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第二章 六色の矢編
第六十話 激動の前触れ
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「かぁっ……!」
大上段からの袈裟斬り一閃。
深く斬られたロッソ、崩折れる。
いくら頑強な肉体を持つとは言え、ここまで鮮やかで深い一撃を入れられては立つのは難しかった。
教会の真ん中で血溜まりが出来る。
「はぁ……はぁ……」
倒せた、という達成感より先に、ディリスはあの一瞬に起きた身体の異変について思いを巡らせていた。
(何だったんだ……あれは? 身体に魔力や闘気が溢れて来たぞ)
既にその感覚は霧散しているが、しかしあの状態になったからこそ、ディリスはロッソとの戦いに打ち勝つ事が出来たのだ。
……振り返りは後である。
ディリスはロッソへトドメを刺すため、彼へ近づく。
即死していないだけ、本当にしぶとい。
呼吸が荒いだけに留まっているのはどういうことか。
しっかり首を落とさないと安心できない。
「ロッソ、私の勝ちだ」
「はぁ……みたい、だな」
「何か言い残すことは?」
「もっと殺し合いたかった」
「生まれ変わったら、お前から殺しという言葉が抜けることを祈るよ」
剣を横に掲げたディリスはそのまま首を刎ねようとする。
しかし、その直前、エリアが近づいてきていた。
「ディー」
「……悪いがこいつは殺すよ。こいつを野放しにしておくなんて無責任なことは出来ないよ」
「最後に、話だけさせて」
「正気?」
「うん」
「……危ないと思ったら直ぐに殺すからね」
そう言い、ディリスはロッソの真横に立った。
剣は油断なく首筋に添えて。
それを確認したエリアは、しゃがみ込み、ロッソと視線を合わせる。
「……なん、だよ。テメェ、どこまで俺を、憐れむつもりだ?」
「ロッソさん。ディーと戦っている時、フィアメリアさんから話を聞きました。貴方があの時、私に言った“シスターは自分が殺した”、あれは嘘ですよね?」
「今更……なんだよ」
「本当はあの時――この教会に強盗に入られた時、ロッソさんは他の孤児やシスターを護るために戦ったのに、それが出来なかったから、それがロッソさんの心を傷つけたから、なんですよね?」
ギラリ、と死にかけても尚、ロッソの眼には殺意が多分に込められていた。
「テメェに……語られたい、話、じゃあないが?」
「ロッソさんは、まだやり直せると思います。人を殺しているから、もちろんすぐには無理です。だけど、これ以上殺さないことは、出来ると思います」
「アメェ……アメェアメェアメェアメェ! 頭お花畑ちゃんよ……? それは出来ない、相談だよなぁ? 俺が殺さないように……する、にゃあ、俺が死ぬしか…………ないんだが? 残念、だ、よなぁ? お前は俺の心を変えようと……して、いるんだろうが、そうなる前に俺は死ぬ」
「死なせません」
「エリア、ちょっと待って」
ディリスが制止するよりも早く、エリアはロッソの傷へ回復魔法『癒しの光』を施し始める。
それを見ていたフィアメリアは苦笑いしている。ディリスも彼女と同じ感情だった。
何せ、救いようもない凶悪な殺し屋にしてやる温情ではない。
罪には罰なのだ。
人を殺したのならば、代償は自らの命でないと釣り合いが取れない。
少なくともディリスはそう考えていた。
そんなディリスの思いをよそに、エリアはこう言った。
「ちょっとだけ言葉を強くします。ロッソさん、逃げるな。人を殺したのなら、人を殺したなりの人生の使い方があるんです。それをやらないのは、貴方の言葉を借りるなら“弱っちい奴”のやることです」
ロッソに言っていることだとは、分かっていた。
