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最終章

第十九話 殻を破った絶望

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 ディリス達が意識を取り戻すと、そこは未知の空間だった。
 上下の感覚が掴みづらい七色の空と大地。
 まずディリスはエリアとルゥの無事の確認を最優先にした。幸い、二人はすぐ側におり、目立った外傷は見受けられない。
 思わずディリスは二人の方を抱き寄せていた。

「ディー?」

「ディーさん!」

 各々の反応を示す中、ディリスはしばしの安堵に浸っていた。この温もりを少しでも長く味わうために。

「ん、無事みたいだねエリアとルゥ」

「うん、大丈夫だよディー。それにしてもここはどこなんだろうね?」

「分からない。けど、予想を立てることは出来る」

 振り向き、前方を睨みつけるディリス。
 それを待っていたかのように虚無神は姿を見せた。

「我をここまで手こずらせる人間はかつての勇者しか居らぬ。認めよう。貴様は我が障害だとな」

 先程の人型からうってかわり、半透明の結晶のような八面体が現れた。その大きさは軽くディリス達の倍以上。

「我の空間で貴様らを滅殺する。これは決定事項だ」

「尊大な物言いだけど、それは強がりってやつだよ。今まで私が見てきた人間達基準なら、ね」

 直後、空間が震える。それは巨大地震にもに匹敵するほどの力であり、ディリス達は立つことすら容易ではなかった。

「我を見下すか人間よ! ならば我も本腰を入れて貴様を滅する! 矮小な人間と比べたその罪を知るが良い!!」

 八面体の両サイドから巨大な腕が現れた! これまた巨大な腕。まるで大木だ。
 そして感じる圧倒的な魔力と戦気!
 全身に震えが走る。ディリスの危険察知能力が警鐘を鳴らしていた。

 まともに相対すれば命はないと!

 後退の代わりに、ディリスは剣を握る力を強める。

「エリア、ルゥ。これが多分、本当の本当に最後だ。だから、死なないでいこう」

「うん!」

「はい!」

 頷き合い、ディリスが突撃した。その後ろではエリアが魔法の準備をし、ルゥはクァラブに魔力を再充填する。
 虚無神が右拳を振り上げる。単純ながら絶大な攻撃。風を切り裂き、隕石にも一撃がディリスを襲いかかる。
 しかし、『ウィル・トランス』で底上げされた身体能力がそれを容易く避け、そればかりか逆に斬り返した。抉るような傷痕を見たディリスはこの状態でも攻撃が通ることを確認する。

(イケる。こいつは、殺せる……!)

 八面体が発光し、螺旋状の光線がディリスを射抜かんと襲いかかる。しかし、彼女の頭上に魔力で構成された防御フィールドが発生。防御こそ出来なかったが、見事に光線を逸しきった。
 エリアによる『防壁プロテクション』だとすぐに予想がついたディリスは高く跳び上がり、剣を両手で構えた。
 狙いは八面体の中心核。うっすらとそこにモヤが視える。

「イヴドォ!」

 その時点でディリスはそこを弱点と仮定した。いつだって生物の急所は中心にある。ならばそこを効率的に真っ二つにするだけで良い。
 全ての力を込め、ディリスは剣を振り下ろす――!

 その時だった。


「……え」


 強烈な脱力感がディリスを襲った。剣を握ることすら辛い。
 その遅れが命取り。
 虚無神の左手がまともにディリスを捉えた。

「がっ……!!!」

 矢のように地面へはたき落とされるディリス。すぐに空中でバランスを取り、最小限のダメージで済むように受け身を取ることが出来た。
 ただし、最小限とはいえもらったダメージは相当に大きい。天秤の剣を杖代わりによろよろとディリスは立ち上がった。

(何だ……? 急に脱力感が……)

 ディリスの状態に気づいた虚無神は高笑いをする。

「まだまだ人間だったな、やはりさ!! 真の『ウィル・トランス』を使えない者のトランスなど一時的な肉体強化程度にしかならんわ!! もしや我を封印した勇者と同等の『ウィル・トランス』を使えるかと驚いたが、これはとんだ拍子抜け!」

「何だと……」

「未熟な『ウィル・トランス』など時限式の火花にしか過ぎん! 体力などもはやあるまい! 残念だったな! あと一歩だった!」

 虚無神の頭上に大きな輪が顕現する。歪な天使のように見えなくはない。
 輪からポコポコと小さな球がせり出してくる。

「滅してやろう人間よ」

「ディー!」

「ディーさん!」

 嫌な予感に促されるまま、エリアとルゥの身体は動いていた。
 ディリスの前に立った二人は両手を前へと突き出した。

「二人でなら!!」

「ディーさんを!!」

 エリアとルゥによる『防壁プロテクション』。いや、二人の魔力が組み合わさったことにより更に強化、範囲が広げられたこれはもはや『防壁プロテクション』を越えていた!

 輪から光弾が放たれた。全方位へ無数に繰り出される光弾。
 その内の一つが着弾。巨大な爆発を起こす。これだけで上級魔法に匹敵する範囲と威力。

「エリア、ルゥ……やめろ。逃げてくれ。まだ二人は助かるはずだ」

「ディーうるさい! 私達には私達のやりたいことがあるんだよ!!」

 そんな絶殺の光弾の数、既に千を越えていた。飽和攻撃を越えた飽和攻撃。
 熱と音がエリアとルゥの体力を奪っていく。だが、気絶など出来ない。
 これで倒れれば、無防備なディリスがどんな目に遭うか、目に見えているからだ。

「たかが一人のために、そこまでするとはな」

 虚無神の呟きに、即座に二人は怒気を込めて反応した。

「たかがじゃない!」

「ディーさんは!!」


「「私達の友達だ!!」」


 二人の魔力量が更に跳ね上がる。無数にヒビが入っていた防御フィールドがみるみるうちに修復していく。
 火事場の馬鹿力と言えば良いのだろう。二人の決死は、見事に劣勢から拮抗状態まで持っていく事が出来たのだ。

「ほう! 我の攻撃に対し、そこまで保つとは! だがそれだけ! 我は無限に攻撃を続けられる!! とんだお遊戯会だったよ人間!!!」

 更に勢いが強くなる攻撃。
 虚無神の言うことは本当なのだろう。となれば、後に残るのは消耗戦だけ。

 そうなれば、人間がどれくらい保つのか。

(ごめんエリア、ルゥ……。私のせいだ……!)

 人体の限界はとっくに知っていたディリス。
 もはやこれまでか、と目を閉じる。


「――ほう、ここがパーティー会場か。ここなら俺の雷がよく通りそうだ」


 槍を思わせるような強烈で鋭い雷撃が虚無神へと突き刺さる!!!
 不意の攻撃に虚無神も防御が出来ず、痛烈な雷電をその身に直撃させる。

 あり得ない攻撃。
 ディリスは攻撃元の方向へ顔を向けると、そこにはこれまたあり得ない人物がいた。
 その人物は金髪を掻き揚げ、サングラスを外した。

「ジョヌ……ズーデン……!?」

「よう《蒼眼ブルーアイ》。感動の再会って所かな?」

 『六色の矢』の一人。“黄の矢”ジョヌ・ズーデンが余裕たっぷりの出で立ちでそこにいた。
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