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最終話:小悪魔最強伝説
第7章
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ルカが無自覚なまま色々と考え込む後ろで、翼竜に怯えていたはずのティムは、いつの間にかすっかり懐いてしまったらしい。父竜の背中を滑り台に、母竜とも打ち解けた様子で遊んでもらっている。
おそるべきは子供の順応力――しかし、それ以外の者達は、それぞれが好き放題に諍いを続けていた。
「まったく、どいつもこいつも、聞き捨てなりませんね」
と、ネイトが爽やかな笑顔で吐き捨てる横から、
「ルカ兄ちゃんを一番幸せに出来るのは神父様よ!」
と、アンジェリカが小さな拳を握り締めて力説する。
嘲笑を浮かべたのはビアンカだ。
「たわけが。ルカの好みはわらわぞ。本人がそう申しておるわ」
「アンタなんかに獲られるくらいなら、辺境の海賊王子にでも奪われた方がマシよ」
自信満々の主張を受けて、珍しく声を荒げたのはベリンダだった。容赦なく斬り捨てる側から、ケイシーが少々焦った様子で問い掛ける。
「海賊王子って『男女問わず手の早いイケメン』って人じゃないの?」
迷惑そうに顔を歪めたのはヘルムートだ。
「やめてください、黄金のベリンダ。ビアンカ様が、未知の扉を開き掛けているじゃないですか」
彼の指摘通り、ビアンカはベリンダに反論するでもなく、ハッとした様子で、ルカをまじまじと凝視している。その心情を代弁するかのように、騒ぎ出したのはカインだった。
「『顔が良いだけの粗野な男に、滅茶苦茶にされるルカ』か……うわぁダメだダメだ!」
否定を口にしながら、両手で包み込んだ頬は、明らかに紅潮している。
魔王主従が己の性癖と対峙する様を、氷のような冷たい視線で見下しながら、アデルバートが小馬鹿にしたように笑った。
「なんと。年増好みであったとは。ならば尚の事、ルカは地位も名誉もある我の元へ来るべきだな」
やや強引に、自分こそがルカの庇護者に相応しいと胸を張る。
これに「己も年増であることは認めるのだな」という、世にも恐ろしい冷静な指摘を下したのは、メルヒオールだった。異教の神は、この地の統治者の異論を受け付けず、事も無げに言い放つ。
「そもそもルカは、私の花嫁だ」
慌てたように声を荒げたのはフィンレーである。
「なっ……貴方は俺を応援してくれるのかルカを自分のものにしたいのか、いったいどっちなんだ!」
本音ダダ漏れの追及に、ジェイクが険しい表情で呟いた。
「今完全に、『自分もルカのこと狙ってる』って言ったよな? 言ったようなもんだよな?」
「クソが。いつもの友達ヅラはどこ行ったんだよ」
人間体のレフが犬歯を剥き出しにして吠えるのを尻目に、ユージーンは完璧な笑顔でルカを振り返る。
「ルカ、君は何も聞かなくていいから、こっちにおいで」
聞くに耐えない論争から、自分だけは無関係とばかりにルカを引き離しに掛かるのを、フェロールが胡乱な眼差しで睨め付けた。
『君、そうやってオイシイところ持っていくの、うまいよね』
「………………………………………………………………………………」
人間と魔王、ドラゴンと神までを加えた最終戦争勃発の気配に、ルカはダラダラと冷や汗をかいた。
――さすがに、これはマズイ。何とかしなければ。
慌てた末、咄嗟に「あの!」と右手を高く挙げる。
ルカの声に、一同はひとまず口を噤んだ。険悪な雰囲気はそのまま、取り敢えずルカの話を聞いてくれる様子ではある。
苦し紛れに、ルカはにっこりと微笑んだ。
「と、とにかくみんな、せっかく集まったんだから、食事にしましょう! 僕、みんなとランチ出来るの、嬉しいなあ!」
自分でも、ちょっと気持ち悪いくらいに媚びた言動だとは思う。しかし、「ね?」と首を傾げて見せると、空気が一気に和らいだ。
「――仕方ないなぁ」
ユージーンの呟いた一言が、この場の者達の総意だったのに違いない。
世界大戦の開戦を未然に防いだ孫の功績を無にすることのないよう、主催者でもあるベリンダが場を仕切る。
無用な争いを引き起こさぬよう、ルカは大皿料理を切り分ける係に回された。
作業を分担するシェリルが、大きく溜め息をつき、ルカは反射的に謝罪を口にしてしまう。
「なんか、ごめんね」
せっかく来てくれたのに、高貴な人々が混ざっていては、寛ぎにくいこともあるだろう。ましてや自分のせいで、よくわからない揉め事まで引き起こしてしまった。
けれどシェリルは、兄と同じ色の綺麗な黒髪を揺らして、「ううん」と首を横に振った。
