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8)琴葉と『義妹』と『友人』

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電車とバスを乗り継いでようやく、木下大学に着くことができた。小百合さゆりは初めての大学にテンションが高ぶっていた。大学の玄関に着いた時に見えたたくさんの模擬店や溢れかえる人達に驚いたのも無理ないこと。

「わぁ・・・凄い人気ですね。ここが姉様の通っていらした大学ですの?」
「ええ。木下大学は女子大学だけれど、今日ばかりは一般人も出入りできるから、男性もけっこう出入りしているわね。」

小百合は琴葉の表情が和らいでいるのに気づいた。もしかして、兄がいない時は結構表情が豊かなのかな・・・と思った時、右方向から琴葉を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、女性が2人、手を振りながら向かってきていた。

「琴葉っ!」
「久しぶり~~っ!!」
智花ちか!それに、恵未めぐみちゃんも二週間ぶりだね!!」

恐らく琴葉の言っていた友人なのだろうと思うと、琴葉がいきなり走り出し、2人に抱きついた。
久々に出会えた友人に対して嬉しそうに笑っているその様子を見た小百合は、納得したように微笑んだ。

「大学では楽しく過ごせていましたのね、良かったですわ・・・。」

我に返った琴葉が慌てて小百合の前に友人を並ばせて紹介してくる。智花も恵未も、可愛らしい小百合の礼儀正しさに感嘆しながら笑顔を見せてくれた。

「わー、可愛いじゃん!!これがあのバカ男の妹とかありえん!!!あ、あたしは牧戸まきど智花!よろしくね。」
「ほんと、信じられないよね。私は武藤むとう恵未よ。よろしくね、小百合ちゃん。」
「・・・・愚兄がご迷惑を。城野宮小百合と申します。今日は勝手についてきて申し訳ございません。一日どうぞよろしくお願いいたします。」
「うわー礼儀正しい! でも、あまり固くならないでね?あのバカ男みたいな言い方は論外だけれど、小百合ちゃんは気を使いすぎだよ、もうちょっとフランクにいこうっ☆」
「あのたつみさんだっけ?あの人もこれぐらい可愛げがあったら良かったのに・・・。」

・・・この2人の言い方だけで、兄とどういう出会い方をしたか想像がついてしまう小百合だったが、敢えて口にしなかった。改めてお辞儀をしあった小百合と友達2人にほっとしながら、琴葉は大学の敷地内に入ろうと促す。

「じゃ、行きましょうか!!」
「よっしゃー、今日は食べるぞ!!」
「いろいろあって迷いますわね。」
「さしあたり、奥の方から周りながら少しずつ制覇していくっていうのはどうかしら?」
「「「賛成(ですわ)―!!」」」

恵未の提案に全員が頷き、奥の方へと進んでいく。お腹がすいている今のうちにがっつり食べようということで、焼きそばやお好み焼きを食べていた。
女子大学ということもあり、イベントではバンドやダンスが盛んだった。いろんなところでパフォーマンスを見せるサークルもあり、食べたり見たりと忙しい。

「わ、わ・・・あのマジック凄いですわ~、姉様も近くに来て見てくださいな!」
「琴葉、この食べ物もおいしいから食べてみて。」
「あ、このドリンクもヤバくない?」

三人三様で琴葉を誘ってくる。この3人に共通しているのは、いずれも自分を楽しませようとする心遣い。それに気ついていた琴葉にはにこにこしながら全員の誘いにのりながら楽しんでいた。
ようやく、露店の中央辺りまで来た時にはすでに4人はへとへとでベンチに座っていた。

「ふー、楽しいですわ。」
「フリーマーケットでもいいのが買えたよね。」
「琴葉はどこが良かった?」
「たこ焼きを作る様子は見ていて楽しかったなぁ。ああいうのはなかなか個人でできることじゃないし。」
「今度、我が家でも、たこ焼きパーティーをやってみましょうか!?あっ、お二人も是非泊りでいらしてくださいませ!」
「「いいね~それ!!」」
「楽しくなりそうだね。」

気軽に会話するその様子からは仕事でみせている敬語の片鱗へんりんすら見えない。その様子から本当に友達との付き合いを楽しんでいることが解る。
だが、和気藹々わきあいあいと楽しんでいた琴葉達の楽しみを邪魔するナンパ野郎が3名。

