愛猫

Huniao

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欲望を惹起する変化

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 その二日後、俺は隣の部屋から聞こえてきた断末魔のような叫びを目覚まし時計代わりに起床した。何事かと思い飛び込んでみれば――なんと、妹に猫耳が生えているではないか!
 おまけに尻尾も生えていた。パジャマの隙間から飛び出し、呼吸に応じて動いている。
 妹はほとんど泣きながらこっちを睨みつけていた。俺はすぐにはあの薬のことを思い出すこともなく、ただただ非現実的な光景に高揚を覚えるだけだった。強いて言えば、土台が我が妹である点がいけなかったが、そんなものを押しのけるほどの威力を、それらは持っていた。その後すぐに殴られたことは、言うまでもないと思う。
 それから俺は妹に何を食わせたのかを問い詰められて薬のことを思い出し、ふむなるほどあれが効いたのだと合点がいった。妹に散々責められたので、少しだけ罪悪感があったが、それよりも目の前に広がる、二次元に限りなく近い物体への好奇心が俺の意識の全てを奪おうとしていた。
 夏休みの憂鬱? なんだそれは。これが俺の自由研究対象だ。

 その四日後には、妹に体毛と猫特有の鼻下と眉骨に生えるヒゲが発生した。変化が起きてからの二日間、彼女は一歩も外に出ることがなく、両親や俺が病院に連れて行こうとするのも全て拒絶した。生憎あの小瓶は家に帰ってすぐに捨てていたし、集団に共通の幻覚作用を及ぼすような薬なんじゃないかなとか想像していたが、それにしても効果が長すぎる。しかしながら、だからといって焦燥感は不思議となかった。彼女も彼女で、意気消沈したような態度であるだけで、むしろ普段よりも大人しくなったが、野菜の好き嫌いが激しくなった。昔ぬいぐるみを好む少女趣味があったが、長らくやめていたそれを取り出し、抱きながら寝ていた。
 そんな状況だが、猫耳狐耳のコスプレイヤーにいつか機会があれば着せたいと思っていた秘蔵の衣装の封を初めて切る手には、重みなんて微塵も感じられなかった!
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