって文句を言う割にはちゃんと仕事してくれるよね」
「給料をもらっている以上、きちんとやりますよ。あれ、アレスさんだ」
カウンターで会計簿を付けていたケイトはアリエッタの仕事ぶりに驚いていた。さすがに店の看板娘というだけのことはあり、てきぱきと働いている。髪と目の色の変化を恐れて魔力を使えない自分としては助かる・・・と、ケイトが感心していたぐらいだ。
その時、ドアのチャイムがなり、いつもの彼がやってきたが、アリエッタの姿をみたとたん、目を細めた。これまたいつものことなので、察したアリエッタはすぐにお茶の用意をという口実で裏へと引っ込んだ。
「はぁ~お茶を用意してきます」
「あーうん、ごめん…で、どうしたんだ、アレス?」
「王子、本当に彼女と一緒におられるんですね」
嫌そうな顔を見せるアレスに対し、ケイトは開いていた会計簿でスパーンッと叩いた。
「そういう言い方はよせ」
「…申し訳ございません、我が君。ですが、私は許せません。せっかく王子が助けてやったというのに、あの彼女は王子に対して、怖かったからとはいえ、無礼なふるまいをしたのですよ?」
「彼女は悪くないだろう。そもそも、人を殺して笑うような子どもに怯えるのは当然のことだ」
アレスは不満に思うかも知れないが、ケイトとしてはアリエッタに感謝していた。
(本当にあの時にアリエッタの怯えを見なければ、自分が異常だということに気づけなかったからな。)
・・・魔法を使うのが楽しい時期ではあった。
攻撃も人殺しも当然のようにあっさりとやってのけるぐらい、魔法を遊び道具としか思っていなかった。
あの頃、ケイトは敵を潰すことで感謝されるだろうと思っていたし、人を殺してでも勝たなければならない戦い。戦いの中なら、魔法で人を殺めても、傷つけても、許される。それが当たり前の世界だと思っていたのだ。今までの大人たちはそれを喜び褒め称えたし、家族は人殺しにはいい顔をしなかったものの、ケイト自身が傷つくことなく、無事であることを喜んでくれた。
だから、強ければ強いほど当然のように感謝されるんだと思っていた。
『やっ…こわ、い。なんで燃やせるの。そんな、簡単に。それ、じゃ…あ…か…ない……っ……!』
・・・彼女の言葉全てを覚えているわけじゃない。だけれど、アリエッタが怯えていたことは確かだ。
「しかし!」
「お前は俺より年上の癖にバカだな。あのアリエッタの言葉のお蔭で俺は人間のままでいられたんじゃないか。あのまま戦いを楽しんでいたら完全に暴君に等しいサイコパスか、もしくは、貴族に祭り上げられて皇太子と争うようなバカになっていたよ」
あれ以来、ケイトは、両親に相談して、魔力は抑えて出来るだけ魔法を使わないようにして、公式の場でも姿を出さないようにした。そして、姿を変えて市民の暮らしを見たり、体験したりすることによって、人の気持ちを考えられるようになったと思っている。
「納得いきません」
「お前な」
「お取込み中失礼しまーす、粗茶ですが、どうぞ」
よいタイミングで、アリエッタが姿を見せてお茶をカウンターに置いてきた。眉間に皺が寄っているももの、アレスはそれを一気に飲み干し、アリエッタを睨みつけた。
「…いい気になるな、例え、我が君がお許しになろうとも、俺がお前を許さない」
真正面からアレスの怒りを感じ取ったアリエッタは、何故か微笑んだ。唖然としているケイトの目の前で、アリエッタはアレスに向かって堂々と言ってのけた。
「過去のことは、私とケイト王子殿下の問題であり、貴方の問題ではありません。そして、私の無礼なふるまいについては、王子に対して誠意を込めていくらでも謝罪いたしましょう。ですが、貴方に許されたいとは全然思いません。どうぞ、お引き取りを」
「なっなっ………!!」
「あと、次は呪符かたこ焼きを買ってくださいねー。毎回毎回王子にだけ会いに来るなんて時間がもったいない上に愛がたりませんよ~~」
わなわなと震えながらもアレスは怒りでおもいっきり音を立てて出ていった。アリエッタはため息をつき、ケイトに向かって頭を下げた。
「少々言葉が過ぎました。申し訳ございません」
「いや…くっくく。面白かったよ、アリエッタ。本当に面白いよなぁ、君は」
「そう言われると、尚更、謝りにくいんですが」
「だから、謝らなくていいんだってば。それより、いい加減敬語は止めたら?」
けらけらと笑うケイトだが、当のアリエッタは納得できないのか、少々困った顔になっている。
「そうはいきませんってば。そこは王子である自覚を持ってください」
「んー、なら…」
呆れながらも、座って呪符の整理に戻っていたアリエッタだが、いきなり上から手が伸びてきたことに驚いた。
「え・・っ・・・」
アリエッタが、顎を掴まれて上を向いたと思ったら、ケイトの唇と重なった。目をパチクリさせている間にも、ケイトと目が合ったが、止める気配は微塵もない。ようやく、唇が離れた後もアリエッタは呆然と固まっていたが、当のケイトは何事もなかったようにカウンターに戻っていった。