「おおー可愛いじゃん。なぁなぁ、俺らの相手をしてくれよ?」
「こっちのお嬢ちゃん、みるからに金持ちだな。時計とかバッグとかさ。」
「こりゃ、身体の方も期待できそうだな。」

某芸能人のゲス野郎でさえやらないあからさまな言葉に女性陣は全員冷たい目を向けた。それぞれが顔を見合わせ、ため息をつき合っている様子からして、誰一人として好感はなさそうだ。
当然のように、ナンパしてきた男どもを無視しておしゃべりを続けていた女性陣はとある報道の話で盛り上がった。

「はぁ・・・こいつらを見てたら、なぜかテレビで見たゲス男を思い出した。」
「そういえば、今年は不倫報道多かったですね。SNSの流出もあって、学校でも「SNSは危ないこともあるわね」と話題になりましたわ。」
「うんうん。あの好感度の高かった芸能人の評判がかなり下がるぐらいめっちゃ報道されまくっていたよね。あれは嘘の謝罪をしていたことが拍車かけたと思うよ。」
「自分たちの中ではつきあってないことにって・・・ありえなーいっ。」
「・・・あの謝罪会見なら、たまたまですが、掃除をしていた時、旦那様と一緒に見ていましたよ。」
「おお、バカ男の反応はどうだったの?」
「その時はまだ琴華様とつきあってらっしゃいましたので・・・」

思い出したように話し出す琴葉だが、どうやら旦那様の話になると敬語になるようだ。






~以下、回想~



居間のソファーでお茶を飲みながらテレビを見ていた巽の近くで、窓を拭き掃除していた琴葉はテレビの音だけを拾っていた。
その時、巽が呟いたのを聞いた琴葉は珍しく興味を持った。

(この人、姉の男癖の悪さを知らないのよね・・・。)

『・・・ほう、有名な芸能人が、自称アーティストの男と不倫か。ふん、不倫など愚かな行為だな。』
『それだけを聞いていると、旦那様は不倫を好まれないようですが・・・?』
『好むどころか、嫌悪している。』

(本当に気づいていないんだ。)

『では・・・二股とかもキライなタイプですか?』
『そうだ。とっかえひっかえはしても、二股したことは一度もないな。それに、今は琴華一筋だからそれこそ、ありえん。』

(その姉の方はそのありえない行動をしているんだけれどなぁ。)

『そうでございますか。突然申し訳ございませんでした。』

不機嫌になっていた巽に一礼して掃除の方へ再び集中しだした。

~回想終了~





「・・・まぁ、結局二股どころか大量に浮気していた姉の行為に気づいた後はすぐさま別れていらっしゃいますから、本当に気づいていなかったようですね。」
「我が兄ながら情けないですわ・・・。」

ガクッと肩を落とす小百合と、呆れかえった智花や恵未の反応は対象的だが、いずれも巽に対しての好感度は低い。
いずれも話に集中していた女性陣にしびれを切らしたナンパ男どもの一人が琴葉の腕を無理やり掴みだした。
それに目を丸くした琴葉だが、力の差は歴然ですぐに引っ張られ立たされていた。

「何を・・・きゃ!!」
「姉様!」
「ちょっと、なにすんのよ、琴葉に!!」
「ナンパを無視したぐらいで気が短い人たちですね!」
「・・・・・・・離してください。」
「やっと俺達と話す気になったか~よし、このままホテルまで付き合ってもらおうぜ。」

眉間に皺を寄せる琴葉だったが、彼らは気にした様子がなく、それどころかにやにやと笑っていた。強引な手に出た男どもに慌てだした小百合や恵未達をよそに何かに気づいた琴葉が困惑しながらも、手首をつかんでいる男に向かって話し出した。

「ホテルですか・・・多分それは無理かと思われます。」
「おぃおぃ、そりゃ何故だよ。あっお前ら全員を連れてくってのは無理って意味か?それなら仲間を呼ぶから心配ねぇよ?」
「いえ、そういう意味ではなく・・・・。」
「ぎゃあああああ!!」
「どうした、何があったのかっ!?」
「い、いてぇええええ、おぃ、おまえ、その手を離せっ!!」