だがそれは、他でもないディリスにも通じることで。
「はっ……馬鹿じゃねえの?」
そう切り捨てるロッソ。
しかし、何かを考えるように、天井を見上げた。
「馬鹿……みてぇだ。けど、そうかそういう事も――」
その時だった。
ロッソの、ちょうど胸部に当たる位置に新緑の輝きを持つ“モヤ”のようなものが現れたのは。
それが目に入ったディリス、表情を一変させた。
「そのモヤから離れろぉ!!!」
ディリスが叫びながら、エリアを抱き寄せ、ロッソから離れる。
それとほぼ同時、ロッソを包み込むように爆発が起きた。
「ロッソさん!?」
「新緑の輝きを持つモヤ、そして爆発。出てこい、出てこいよプロジアぁぁぁぁ!!!」
教会どころか外まで響くように叫んだディリス。
一拍起き、教会の天井に大きな穴が開いた。
そこからゆっくりと、巨大な物体が降りてくる。
「そんなに叫ばなくても、聞こえていますよディリス」
ご要望にお答えしましたとばかりに、プロジアは姿を見せた。
『魔刀鳥ヤゾ』にはプロジア、オランジュ、そしてアズゥの三人が乗っていた。
剣を抜きながら、ディリスは後ろのロッソへと目を向ける。
僅かに胸が上下している。呆れた頑丈さだ。
エリアとルゥを後ろにし、フィアメリアも細剣を抜いていた。
「プロジア」
「あら、フィアメリアですか。お元気にしていましたか? 私は元気でしたよ」
「それは良かったですね。ついでに、聞いてもいいかしら? 『七人の調停者』を裏切った汚物が良くそんなに優雅な登場を決められるものですね。コツがあるなら是非ともお聞かせ願いたいのですが?」
「さぁ……どうでしょうね。もしかしたら裏切る時、人一人手にかける事が上手い登場のコツだったりするんじゃないでしょうかね?」
「そうですか。じゃあ気になる事は聞けたので、さ っ さ と 死 ん で も ら い ま し ょ う か ね」
混迷を極める戦場。
出会うべくして出会った者たち、宿命の邂逅。
ディリスはこの激動に、何を思うのか。
大上段からの袈裟斬り一閃。
深く斬られたロッソ、崩折れる。
いくら頑強な肉体を持つとは言え、ここまで鮮やかで深い一撃を入れられては立つのは難しかった。
教会の真ん中で血溜まりが出来る。
「はぁ……はぁ……」
倒せた、という達成感より先に、ディリスはあの一瞬に起きた身体の異変について思いを巡らせていた。
(何だったんだ……あれは? 身体に魔力や闘気が溢れて来たぞ)
既にその感覚は霧散しているが、しかしあの状態になったからこそ、ディリスはロッソとの戦いに打ち勝つ事が出来たのだ。
……振り返りは後である。
ディリスはロッソへトドメを刺すため、彼へ近づく。
即死していないだけ、本当にしぶとい。
呼吸が荒いだけに留まっているのはどういうことか。
しっかり首を落とさないと安心できない。
「ロッソ、私の勝ちだ」
「はぁ……みたい、だな」
「何か言い残すことは?」
「もっと殺し合いたかった」
「生まれ変わったら、お前から殺しという言葉が抜けることを祈るよ」
剣を横に掲げたディリスはそのまま首を刎ねようとする。
しかし、その直前、エリアが近づいてきていた。
「ディー」
「……悪いがこいつは殺すよ。こいつを野放しにしておくなんて無責任なことは出来ないよ」
「最後に、話だけさせて」
「正気?」
「うん」
「……危ないと思ったら直ぐに殺すからね」
そう言い、ディリスはロッソの真横に立った。
剣は油断なく首筋に添えて。
それを確認したエリアは、しゃがみ込み、ロッソと視線を合わせる。
「……なん、だよ。テメェ、どこまで俺を、憐れむつもりだ?」
「ロッソさん。ディーと戦っている時、フィアメリアさんから話を聞きました。貴方があの時、私に言った“シスターは自分が殺した”、あれは嘘ですよね?」
「今更……なんだよ」
