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第二章 六色の矢編
第四話 これほどやりづらい事はない
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ディリスとエリアのコンビは割と息が合っていた。
ディリスの攻撃の隙を潰すように、エリアが『麻痺の電撃』を放ち、痺れさせる。
魔法の行使をしようとするエリアに襲いかかる盗賊ポークはディリスが斬り伏せる。
元々の得意分野が別の得意分野を補うという形だ。
想像以上に堅い立ち回りに、盗賊ポーク達はブヒブヒと彼らにしか分からない言語でやり取りを交わす。
目的は至極単純、暴力・略奪。
それを達成するため、本能レベルで彼らは分かり合っているのだ。
「ディーさん、エリアさん、盗賊ポークさん達、バラバラだったけど固まりだしてきました」
「面では無理だから、点で押し切るつもりか。数は六。エリア、行ける?」
「大丈夫! 私の『麻痺の電撃』の出力を上げれば、一気に麻痺出来そう!」
彼女の提案を受け、ディリスは盗賊ポーク達をじっと見つめる。
何故そんな事をするのか、答えはすぐに出る。
「いいや、エリア。あの一番奥にいる盗賊ポークだけでいい。奴を確実に痺れさせるだけの魔法を撃って」
「一番奥だけで良いの?」
「盗賊ポークってのは基本群れで動く。群れで動くということは統率者が間違いなくいる。それが一番奥の奴。ほら見て、奴だけ微妙に装備が違う」
そう言われてエリアは注意深く見ると、確かに違って見えた。
具体的には装備が妙に金色というか、言葉を選ばなければ趣味が悪い。
自分の力を誇示する意味合いでもあるのかどうかは分からないが、それでもこの瞬間は良い目印となる。
「ディー、三十秒だけ良い?」
「じゃあ競争だ。私は二十秒で全員殺す気でいく」
「ええっ!? それは駄目だよ!」
そう言っている内に既に二体、盗賊ポークが斬り伏されていく。だが、辛うじて息はある。
ディリスの卓越した殺人技術は人型の魔物にも応用が利くようで、じっとしていれば助かるくらいの深手を与えていた。
ディリスに負けないよう、エリアは魔力を込め、魔法を行使するための工程をクリアしていく。
こと、魔法を行使するためには、ある意味単純な順序を押さえていく必要がある。
エリアが良く魔法の名前を口にすることがあるだろう。
これは、己の中の世界と外の世界を繋ぎ、説明出来ない力を引き起こすためのトリガーといえる。となれば、あとは銃弾だ。それこそ発動者の魔力であり、絶対条件。
言葉には強い力が宿っている。
魔法の発動において、魔法名を唱えるのはごく自然と言えるだろう。
「『麻痺の電撃』!!」
強い思いが籠もった言葉は世界に働きかけ、緑色の電撃をエリアの拳から迸らせる事ができる。
真っ直ぐに直進し、ボスと思わしき盗賊ポークに直撃。大きく痙攣した後、背中から倒れていった。
……後、もう少し発動が遅ければディリスの刃がボスの盗賊ポークの首に届いていたのは、言うまでもないことだ。
「速かったね、エリア」
ディリスは割と本気で二十秒で殺す、まではいかないまでも行動不能にさせる気でいた。
それなのに、エリアは確かにやり遂げた。しかも最高の精度で。
「ううん、ディーが上手くやる気にさせてくれたおかげ……かな?」
「そっか、それなら良かった。さて……と」
ディリスは天秤の剣で盗賊ポーク達の両手足の腱を切っていく。
「ちょ、ディー! 何しているの?」
「手足の腱を切れなかった奴らの腱を切ってる。殺しはしないけど、健康な状態で生かしておいてもまた被害を生むでしょ? 分かってねエリア」
殺しはしない。だが、絶対に殺せる状態でそれをしないということはそれ相応の代替処置が強く強く求められる。
だからこそ、ディリスの中で色々と思案した中で打ち出した妥協案。
念入りに複数箇所を切る。これで懲りれば良し、“次”があるならだいぶ行動に支障が出るだろう。
エリアもそれは理解していたため、首を縦に振った。少しばかり、落ち込んだ表情で。
――突如、雷が降り注ぐ!!!
