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(次世代)お嬢様と彼の関係
1)ヒロインは執事と出会う
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※琴葉シリーズの次世代の話となります。
「ごきげんよう」
「おはようございます、お嬢様方」
(ああ、入学式当日から動く羽目になるだなんて面倒なこと)
ここは『私立聖彗蓮ライム学園』。裕福な名家の子ども達が通う名門高校。私はそこに通っている高校1年生の森野寧々。森野家の三女として生まれたため、この学校のレディ養成コースに入らねばならない。
(まぁ、これも森野家に生まれた以上、仕方がないことなのだけれど)
このコースで一番憂鬱なのは、執事養成コースに通う男子生徒とペアを組んで授業を受ける必要があるということ。
この学園ではお嬢様と執事が揃って授業を受け、お互いにパートナーとして補い合いながら3年間過ごしてから卒業する必要がある。
そして、自分で執事にしたい相手を選ぶことができるが、4月の入学式の次の日から授業が始まるので入学式当日中に契約しないと間に合わない。
当然、契約が不可能な場合は授業に支障が出るし周りから色々といらない注目を受けるはめになる。もっとも、ほとんどの子女は前もってその情報を把握しているので、入学式の前に取引を行っている家が多い。中には執事を不要としないという旨を学園に提出し、特例で一人で受けている生徒もいる。この場合、レディ養成コースから外れて就職・進学コースに行くことになるが、就職先はいずれも大企業なので内定率は100%となっている。
話がそれたが、レディ養成コースに入った寧々も執事を必要とする。幸いにして姉が同じ学校にいたということもあり、父が前もって対処策を授けてくれていた。
『寧々、入学式の日にP-1組の黒川君と契約しておいで。黒川家は代々城野宮家の執事の仕事をしている。だから、彼も小さいころから働いていてかなり手慣れているよ。もちろん、不器用な寧々のフォローも頼んでおいたから安心しなさい』
・・・余計な一言を言った父の腹に一撃食らわせたことは後悔していない。
入学式が終わった後、寧々が母親ゆずりのおろした縮れ髪を揺らしながらP-1組の教室に向っているのは黒川君という子に会うためだ。
廊下には他のお嬢様達も集まっていた。おそらく、自分と同じように契約をするために執事コースの生徒を見に来ていたのだろう。
(まぁ、なんて姦しい人達。彼らのほとんどは入学前に契約が決まっている場合が多いから多分断られるでしょうね)
さて・・・と教室の入り口からそっと覗くと割と綺麗な顔立ちの子息達がちらほら見えた。執事を希望しているとはいえ、この学園の学費からして名家の子しか入れないのは明らかだ。だから、執事の立場になる子であってもかなり有力な家の子なので決して見下さないようにと父が教えてくれた。
(・・・我が家にいる執事に話を聞くと、黒川家の執事はかなり有名だった。特に、今は隠居しているという黒川達郎という人が執事のモデルの見本と言われるほど徹底した人で、様々な教え子をたくさん輩出したとか。その人の孫というからにはきっとできる人なんだろうなぁ)
教室を見回しても顔を知らないのでどの人かわからない。思い切って声をかけることにした。
「失礼します。森野寧々と申しますが、こちらに黒川君はいらっしゃいますでしょうか」
すこし声を張り上げると、窓際にいた二人がこちらの方に向かってくるのが見えた。一人は黒髪に少し茶がかかった黒目。もう一人は茶毛に黒目で眼鏡をかけている。
困惑した私を他所に、黒髪の方の人がそっと手を差し出してきた。
「はじめまして、森野様。史貴と申します。どうぞよろしくお願いします」
「お、同じく、壱岐です。不束者ですが誠心誠意お仕えします」
「えっと、お二人とも黒川家の方でしょうか」
「そうですね、小さいころから一緒に城野宮家で働いています」
「そうだったんですの。でも、執事は一人だけでは・・・?」
「森野様からは不測の事態のために二人つけて欲しいと聞いております。そのため、基本的には私がお仕えいたしますが、万が一のために壱岐も傍につく形となることを何卒お許しください」
私の手を触れるように握るその様に卑しさは感じられないし、丁寧にお辞儀もして誠意を見せているあたり好感が持てる。