「本当はあの時――この教会に強盗に入られた時、ロッソさんは他の孤児やシスターを護るために戦ったのに、それが出来なかったから、それがロッソさんの心を傷つけたから、なんですよね?」
ギラリ、と死にかけても尚、ロッソの眼には殺意が多分に込められていた。
「テメェに……語られたい、話、じゃあないが?」
「ロッソさんは、まだやり直せると思います。人を殺しているから、もちろんすぐには無理です。だけど、これ以上殺さないことは、出来ると思います」
「アメェ……アメェアメェアメェアメェ! 頭お花畑ちゃんよ……? それは出来ない、相談だよなぁ? 俺が殺さないように……する、にゃあ、俺が死ぬしか…………ないんだが? 残念、だ、よなぁ? お前は俺の心を変えようと……して、いるんだろうが、そうなる前に俺は死ぬ」
「死なせません」
「エリア、ちょっと待って」
ディリスが制止するよりも早く、エリアはロッソの傷へ回復魔法『癒しの光』を施し始める。
それを見ていたフィアメリアは苦笑いしている。ディリスも彼女と同じ感情だった。
何せ、救いようもない凶悪な殺し屋にしてやる温情ではない。
罪には罰なのだ。
人を殺したのならば、代償は自らの命でないと釣り合いが取れない。
少なくともディリスはそう考えていた。
そんなディリスの思いをよそに、エリアはこう言った。
「ちょっとだけ言葉を強くします。ロッソさん、逃げるな。人を殺したのなら、人を殺したなりの人生の使い方があるんです。それをやらないのは、貴方の言葉を借りるなら“弱っちい奴”のやることです」
ロッソに言っていることだとは、分かっていた。
だがそれは、他でもないディリスにも通じることで。
「はっ……馬鹿じゃねえの?」
そう切り捨てるロッソ。
しかし、何かを考えるように、天井を見上げた。
「馬鹿……みてぇだ。けど、そうかそういう事も――」
その時だった。
ロッソの、ちょうど胸部に当たる位置に新緑の輝きを持つ“モヤ”のようなものが現れたのは。
それが目に入ったディリス、表情を一変させた。
「そのモヤから離れろぉ!!!」
ディリスが叫びながら、エリアを抱き寄せ、ロッソから離れる。
それとほぼ同時、ロッソを包み込むように爆発が起きた。
「ロッソさん!?」
「新緑の輝きを持つモヤ、そして爆発。出てこい、出てこいよプロジアぁぁぁぁ!!!」
教会どころか外まで響くように叫んだディリス。
一拍起き、教会の天井に大きな穴が開いた。
そこからゆっくりと、巨大な物体が降りてくる。
「そんなに叫ばなくても、聞こえていますよディリス」
ご要望にお答えしましたとばかりに、プロジアは姿を見せた。
『魔刀鳥ヤゾ』にはプロジア、オランジュ、そしてアズゥの三人が乗っていた。
剣を抜きながら、ディリスは後ろのロッソへと目を向ける。
僅かに胸が上下している。呆れた頑丈さだ。
エリアとルゥを後ろにし、フィアメリアも細剣を抜いていた。
「プロジア」
「あら、フィアメリアですか。お元気にしていましたか? 私は元気でしたよ」
「それは良かったですね。ついでに、聞いてもいいかしら? 『七人の調停者』を裏切った汚物が良くそんなに優雅な登場を決められるものですね。コツがあるなら是非ともお聞かせ願いたいのですが?」
「さぁ……どうでしょうね。もしかしたら裏切る時、人一人手にかける事が上手い登場のコツだったりするんじゃないでしょうかね?」
「そうですか。じゃあ気になる事は聞けたので、さ っ さ と 死 ん で も ら い ま し ょ う か ね」
混迷を極める戦場。
出会うべくして出会った者たち、宿命の邂逅。
ディリスはこの激動に、何を思うのか。
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