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第41話 イルウィーンの涙ッ!
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イルウィーンは目覚めた。
激闘の末に何が起きたのか。本当にヒューマンに負けてしまったのか。それら一切合切全てを確かめるために。
「うん……」
イルウィーンが最初に視界に入れたのは、跪き、涙を流しているクリムであった。
「く、クリム先輩!?」
「起きたんだねイルウィーン」
「こ、心の翼様、これは一体……?」
「イルウィーン、身体に何か変化はない?」
シエルにそう言われ、己の身体の総点検を開始するイルウィーン。すると、今までと違う点が一つだけあった。
「あれ? なんだか身体が軽いような……?」
ヴァールシアがその違和感の正体を教える。
「貴方とクリム……いいえ、力の翼の部下は皆、自壊システムが施されているのです。先程シエル様がそのシステムを破壊しました」
「えと……? つまり? どういうことっスか?」
「貴方とクリムはもう力の翼の支配から解き放たれた。そういうことです」
「……クリム先輩はどうして泣いているんスか?」
「それはイルウィーンから聞いてみてください」
「それもそうっスね! クリム先輩~! どうして泣いてるんスか~? お腹でも痛いんスか~?」
すると、クリムは泣きながら激昂した。
「分かってないのアンタ!? アタシ達は最初から力の翼様に信用されてなかったのよ! こんっな惨めな話がある!? 頭がおかしくなりそうなのよアタシは!!」
「え――」
クリムの感情を受けたイルウィーン。
イルウィーンは首を傾げてこう言った。
「え? クリム先輩って力の翼様のために戦っていたんスか?」
「は? アンタ、何言ってんの?」
「うっわ! 怒らないでくださいっス! 自分は単に自分のために戦っていたから、その辺が良く分からなくて……」
「自分のため? いよいよ頭がおかしくなったのイルウィーン?」
「えぇ!? そんなぁ!」
シエルがイルウィーンの肩に手を置いた。
「話してイルウィーン。貴方の今の気持ちを。貴方は今、どう思っているの?」
「どう? どう……? 自分、良くわからないっスけど、力の翼様――あ、もう様つけなくていいのか。自分はすごく嬉しいっス」
「イルウィーン!」
クリムが突撃槍をイルウィーンへ突きつけた。クリムが怒るのも無理はない。なにせ、これは最大級の宣戦布告なのだから。
だが、イルウィーンは臆せず、クリムの武器を掴んだ。
「この際だから言わせてもらうっスけど! 自分が嬉しいのは自分が解放されたからじゃなくて、クリム先輩が解放されたからっス!!」
「アタシが……?」
「そうっス! クリム先輩がもう力の翼から何もされなくて良いんだと思ったら、自分は嬉しいと思ったっス! そもそもおかしかったんスよ! 何でクリム先輩だけ力の翼に暴力を振るわれているんスか!? そんなの……そんなのってないっスよ……!」
イルウィーンは自分が殺されるかもしれないのを承知で、クリムへ抱きついた。
「自分は今まで、力の翼のためになんか戦ってないんス……! 自分は、口も態度も悪いけど、何だかんだ自分達の事を大切にしてくれるクリム先輩のために戦っているんスよ……」
「イルウィーン、アンタ泣いて……」
「力の翼管轄で、誰一人力の翼に忠誠は誓っていないっス……。みんな、クリム先輩に迷惑をかけないように、クリム先輩の力になりたいから、今まで戦ってきたんスよ……。それをわかってほしいっス」
「アタシのために……」
ヴァールシアとシエルは一瞬目を合わせた。
ヴァールシアは全ての武器を収め、クリムへ近づく。
「クリム、見逃せともこれ以上戦うなとも言いません。ただ、イルウィーンの気持ちだけは汲んであげてください」
「ヴァールシア……アタシは、アンタの言うことだけは」
「聞けとも言ってもいません。貴方が決めることです。これは、貴方が決めることなんだ」
「アタシが……」
クリムが自分の手を胸にやる。それは今までに感じたことのない感情。
この感情に名前をつけるとしたら――。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。んだよ、その感動ドラマはよぉぉぉぉぉ? そんなんじゃ俺は感動なんて一ミクロンも出来ねぇだろうがよおおおおお?」
天空よりおぞましき重圧ッ!
「力の翼様ァァアァァッァァアァァッァァァァ!!!」
クリムが叫んだ。
刹那、ウィズは天空を見上げたッ!!!
「お前が……力の翼ッ!!」
黄金色の大翼持ちし金髪の男。まさに絵本で出てくる天使と呼ぶにふさわしい存在。
ただ、彼から放たれる雰囲気は、ひどく邪悪だった。
「あああああああああああああん!!? タンパク質ごときが俺様の名前を呼んでんじゃあねえよ!!!」
世界が凍りつく。
彼の怒気だけで、世界に影響を与えているのだ。こんな馬鹿な話があるだろうかと、誰もが思う。しかし、現実に起きているのだ。
「力の翼……」
ぐりんと力の翼の目がシエルへ向く。
「しぃぃぃぃぃぃえるちゃんよぉ!! ひっさびさだなぁ! まだ死んでなくて嬉しいぜぇッ!!」
「まだこんなことをしているんだね」
「憐れむなよクソガキ! 俺様を憐れんでいいのは、俺様だけだ! 知恵の翼でもない、お前でもない! この俺だ!」
「ここに何をしに来たの?」
「役立たずのゴミどもを見ていたら、イライラで死にそうになってな! 満を持して、この俺様が出てきた! それだけよ!」
力の翼の大翼が一度だけはためく。すると、彼の真下の地面が、めくれあがった!