とはいえ、このように手を触れられることにはドキッとする。思わず手を引っ込めて大丈夫だと頷いてしまっていた。胸の動悸を抑えながらも、なんとかお嬢様らしく微笑むと二人もありがたいとばかりに再度お辞儀していた。
「えっと、じゃあよろしくお願いします」
「ありがとうございます、森野様」
(とりあえず、帰ったらお父様に文句を言わなければ・・・)
少し話した後、とりあえずは細かい契約や自己紹介は明日からということでこの日はさっさと帰ることにした。
「お父様、お二人もつけるだなんて聞いてませんわ」
「それはどういうことだ。一人だと聞いていたんだが・・・名前は?」
「あ、黒髪のほうが史貴さん、茶髪に染めているほうが壱岐さんとおっしゃっていました」
名前を明かした途端、お父様がコーヒーを吹き出し、私の大事なスカートを汚してくれた。あっけにとられるも、スカートの汚れを見た私の目には怒りと悲しみが溢れだした。しかし、当の父は慌てたようにどこかに電話をかけ出した。
「おい、どういうことだ、巽!」
何やら騒いでいるが私としてはお気に入りのスカートが汚れてしまったことの方が大事だ。父に一撃お見舞いしたい気持ちがあったが、執事のとりなしもあり諦めて父の書斎を出た。
「もうっ、お父様ったら」
「あら、寧々じゃない。どうして怒っているのよ」
「奈々姉様、莉々姉様…。さっきお父様にお気に入りのスカートを汚されたばかりで」
「まぁ、お父様にしては随分慌てていらっしゃったのね」
「ええ。どうも私に仕えることになった執事達のことが気になっていらっしゃるようなの」
ばったり出くわした姉達に父に話したことと同じことを話すと、珍しく目を見開いてあっけにとられていた。あれ、どういうことなの?もしかして私だけ知らない何かがあるのかな。
「・・・奈々姉様、どうされましたの」
「あ、ごめんなさいね。そう、あの子が・・・でも、寧々にとってはいい機会かも」
一番上の姉がため息をついた時、寧々の後ろに誰かが体重をのっけてきた。こんなことをする人はたった一人しかない。二番目の姉である莉々姉様だ。ちなみに、莉々姉様は私と入れ違いで学園を卒業して大学生になったばかり。
「莉々、寧々が困っているからおやめなさい」
「はいはい。でも年齢的には問題ないんじゃ?」
「でも、あの子がわざわざよ?父もびっくりされたみたい」
「えっ」
それを聞いた莉々は・・・驚くというより、苦々しい顔で眉間に皺を寄せていた。
「・・・まさかあの子が」
「やっぱりあなたも驚くわよね」
「そういえば、寧々はあの家に行ったことがないんだったわ」
「でもいい勉強になると思うのよね。いろいろと」
「ああ、それでいい機会かもって言っていたのね。まぁ、大丈夫じゃない?これがあいつだったら最悪だったけれど、あの子なんでしょ。だったら問題ないと思うのよ」
「・・・それについては同意するわ。とりあえず、寧々は頑張ってね」
姉二人が神妙な顔で肩を叩いてそそくさと離れていった。コレ、喜ぶべきこと?それとも何かの前触れ?
(とにかくもスカートの染みは落ちそうもないからプロに任せよう。そして、明日学校であの二人をなんとかして把握しなければ)
余談
黒川達郎が引退した後の城野宮家は黒川の長男である太郎が執事長を引き継いで切り盛りしている。彼は玄関で学園から帰ってくる予定の小さなご主人様と息子を待っていた。
城野宮家の名を継ぐ男は、代々『黒川』の名を使い、身の危険を防ぐのが習わし。
そのため、小さなご主人様は高校を卒業するまでは『黒川』の名で学園に通う必要がある。(戸籍は城野宮家のまま)
当然、護衛のために歳が近い本物の『黒川』も侍っている。つまり、『黒川』は代々、城野宮家の影武者の役割も果たしているわけだ。こちらは年齢的に執事長の息子が担当している。
車が到着したので、ドアを恭しく開けると、制服を着た男の子二人が降りてきた。
「おかえりなさいませ・・・おや、面白そうなことでございましたか」
「ただいま。そう見えるの?いつも通りだと思うよ」
「いやいや、あのお嬢様が知ったらびっくりされると思いますよ」
「学校では〝黒川の姓〟で通しているのだからしょうがないでしょ」
「その様子だと、無事に『婚約者』に会えたようで、何よりでございました」
しれっとカマをかけてみると、彼は一瞬足を止めて振り返った。
「・・・何のことかわからない。それより、父上に電話をしたいから先に着替える」
我が小さなご主人様が珍しく父親を求めたことにおやと思う。息子も目を丸くしている。お互いに目配せしあい、これは珍しい変化だと思った。
