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第二章 六色の矢編

第二十五話 敵わない訳だ

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「ディー達は竜を祀る村の存在を知っていますか?」

「知らん」

「……もう少し言い方無いのかしら?」

 現在、ディリスとエリア、そしてルゥにフィアメリアは馬車に乗っていた。

 いつまでもクラークの所にいるのも申し訳ないという、嘘か本当か分からないフィアメリアの提案で、プーラガリア魔法学園を出た。すると、正面玄関には既に馬車が停められていたので、ディリスが問い詰めた所、“受けてくれる前提で手配してましたよ”と抜かしたので、そこでも一悶着を起こしながら、今に至る。

「もしかして今から向かうのって北ですか? 確か古くから豊かな作物をもたらすとされる竜がいて、とても大事に祀っている村があるってお父さんから聞いたことがあります」

「そうです。エリアさんの言うとおりです。今から向かうのはプーラガリア領の最北端にある『ドレル村』です」

「……りゅ、竜、なんだか怖そうです」

 竜を見たことがないルゥは想像の翼を広げるが、どう想像してみても恐ろしそうというイメージしか湧いてこない。なんとなく考えてみた竜のイメージは、山より大きく、一飲みで人間を食べてしまうような、そんな竜。

 身震いをするルゥの肩に、ディリスは手を置いた。

「大丈夫だよルゥ。何が来ても斬り殺せばいいんだから」

「はいはいディー。いい加減ルゥちゃん相手に物騒な言葉はやめよーね?」

「……ふふ、やっぱりディーさんとエリアさんといると何だか勇気が湧いてきますっ」

 やっぱりこの二人は大好きだな、とルゥは素直にそう思えた。……後は、ディリスの言葉遣いがもう少し丸くなってくれれば嬉しい。

 そんな健気なルゥにエリアは抱きついた。それはもう愛玩動物のように存分にナデナデしてやった。

「やっぱりルゥちゃんはいい子だよね~! 髪もふわふわで気持ち良いし!」

「ちょ、エリアさん……! くすぐったい……あはは!」

 エリアとルゥのやり取りを見て、深く頷いている者がいた。

「フィアメリア、ヨダレ出てるよ」

「おっと私としたことが」

「あんたから威厳とかそういうの取っ払ったらただの人間性終了女になっちゃうんだから、気をつけてね」

「私だって所構わずヨダレ垂らしている訳じゃないの。可愛い女の子同士がああやって裏表ない付き合いをしているのを眺めるがの好きなだけなのよ。まあ、殺しが趣味の貴方には理解できない世界なんだろうけど」

 調子が狂う、とディリスは彼女の言葉に対して特にリアクションは取らなかった。その代わりに外から見える景色を眺める。

 フィアメリア・ジェリヒトはいつも自分の前ではこうなのだ。丁寧な言葉遣いで、時折見せる毅然さがあれば自分ももう少し素直に従えるというのに。

 それだというのに、フィアメリアはいつも自分の前では口調が砕けるのだ。まるで姉が妹に接してくるような、そんな感じで。

「フィアメリアは良く、本性がバレないよね」

「ごめんなさいね。ディーの前だとどうしても気が緩んじゃうのよ」

「はぁ……周りが敵だらけなのも困りものだね」

「そうね。みんな貴方達のような真っ直ぐな子達だけならどんなに楽か」

 疲れたような、呆れたような、そんな表情をフィアメリアは浮かべていた。その表情の裏側にある“実体験”についてはディリスも良く知っているので、これ以上は茶化さないでおいてやった。

 そんなディリスとフィアメリアのやり取りを、エリアとルゥはじっと見つめていた。

「え、ええと……? どうしたのかし、ら?」

 まるで寝言を聞かれた気分だ、とフィアメリアは少しばかり取り乱してしまう。いつもの余裕ある態度に戻るには少々時間が掛かってしまう。
 だが、そんな彼女の心中など知らぬエリアは笑顔でこう言った。

「フィアメリアさん、もし無理して私とルゥちゃんの前にいるなら、全然気にしないでください! ありのままのフィアメリアさんとお話してみたいので!」

「え……」

「あ!! あ、えと! すいません! 何だか私、出過ぎた事を言ってしまったみたいですね!? ごめんなさい!」

 そんな事を言ってくれる者がファーラ王国で一体何人いるのやら。

 エリアの顔をフィアメリアはじっと見つめる。なるほど、やっぱり面影があるなと再確認できる。

 だからこそ、やはりこう言っておかなければならないのかもしれない。エリアと、そして“ルゥ”にも。

「……ディー。ちょっとだけ私、素に戻るから茶化さないでくれると嬉しいかな」

「ん、了解」

 そう言うと、ディリスは再び窓の外の景色へと意識を向けることにした。
 きっと、フィアメリアにとってはちょっぴり恥ずかしいと思うことなのだから。

「エリアちゃん、そしてルゥちゃん、本当にごめんなさい。ファーラ王国の失態でエリアちゃんのお父さんであるコルステッドが殺され、ルゥちゃんをあのルドヴィの人体実験に巻き込んでしまった」

 深々と、フィアメリアが頭を下げた。それを見たエリアとルゥは何も言うことが出来ず、否、何を言ったら良いか分からずに無言になってしまった。

「ごめんなさい。唐突だったわね、でもディリスが『七人の調停者セブン・アービターズ』のメンバー以上に信頼している二人だって分かったから、そのリーダーである私はこうして頭を下げなければいけないの」

「えと、フィアメリアさん。私はその、話は分かっています。ディーも言ってくれました。父コルステッドの死については、謝らないでください。きっとお父さんもそう言うはずだから」

「そう、ですか。そう言ってくれると私は救われます。その代わりにと言っては何だけど、必ずプロジアは殺します。それだけが私の出来る罪滅ぼしです」

「ディーもそう言ってましたけど、それはもう少し待ってください。プロジアさんの話を聞いてから、それは決めたいんです。理由を、私は知りたいんです。だから……」

 これなんだ、と。この善性こそが、ディリスの心を開いたのだと、フィアメリアは完全に理解した。
 敵わないわけだ。そんなもので勝負を挑もうとした時点で、敗北なんて決まっているのだから。

「それよりも! ルゥちゃんの話です! フィアメリアさんはルゥちゃんのことをどこまで知っていたんですか? 私はそっちのほうが聞きたいです」

 張本人であるルゥは当然、フィアメリアの方へ強く視線を向けていた。
 ディリスもである。これに関しては初耳なので、気にならない訳がない。

「ええ、可能な限り話すわ。ディリスが認めた子たちへの誠意は欠かしたくないもの」

 三方からの視線を受けるフィアメリアはまず、どこから話そうかと思考を整理する……。
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