「とりあえず、これから一回でも敬語を使ったらキス1つな」
ようやく頭の中を整理できたアリエッタはギギギと、ありえない音を立てて振り向く。
レジのお金を確認しているケイトの耳を掴み、思いっきり深呼吸した後、盛大に叫んだ。
「何やってんですか、このバカ王子!!!!!!!!」
盛大に響き渡った声が漏れなかったのは店に防音魔法がかけられていたからに他ならない。
「王子、そこにお座り」
「うう…ちょっと、待って、まだ耳が痛い」
「何故、私がキスされなきゃならないんですか?」
「んー、好きだからってことにしてほしいな?」
「一発殴らせてください」
「なんでっ?」
「いくら、私でもそれが本心からじゃないことぐらいわかります」
アリエッタの言葉に目を丸くしたケイトは頭を掻きながらため息をついた。アリエッタの言葉通りだと認めたも当然だ。
「……よく解るね」
「そういう嫌なところは皇弟ザン・トーリャ殿下と同じで皇族の悪い癖ですよ。悪いですけれど、貴方や皇族に一方的に利用されるつもりは一切ありません。ムカつくので今日はもう帰らせていただきます」
頭を下げたまま出ていったアリエッタの後ろ姿を眺めていたケイトだったがすぐに振り返って、一点を睨みつけた。
「何の用でここにいる、カース?」
「お取込み中の所、申し訳ございません」
「……面白いだろう、あの子」
「本当に、良くも悪くも素直な方でございますね。アレスもたじたじしておりましたな」
「すごいよね、あの子。再会してからも俺の概念ぶち壊しだよ。本当にあの子と一緒にいると、毎日が楽しくてたまらない」
クスクスと笑ったケイトに対して、カースは安堵した表情を見せた。
「・・・アレスは怒っていますが、私はケイト様があの子と出会えてよかったともいますよ。あの子と出会ってからは、目つきがたいぶ和らいで、子供らしさが見える様になりましたし、アリア様もホッとしておられました。」
「言うな、あれはもう忘れたいぐらい嫌な思い出になっている。」
ばつが悪いとばかりに顔を背けたケイトだったが、ふと話を逸らされていることに気づき、慌ててカースを睨みつけた。
「って、こんな話じゃない。お前は父上の護衛があるだろう、どうしてこっちに?」
「はぁ、私が言ったことは内緒でございますよ。ザン様に頼まれて、アリエッタさんの監視を行っております。まぁ、この店にいる間だけではございますがね」
「どういうことだ?」
護衛なら解るが、何故監視を?と、聞いたケイトだったが、カースの口から出てきたことは予想外だった。
「アリエッタの素性が解らない?いや、ルアーの娘だということはすでに解っているだろう?」
「はい、世間的には、ですな。ですが、イロイロと調べた限り、養女の可能性が高いのでございます」
「養女だって?」
「ええ。ある時、ルアー夫妻が突然連れてきたとか。その後すぐに引っ越してしまったので詳しいことは解らない・・・と、以前の住処の近くにいた人間は口を揃えて言っております。故に、あの子が養女に来る前のことは一切不明です。なので、その事情も含め、監視せよと」
カースの言葉に納得が言ったケイトは腕組をしながらも、思案していた。
「アリエッタも警戒対象だと、父上は思っているわけだな」
「御意」
「へぇ、俺から見たらそうは思えないんだけれどな、初々しかったし」
「おやおや、皇族以外の人間を一切信用しないと言われていた貴方がでございますか?」
「彼女は、真っすぐに言葉を選ばずに素直に言ってくる。お蔭で、裏を見る必要がないっていう点では凄く俺好みだ。だから、好きだっていう気持ちも嘘ではないな。でも、やっぱり恋愛対象じゃないとダメみたいだ」
「ケイト様。」
「正直、恋愛も結婚も恐いからあまり考えたくはないことだが、皇族としてはしないわけにはいかないよなあ」
それでもしなければいけないとはわかっている。それこそが皇族の義務だとケイトはよく理解していた。正直にいえば、結婚をしたい気持ちがないわけじゃない。とはいえ、怖いという気持ちも捨てきれない。
それは、ケイトがずっと見てきた両親を見て思ったことだった。
「お前も父上を見てわかっているだろう?あれほど仲が良かった夫婦だからこそ、絶望も深い。母上が意識を失った後の、父上の憔悴振りを、変貌を。俺も、誰かに本気になったらああなるのかと思うと、怖い。大事な人が壊れるのを見ていく恐怖も、自分が壊れていく恐怖もとてもじゃないけれど…」
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「まぁ、とりあえず、私はザン様に報告してまいります」
「ああ、ご苦労。父上によろしく」
「かしこまりました。では失礼いたします」
転移魔法で消えていったカースを見送った後、ケイトはカウンターの席に座り、肘をついた。
「アリエッタが養女ね……」
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