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最終章

第二話 現れたのはルゥにとっての元凶

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 プーラガリアを離れたディリスとエリア、そしてルゥはハルゼリア大神殿へと向かっていた。
 馬車を乗り継ぎ、そして時には徒歩も交え、そして彼女らはプロジア達がいるであろう地へ足を踏み入れる。

「ここがハルゼリア大神殿までの道、『ハルゼリア大通路』か」

 緩やかな上り坂、石でできた階段が果ての果てまで続いている。
 遠い前方にうっすらと見える大きな建物こそが、ディリス達の目的地である。

「ねぇエリア、ハルゼリア大神殿ってどういう所なんだろうね」

「えっと、フィアメリアさんに聞いた話だと確か昔、召喚霊を絶対の存在とする宗教があったみたいで、その時に建てられた場所みたいだよ」

「召喚霊を、ですか? 何ででしょうかねっ?」

 ルゥの疑問に、ディリスは思考を働かせる。
 とは言っても、宗教などとんと興味がない彼女にとって、現実味溢れる回答になってしまうのだが。

「ルゥが召喚した召喚霊もそうだけど、この世界にとって外界の住人が持つ力は驚異だからね。だからこそ、その力にへりくだることで、自分たちの身を守りたかったんじゃないのかな?」

「……ディー、それその宗教の人が聞いたら、怒り狂うと思うよ」

「図星突かれたってことでしょ? それならそうで、答え合わせが出来るから楽なんだけどね」

 いつまで喋っていても始まらない。
 早速ディリス達は小さな一歩を踏み出した。

 感想としては、非常に歩きやすい。
 石段は絶妙なバランスで幅があり、ここに来る信者のための配慮が感じられる緻密なデザインだ。

 プロジアが来ていたのなら、悪質なトラップでもあるのではないかと警戒していたが、今の所、その心配はなさそうだ。

「エリア、ルゥ、大丈夫? 休憩しようか?」

「私は大丈夫ですっ。ディーさんこそ休憩しなくていいですかっ?」

「そうだよディー。この後の事を考えたら、休める時には休もーよ」

 エリアの言うことにも一理あったので、とりあえず手近な岩に腰掛け、休憩することにした。
 索敵は常時しているので、不意をつかれる、などという無様は見せない。

 休憩中、ディリスは目を閉じ、魔力のコントロール練習をしていた。同時に、闘気のコントロールも。

 それを見ていたルゥが気になって思わず何をしているのか聞いてしまった。

「あの時、ロッソを倒した時に一瞬なりかけていた状態になれるかな、と思って」

「ディーさんがすごい力を見せたあれですかっ?」

「うん、そしてプロジアがあの時の私と同じような状態になって、私を圧倒した。つまり、これが出来ないとプロジアには勝てないかもしれない。あの、名前なんだっけ? なんちゃらトランス。あれが使えなければ……」

 エリアがディリスの言葉を引き継いだ。

「『ウィル・トランス』ってプロジアさんは言ってたね。えと、確かね……」

 そう言いながら、エリアは背嚢を探り、一枚の紙を取り出した。

「実はクラーク様に聞いてみたんだよね」

「クラークに? いつの間に……」

「この前、一日だけ休みもらった時にちょっと通信魔法で聞いてみたんだ」

「そっか。で、あいつは何て?」

 エリアはクラークからの返答をそのまま読み上げる。

 『ウィル・トランス』。

 それは、意志の力を爆発させ、魔力そして闘気を己の身体に高速で循環させ、極限まで身体能力を引き上げる魔法の一種。
 身体能力を引き上げる他、高速で循環している魔力と闘気はある種のコーティングとなり、魔法耐性や攻撃耐性を倍増させるという効果もある。

 一つの限界突破の形だ。

「発動方法については何か言ってた?」

「えと、“感情、意志を爆発させろ!”としか……」

「……要は気合で何とかしろってことだね。さて、休憩はそろそろ終えて、行こうか」

 再び出発する用意をしていると、ディリスの索敵の範囲に“何か”が引っかかる。

 ディリスは即、エリアとルゥを呼び寄せ、陣形を作り上げる。
 ディリスが前衛、エリアが真ん中、そしてルゥが後衛。それぞれの出来ることを重視した、完璧な布陣。

「足音……それも結構いるな」

 足音の数からして集団、そして一人を除き、全てが戦士の足音。
 プロジアの手の者ではないと、ディリスは予測を立てる。
 オランジュ、そしてアズゥがいておいて、今更雑魚で時間稼ぎはしないだろう。

 剣を抜き、待つディリスの視界に、ようやくそれらが入ってきた。


「ようやく見つけたぞ、ルゥ・リーネンス。『宿命の子供達フェイトチルドレンズ』の最高傑作よ!」


 質の良い生地で出来た服で身を包む恰幅の良い男性を先頭に、甲冑に身を包んだ騎士達がぞろぞろとやってきた。

 先頭にいる男の顔を見たディリスは自然と眼の色が蒼く染まっていた。

「ルドヴィ・プラゴスカか。プーラガリア領主アーノルド・プラゴスカの弟サマがこんな所までピクニックか?」

「はん、血塗れの狂犬が私に皮肉を言えるとはな。私はそこの作品を回収しに来ただけよ」

 ルゥを指差し、まるで“物”でも見るかのような、無機質な瞳でルドヴィはそう吐き捨てた。
 三対大勢。数の利は向こうにある。

 流石にそれぐらいは把握していたルドヴィがこうのたまった。

「なぁ《蒼眼ブルーアイ》。取引といこうじゃないか。何も聞かず、何も抵抗せず、そこの作品を私に引き渡せ。そうすれば命までは取らんよ」

「もし引き渡さなかったら?」

「その時は死んでもらう。さぁ、あまり考えていても仕方がないだろう。返答は?」

「く た ば れ」

 親指を下に向け、ノータイムでそう答えるディリスに、ルドヴィは全身の血液が沸騰するような感覚を覚えた。
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