激闘の末に何が起きたのか。本当にヒューマンに負けてしまったのか。それら一切合切全てを確かめるために。
「うん……」
イルウィーンが最初に視界に入れたのは、跪き、涙を流しているクリムであった。
「く、クリム先輩!?」
「起きたんだねイルウィーン」
「こ、心の翼様、これは一体……?」
「イルウィーン、身体に何か変化はない?」
シエルにそう言われ、己の身体の総点検を開始するイルウィーン。すると、今までと違う点が一つだけあった。
「あれ? なんだか身体が軽いような……?」
ヴァールシアがその違和感の正体を教える。
「貴方とクリム……いいえ、力の翼の部下は皆、自壊システムが施されているのです。先程シエル様がそのシステムを破壊しました」
「えと……? つまり? どういうことっスか?」
「貴方とクリムはもう力の翼の支配から解き放たれた。そういうことです」
「……クリム先輩はどうして泣いているんスか?」
「それはイルウィーンから聞いてみてください」
「それもそうっスね! クリム先輩~! どうして泣いてるんスか~? お腹でも痛いんスか~?」
すると、クリムは泣きながら激昂した。
「分かってないのアンタ!? アタシ達は最初から力の翼様に信用されてなかったのよ! こんっな惨めな話がある!? 頭がおかしくなりそうなのよアタシは!!」
「え――」
クリムの感情を受けたイルウィーン。
イルウィーンは首を傾げてこう言った。
「え? クリム先輩って力の翼様のために戦っていたんスか?」
「は? アンタ、何言ってんの?」
「うっわ! 怒らないでくださいっス! 自分は単に自分のために戦っていたから、その辺が良く分からなくて……」
「自分のため? いよいよ頭がおかしくなったのイルウィーン?」
「えぇ!? そんなぁ!」
シエルがイルウィーンの肩に手を置いた。
「話してイルウィーン。貴方の今の気持ちを。貴方は今、どう思っているの?」
「どう? どう……? 自分、良くわからないっスけど、力の翼様――あ、もう様つけなくていいのか。自分はすごく嬉しいっス」
「イルウィーン!」
クリムが突撃槍をイルウィーンへ突きつけた。クリムが怒るのも無理はない。なにせ、これは最大級の宣戦布告なのだから。
だが、イルウィーンは臆せず、クリムの武器を掴んだ。
「この際だから言わせてもらうっスけど! 自分が嬉しいのは自分が解放されたからじゃなくて、クリム先輩が解放されたからっス!!」
「アタシが……?」
「そうっス! クリム先輩がもう力の翼から何もされなくて良いんだと思ったら、自分は嬉しいと思ったっス! そもそもおかしかったんスよ! 何でクリム先輩だけ力の翼に暴力を振るわれているんスか!? そんなの……そんなのってないっスよ……!」
イルウィーンは自分が殺されるかもしれないのを承知で、クリムへ抱きついた。
「自分は今まで、力の翼のためになんか戦ってないんス……! 自分は、口も態度も悪いけど、何だかんだ自分達の事を大切にしてくれるクリム先輩のために戦っているんスよ……」
「イルウィーン、アンタ泣いて……」
「力の翼管轄で、誰一人力の翼に忠誠は誓っていないっス……。みんな、クリム先輩に迷惑をかけないように、クリム先輩の力になりたいから、今まで戦ってきたんスよ……。それをわかってほしいっス」
「アタシのために……」
ヴァールシアとシエルは一瞬目を合わせた。
ヴァールシアは全ての武器を収め、クリムへ近づく。
「クリム、見逃せともこれ以上戦うなとも言いません。ただ、イルウィーンの気持ちだけは汲んであげてください」
「ヴァールシア……アタシは、アンタの言うことだけは」
「聞けとも言ってもいません。貴方が決めることです。これは、貴方が決めることなんだ」
「アタシが……」
クリムが自分の手を胸にやる。それは今までに感じたことのない感情。
この感情に名前をつけるとしたら――。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。んだよ、その感動ドラマはよぉぉぉぉぉ? そんなんじゃ俺は感動なんて一ミクロンも出来ねぇだろうがよおおおおお?」
天空よりおぞましき重圧ッ!
「力の翼様ァァアァァッァァアァァッァァァァ!!!」
クリムが叫んだ。
刹那、ウィズは天空を見上げたッ!!!
「お前が……力の翼ッ!!」
黄金色の大翼持ちし金髪の男。まさに絵本で出てくる天使と呼ぶにふさわしい存在。
ただ、彼から放たれる雰囲気は、ひどく邪悪だった。
「あああああああああああああん!!? タンパク質ごときが俺様の名前を呼んでんじゃあねえよ!!!」
世界が凍りつく。
彼の怒気だけで、世界に影響を与えているのだ。こんな馬鹿な話があるだろうかと、誰もが思う。しかし、現実に起きているのだ。
「力の翼……」
ぐりんと力の翼の目がシエルへ向く。
「しぃぃぃぃぃぃえるちゃんよぉ!! ひっさびさだなぁ! まだ死んでなくて嬉しいぜぇッ!!」
「まだこんなことをしているんだね」
「憐れむなよクソガキ! 俺様を憐れんでいいのは、俺様だけだ! 知恵の翼でもない、お前でもない! この俺だ!」
「ここに何をしに来たの?」
「役立たずのゴミどもを見ていたら、イライラで死にそうになってな! 満を持して、この俺様が出てきた! それだけよ!」
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