これからこのご主人様が学園を通してどのように変化していくか・・・とても楽しみですね。
「ごきげんよう」
「おはようございます、お嬢様方」
(ああ、入学式当日から動く羽目になるだなんて面倒なこと)
ここは『私立聖彗蓮ライム学園』。裕福な名家の子ども達が通う名門高校。私はそこに通っている高校1年生の森野寧々。森野家の三女として生まれたため、この学校のレディ養成コースに入らねばならない。
(まぁ、これも森野家に生まれた以上、仕方がないことなのだけれど)
このコースで一番憂鬱なのは、執事養成コースに通う男子生徒とペアを組んで授業を受ける必要があるということ。
この学園ではお嬢様と執事が揃って授業を受け、お互いにパートナーとして補い合いながら3年間過ごしてから卒業する必要がある。
そして、自分で執事にしたい相手を選ぶことができるが、4月の入学式の次の日から授業が始まるので入学式当日中に契約しないと間に合わない。
当然、契約が不可能な場合は授業に支障が出るし周りから色々といらない注目を受けるはめになる。もっとも、ほとんどの子女は前もってその情報を把握しているので、入学式の前に取引を行っている家が多い。中には執事を不要としないという旨を学園に提出し、特例で一人で受けている生徒もいる。この場合、レディ養成コースから外れて就職・進学コースに行くことになるが、就職先はいずれも大企業なので内定率は100%となっている。
話がそれたが、レディ養成コースに入った寧々も執事を必要とする。幸いにして姉が同じ学校にいたということもあり、父が前もって対処策を授けてくれていた。
『寧々、入学式の日にP-1組の黒川君と契約しておいで。黒川家は代々城野宮家の執事の仕事をしている。だから、彼も小さいころから働いていてかなり手慣れているよ。もちろん、不器用な寧々のフォローも頼んでおいたから安心しなさい』
・・・余計な一言を言った父の腹に一撃食らわせたことは後悔していない。
入学式が終わった後、寧々が母親ゆずりのおろした縮れ髪を揺らしながらP-1組の教室に向っているのは黒川君という子に会うためだ。
廊下には他のお嬢様達も集まっていた。おそらく、自分と同じように契約をするために執事コースの生徒を見に来ていたのだろう。
(まぁ、なんて姦しい人達。彼らのほとんどは入学前に契約が決まっている場合が多いから多分断られるでしょうね)
さて・・・と教室の入り口からそっと覗くと割と綺麗な顔立ちの子息達がちらほら見えた。執事を希望しているとはいえ、この学園の学費からして名家の子しか入れないのは明らかだ。だから、執事の立場になる子であってもかなり有力な家の子なので決して見下さないようにと父が教えてくれた。
(・・・我が家にいる執事に話を聞くと、黒川家の執事はかなり有名だった。特に、今は隠居しているという黒川達郎という人が執事のモデルの見本と言われるほど徹底した人で、様々な教え子をたくさん輩出したとか。その人の孫というからにはきっとできる人なんだろうなぁ)
教室を見回しても顔を知らないのでどの人かわからない。思い切って声をかけることにした。
「失礼します。森野寧々と申しますが、こちらに黒川君はいらっしゃいますでしょうか」
すこし声を張り上げると、窓際にいた二人がこちらの方に向かってくるのが見えた。一人は黒髪に少し茶がかかった黒目。もう一人は茶毛に黒目で眼鏡をかけている。
困惑した私を他所に、黒髪の方の人がそっと手を差し出してきた。
「はじめまして、森野様。史貴と申します。どうぞよろしくお願いします」
「お、同じく、壱岐です。不束者ですが誠心誠意お仕えします」
「えっと、お二人とも黒川家の方でしょうか」
「そうですね、小さいころから一緒に城野宮家で働いています」
「そうだったんですの。でも、執事は一人だけでは・・・?」
「森野様からは不測の事態のために二人つけて欲しいと聞いております。そのため、基本的には私がお仕えいたしますが、万が一のために壱岐も傍につく形となることを何卒お許しください」
私の手を触れるように握るその様に卑しさは感じられないし、丁寧にお辞儀もして誠意を見せているあたり好感が持てる。
とはいえ、このように手を触れられることにはドキッとする。思わず手を引っ込めて大丈夫だと頷いてしまっていた。胸の動悸を抑えながらも、なんとかお嬢様らしく微笑むと二人もありがたいとばかりに再度お辞儀していた。