「ルゥちゃん! 私の近くに!」
「……」
音が止んだときには、既に盗賊ポーク達は息絶えていた。
エリアは感じていた。どうしてこんな事が出来るのかと。
ルゥは驚いていた。雷の魔法というものがこれほどのものなのかと。
ディリスは感じていた。やはりな、と。
「お疲れ様。依頼は無事達成だ。おめでとう」
拍手をしながら、姿を見せたのはジョヌ・ズーデンであった。
サングラスで目元こそ視えないが、表情は柔らかである。
「ジョヌさん、どうしてこんな事を……」
エリアの問いに、ジョヌは表情を崩さないまま、答える。
「私も何か、君たちの力になりたくてね。そう思ってなけなしの魔力を振り絞ってここまで来た、というところさ」
そんな彼の返答に、真っ先に異を唱えたのは――ルゥであった。
「うそ、です……。牧師様、嘘をついて、います……すごい力が伝わってきます」
おどおどとそう言うルゥに、ディリスは驚いていた。
何も、彼の事は伝えていないはずなのに、正確に力量を読めたのだ。
小さな子供に言われたことが意外だったのか、ジョヌは少しばかり上を向き、やがてサングラスを取った。
「ふぅ……きっと僕はこういう誤魔化す事が下手なんだろうな」
サングラスを取り払った瞳は、明確な敵意が宿っていて。
ジョヌはゆっくりととある人物を指差した。
「《蒼眼》、ディリス・エクルファイズ。とある人物から、君を殺すよう言われて馳せ参じた。殺されてくれるかな?」
眼の色が既に蒼いディリスは即座に返す。
「私の前で殺しの話題はあまり出さない方が良いよ。楽しくなってくるからさ」
「……なるほど、やはり凄まじい殺気だ。これは一筋縄ではいかなそうだな」
その一連のやり取りを見ていたエリアは、ディリスにこう聞いた。
「もしかしてディー……気づいていた感じ?」
「そうだね。明らかに一般人じゃないのに、こんな駆除依頼出すから気になっててね」
「最初からお見通しなほど、やりづらい事は無いな」
そう言い、ジョヌは両手を広げると、そこから球体になった電撃が発生する。
それがトリガーとでも言うのか、彼の周りから雷のオーラが迸り始める。
「さて、名乗ろう。俺はとある人物に選ばれた戦闘集団の一人、《雷鳴のジョヌ》だ。先程も言った通り、お前を殺したい」
「《蒼眼》、ディリス・エクルファイズ。事情はどうあれ、私の命を狙うならそれ相応の覚悟をしろよ」
雷が、鳴り響く。
ディリスの攻撃の隙を潰すように、エリアが『麻痺の電撃』を放ち、痺れさせる。
魔法の行使をしようとするエリアに襲いかかる盗賊ポークはディリスが斬り伏せる。
元々の得意分野が別の得意分野を補うという形だ。
想像以上に堅い立ち回りに、盗賊ポーク達はブヒブヒと彼らにしか分からない言語でやり取りを交わす。
目的は至極単純、暴力・略奪。
それを達成するため、本能レベルで彼らは分かり合っているのだ。
「ディーさん、エリアさん、盗賊ポークさん達、バラバラだったけど固まりだしてきました」
「面では無理だから、点で押し切るつもりか。数は六。エリア、行ける?」
「大丈夫! 私の『麻痺の電撃』の出力を上げれば、一気に麻痺出来そう!」
彼女の提案を受け、ディリスは盗賊ポーク達をじっと見つめる。
何故そんな事をするのか、答えはすぐに出る。
「いいや、エリア。あの一番奥にいる盗賊ポークだけでいい。奴を確実に痺れさせるだけの魔法を撃って」
「一番奥だけで良いの?」
「盗賊ポークってのは基本群れで動く。群れで動くということは統率者が間違いなくいる。それが一番奥の奴。ほら見て、奴だけ微妙に装備が違う」
そう言われてエリアは注意深く見ると、確かに違って見えた。
具体的には装備が妙に金色というか、言葉を選ばなければ趣味が悪い。
自分の力を誇示する意味合いでもあるのかどうかは分からないが、それでもこの瞬間は良い目印となる。
「ディー、三十秒だけ良い?」
「じゃあ競争だ。私は二十秒で全員殺す気でいく」
「ええっ!? それは駄目だよ!」
そう言っている内に既に二体、盗賊ポークが斬り伏されていく。だが、辛うじて息はある。
ディリスの卓越した殺人技術は人型の魔物にも応用が利くようで、じっとしていれば助かるくらいの深手を与えていた。
ディリスに負けないよう、エリアは魔力を込め、魔法を行使するための工程をクリアしていく。