琴葉の言葉が続かなかったのは、3人いた男の1人がいきなり襲われたからだ。マスクに黒いサングラスをかけた怪しげな男が、ナンパしていた男の仲間の腕をギリギリと絞められた状態で悲鳴をあげている。
それに唖然とした智花が目を細めながら男を観察していた時、うげぇと声をあげた。

「げっ・・・」
「お知合い、ですの?」
「小百合ちゃんもよーく知っている人だよ・・・それにしても、まさかここまでつけていたのかな?」
「あ。私も解ったわ・・・琴葉は気づいていたのね。だから、敬語だったんだ。」
「気づいたのはつい先ほどですけれどね。」
「え、ええ、一体どういうことですの・・・?」

わかったような表情で呆れている3人と違い、小百合はまったく気づいていない様子だ。そんな時、マスクとサングラスで顔を隠していた男が琴葉に近寄ってきた。ちなみにナンパしてきた3人組はすでに制裁され、地面に伏していた。

「琴葉、大丈夫か??怪我はないのか?」
「あ・・・・・その声、兄様でしたのね。」

慌てながらもマスクやサングラスを外し、琴葉の手首を確認し出した巽を見て、ようやく琴葉達が呆れていた理由に気づいた小百合は顔に手を当てて眉間に皺を寄せていた。

「はぁ、兄様に気づかなかっただなんて、私も目が悪くなったものですわね。」
「小百合、悪口ならせめて聞こえていないところで言ってくれ。それから、牧戸さん、俺は最初からつけていたわけじゃないぞ。」
「・・・どうだかなー。」
「旦那様、どうしてこちらに?」
「あーーうん、やっぱり、琴葉の過ごしていた大学が気になって・・・仕事の関係上、見るだけでもと思って、見に来ていたんだ。だから、君らを見つけたのは本当に偶然だよ。」

琴葉に対して弁解する様子からして本当のことらしい。智花や恵未が遠い目をしているのをよそに、琴葉は一応はと、巽にお礼を告げた。

「結果的には助かりました。ありがとうございます、旦那様。」
「ああ、いや。ともかくこいつらに関しては私の護衛を呼び寄せて引き取ってもらうよ。」
「それにしても、よく気づいたね、琴葉・・・。」
「途中からよく見かけるなと・・・スーツが見慣れたものということもありましたが。」
「そこはできるなら、愛の力とか・・・・いや、なんでもないです、すみません。ごめんなさい、謝るのでどうか無言の圧力をかけないでくれませんか、琴葉さん。」

何故か最後は敬語になって、琴葉に謝っている巽を見た智花と恵未は目を丸くした。それに気づいた小百合がどうかしたのかと聞けば、思わぬ言葉が返ってきた。ちなみに二人が巽のことをバカ男呼ばわりせず、名字で呼んだのは小百合への配慮と思われる。

「あ・・・ううん、琴葉が入籍をしてからは城野宮さんに会っていなかったからさぁ、ちょっと素直過ぎて逆に不気味に感じちゃった。」
「本当に。あなたのお兄さんを散々とぼした上で言うことじゃないけれど、それぐらい酷かったからね。」

智花の驚いた声に同調するようにうなずいた恵未。2人の言葉に納得した小百合は少し考え込んだように口を開いた。

「兄様を擁護する訳ではないのですが、最近の兄は頑張っていらっしゃるようですわ。美琴様もそこだけは褒めて下さっています。」
「美琴・・・って誰なの?」
「聞いたことない名前だけれど、琴葉の身内なの?」
「あ、はい。結婚されて名字は変わっていますが、琴葉様の姉と聞いております。確か、姉様とは4歳差だと聞いた覚えが・・・。」

思い出すように小百合が話せば、恵未も智花も唖然としていた。しばらくしてようやく声を絞り出せるようになった2人はすぐさま、巽を押しのけて、琴葉に向かって行った。

「ちょっと、琴葉ってば、あの琴華とやら以外にも兄弟がいたの?」
「どうしてそのことを私達に言ってくれなかったの?」
「えっ・・・その、それは。心配かけたくなくて・・・ま、待って、一度に言われても!!」

慌てふためく琴葉におろおろしだした小百合だが、それでも2人のテンパリと驚きは止まらない。
押しのけられていじけていた巽が我に返り、その場を収めるまで、混乱が続いていたというのだから、恵未や智花の驚きは相当なものだったのだろう。






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