「えっと、じゃあよろしくお願いします」
「ありがとうございます、森野様」
(とりあえず、帰ったらお父様に文句を言わなければ・・・)
少し話した後、とりあえずは細かい契約や自己紹介は明日からということでこの日はさっさと帰ることにした。
「お父様、お二人もつけるだなんて聞いてませんわ」
「それはどういうことだ。一人だと聞いていたんだが・・・名前は?」
「あ、黒髪のほうが史貴さん、茶髪に染めているほうが壱岐さんとおっしゃっていました」
名前を明かした途端、お父様がコーヒーを吹き出し、私の大事なスカートを汚してくれた。あっけにとられるも、スカートの汚れを見た私の目には怒りと悲しみが溢れだした。しかし、当の父は慌てたようにどこかに電話をかけ出した。
「おい、どういうことだ、巽!」
何やら騒いでいるが私としてはお気に入りのスカートが汚れてしまったことの方が大事だ。父に一撃お見舞いしたい気持ちがあったが、執事のとりなしもあり諦めて父の書斎を出た。
「もうっ、お父様ったら」
「あら、寧々じゃない。どうして怒っているのよ」
「奈々姉様、莉々姉様…。さっきお父様にお気に入りのスカートを汚されたばかりで」
「まぁ、お父様にしては随分慌てていらっしゃったのね」
「ええ。どうも私に仕えることになった執事達のことが気になっていらっしゃるようなの」
ばったり出くわした姉達に父に話したことと同じことを話すと、珍しく目を見開いてあっけにとられていた。あれ、どういうことなの?もしかして私だけ知らない何かがあるのかな。
「・・・奈々姉様、どうされましたの」
「あ、ごめんなさいね。そう、あの子が・・・でも、寧々にとってはいい機会かも」
一番上の姉がため息をついた時、寧々の後ろに誰かが体重をのっけてきた。こんなことをする人はたった一人しかない。二番目の姉である莉々姉様だ。ちなみに、莉々姉様は私と入れ違いで学園を卒業して大学生になったばかり。
「莉々、寧々が困っているからおやめなさい」
「はいはい。でも年齢的には問題ないんじゃ?」
「でも、あの子がわざわざよ?父もびっくりされたみたい」
「えっ」
それを聞いた莉々は・・・驚くというより、苦々しい顔で眉間に皺を寄せていた。
「・・・まさかあの子が」
「やっぱりあなたも驚くわよね」
「そういえば、寧々はあの家に行ったことがないんだったわ」
「でもいい勉強になると思うのよね。いろいろと」
「ああ、それでいい機会かもって言っていたのね。まぁ、大丈夫じゃない?これがあいつだったら最悪だったけれど、あの子なんでしょ。だったら問題ないと思うのよ」
「・・・それについては同意するわ。とりあえず、寧々は頑張ってね」
姉二人が神妙な顔で肩を叩いてそそくさと離れていった。コレ、喜ぶべきこと?それとも何かの前触れ?
(とにかくもスカートの染みは落ちそうもないからプロに任せよう。そして、明日学校であの二人をなんとかして把握しなければ)
余談
黒川達郎が引退した後の城野宮家は黒川の長男である太郎が執事長を引き継いで切り盛りしている。彼は玄関で学園から帰ってくる予定の小さなご主人様と息子を待っていた。
城野宮家の名を継ぐ男は、代々『黒川』の名を使い、身の危険を防ぐのが習わし。
そのため、小さなご主人様は高校を卒業するまでは『黒川』の名で学園に通う必要がある。(戸籍は城野宮家のまま)
当然、護衛のために歳が近い本物の『黒川』も侍っている。つまり、『黒川』は代々、城野宮家の影武者の役割も果たしているわけだ。こちらは年齢的に執事長の息子が担当している。
車が到着したので、ドアを恭しく開けると、制服を着た男の子二人が降りてきた。
「おかえりなさいませ・・・おや、面白そうなことでございましたか」
「ただいま。そう見えるの?いつも通りだと思うよ」
「いやいや、あのお嬢様が知ったらびっくりされると思いますよ」
「学校では〝黒川の姓〟で通しているのだからしょうがないでしょ」
「その様子だと、無事に『婚約者』に会えたようで、何よりでございました」
しれっとカマをかけてみると、彼は一瞬足を止めて振り返った。
「・・・何のことかわからない。それより、父上に電話をしたいから先に着替える」
我が小さなご主人様が珍しく父親を求めたことにおやと思う。息子も目を丸くしている。お互いに目配せしあい、これは珍しい変化だと思った。
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