こと、魔法を行使するためには、ある意味単純な順序を押さえていく必要がある。
エリアが良く魔法の名前を口にすることがあるだろう。
これは、己の中の世界と外の世界を繋ぎ、説明出来ない力を引き起こすためのトリガーといえる。となれば、あとは銃弾だ。それこそ発動者の魔力であり、絶対条件。
言葉には強い力が宿っている。
魔法の発動において、魔法名を唱えるのはごく自然と言えるだろう。
「『麻痺の電撃』!!」
強い思いが籠もった言葉は世界に働きかけ、緑色の電撃をエリアの拳から迸らせる事ができる。
真っ直ぐに直進し、ボスと思わしき盗賊ポークに直撃。大きく痙攣した後、背中から倒れていった。
……後、もう少し発動が遅ければディリスの刃がボスの盗賊ポークの首に届いていたのは、言うまでもないことだ。
「速かったね、エリア」
ディリスは割と本気で二十秒で殺す、まではいかないまでも行動不能にさせる気でいた。
それなのに、エリアは確かにやり遂げた。しかも最高の精度で。
「ううん、ディーが上手くやる気にさせてくれたおかげ……かな?」
「そっか、それなら良かった。さて……と」
ディリスは天秤の剣で盗賊ポーク達の両手足の腱を切っていく。
「ちょ、ディー! 何しているの?」
「手足の腱を切れなかった奴らの腱を切ってる。殺しはしないけど、健康な状態で生かしておいてもまた被害を生むでしょ? 分かってねエリア」
殺しはしない。だが、絶対に殺せる状態でそれをしないということはそれ相応の代替処置が強く強く求められる。
だからこそ、ディリスの中で色々と思案した中で打ち出した妥協案。
念入りに複数箇所を切る。これで懲りれば良し、“次”があるならだいぶ行動に支障が出るだろう。
エリアもそれは理解していたため、首を縦に振った。少しばかり、落ち込んだ表情で。
――突如、雷が降り注ぐ!!!
「ルゥちゃん! 私の近くに!」
「……」
音が止んだときには、既に盗賊ポーク達は息絶えていた。
エリアは感じていた。どうしてこんな事が出来るのかと。
ルゥは驚いていた。雷の魔法というものがこれほどのものなのかと。
ディリスは感じていた。やはりな、と。
「お疲れ様。依頼は無事達成だ。おめでとう」
拍手をしながら、姿を見せたのはジョヌ・ズーデンであった。
サングラスで目元こそ視えないが、表情は柔らかである。
「ジョヌさん、どうしてこんな事を……」
エリアの問いに、ジョヌは表情を崩さないまま、答える。
「私も何か、君たちの力になりたくてね。そう思ってなけなしの魔力を振り絞ってここまで来た、というところさ」
そんな彼の返答に、真っ先に異を唱えたのは――ルゥであった。
「うそ、です……。牧師様、嘘をついて、います……すごい力が伝わってきます」
おどおどとそう言うルゥに、ディリスは驚いていた。
何も、彼の事は伝えていないはずなのに、正確に力量を読めたのだ。
小さな子供に言われたことが意外だったのか、ジョヌは少しばかり上を向き、やがてサングラスを取った。
「ふぅ……きっと僕はこういう誤魔化す事が下手なんだろうな」
サングラスを取り払った瞳は、明確な敵意が宿っていて。
ジョヌはゆっくりととある人物を指差した。
「《蒼眼》、ディリス・エクルファイズ。とある人物から、君を殺すよう言われて馳せ参じた。殺されてくれるかな?」
眼の色が既に蒼いディリスは即座に返す。
「私の前で殺しの話題はあまり出さない方が良いよ。楽しくなってくるからさ」
「……なるほど、やはり凄まじい殺気だ。これは一筋縄ではいかなそうだな」
その一連のやり取りを見ていたエリアは、ディリスにこう聞いた。
「もしかしてディー……気づいていた感じ?」
「そうだね。明らかに一般人じゃないのに、こんな駆除依頼出すから気になっててね」
「最初からお見通しなほど、やりづらい事は無いな」
そう言い、ジョヌは両手を広げると、そこから球体になった電撃が発生する。
それがトリガーとでも言うのか、彼の周りから雷のオーラが迸り始める。
「さて、名乗ろう。俺はとある人物に選ばれた戦闘集団の一人、《雷鳴のジョヌ》だ。先程も言った通り、お前を殺したい」
「《蒼眼》、ディリス・エクルファイズ。事情はどうあれ、私の命を狙うならそれ相応の覚悟をしろよ」
雷が、鳴り響く。
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