「ルカがそういうタイプだって知ってたつもりだったけど、ここまでとは思ってなかったから、驚いただけ」
「……」
苦い笑いには、返す言葉もない。不快な気持ちにさせたのでなければ良いのだが、しかし、これでは先が思い遣られる。
うーん、と難しい(しかし可愛らしい)表情で、眉間にシワを寄せて対策を考え込むルカの様子を、先程の一連の舌戦には参加せずにいたシェリルは、複雑な想いで見詰める。
ルカを巡って争う、兄を始めとする彼の仲間達と、高貴で高位の存在達。
流されているようで、それを何とか制御してみせたルカ。
子供の頃から比較的近くで育ってきたつもりだったけど、まさかこんな能力を秘めていたとは思わなかった。
わずかな呆れと、それを上回る好意を込めて、シェリルはもう一度溜め息を落とした。
ルカが何もしなくても、ルカのために何かしてやりたいと考える人は、こんなにも多い。それこそ、彼が望めば何だって叶えてくれそうな者ばかりだ。
「――ルカなら世界征服も出来そう!」
シェリルの物騒極まりない発言に、ルカは「しないよ!?」と震え上がった。
■END■
おそるべきは子供の順応力――しかし、それ以外の者達は、それぞれが好き放題に諍いを続けていた。
「まったく、どいつもこいつも、聞き捨てなりませんね」
と、ネイトが爽やかな笑顔で吐き捨てる横から、
「ルカ兄ちゃんを一番幸せに出来るのは神父様よ!」
と、アンジェリカが小さな拳を握り締めて力説する。
嘲笑を浮かべたのはビアンカだ。
「たわけが。ルカの好みはわらわぞ。本人がそう申しておるわ」
「アンタなんかに獲られるくらいなら、辺境の海賊王子にでも奪われた方がマシよ」
自信満々の主張を受けて、珍しく声を荒げたのはベリンダだった。容赦なく斬り捨てる側から、ケイシーが少々焦った様子で問い掛ける。
「海賊王子って『男女問わず手の早いイケメン』って人じゃないの?」
迷惑そうに顔を歪めたのはヘルムートだ。
「やめてください、黄金のベリンダ。ビアンカ様が、未知の扉を開き掛けているじゃないですか」
彼の指摘通り、ビアンカはベリンダに反論するでもなく、ハッとした様子で、ルカをまじまじと凝視している。その心情を代弁するかのように、騒ぎ出したのはカインだった。
「『顔が良いだけの粗野な男に、滅茶苦茶にされるルカ』か……うわぁダメだダメだ!」
否定を口にしながら、両手で包み込んだ頬は、明らかに紅潮している。
魔王主従が己の性癖と対峙する様を、氷のような冷たい視線で見下しながら、アデルバートが小馬鹿にしたように笑った。
「なんと。年増好みであったとは。ならば尚の事、ルカは地位も名誉もある我の元へ来るべきだな」
やや強引に、自分こそがルカの庇護者に相応しいと胸を張る。
これに「己も年増であることは認めるのだな」という、世にも恐ろしい冷静な指摘を下したのは、メルヒオールだった。異教の神は、この地の統治者の異論を受け付けず、事も無げに言い放つ。
「そもそもルカは、私の花嫁だ」
慌てたように声を荒げたのはフィンレーである。
「なっ……貴方は俺を応援してくれるのかルカを自分のものにしたいのか、いったいどっちなんだ!」
本音ダダ漏れの追及に、ジェイクが険しい表情で呟いた。
「今完全に、『自分もルカのこと狙ってる』って言ったよな? 言ったようなもんだよな?」
「クソが。いつもの友達ヅラはどこ行ったんだよ」
人間体のレフが犬歯を剥き出しにして吠えるのを尻目に、ユージーンは完璧な笑顔でルカを振り返る。
「ルカ、君は何も聞かなくていいから、こっちにおいで」
聞くに耐えない論争から、自分だけは無関係とばかりにルカを引き離しに掛かるのを、フェロールが胡乱な眼差しで睨め付けた。
『君、そうやってオイシイところ持っていくの、うまいよね』
「………………………………………………………………………………」
人間と魔王、ドラゴンと神までを加えた最終戦争勃発の気配に、ルカはダラダラと冷や汗をかいた。
――さすがに、これはマズイ。何とかしなければ。
慌てた末、咄嗟に「あの!」と右手を高く挙げる。
ルカの声に、一同はひとまず口を噤んだ。険悪な雰囲気はそのまま、取り敢えずルカの話を聞いてくれる様子ではある。
苦し紛れに、ルカはにっこりと微笑んだ。
「と、とにかくみんな、せっかく集まったんだから、食事にしましょう! 僕、みんなとランチ出来るの、嬉しいなあ!」
自分でも、ちょっと気持ち悪いくらいに媚びた言動だとは思う。しかし、「ね?」と首を傾げて見せると、空気が一気に和らいだ。
「――仕方ないなぁ」
ユージーンの呟いた一言が、この場の者達の総意だったのに違いない。
世界大戦の開戦を未然に防いだ孫の功績を無にすることのないよう、主催者でもあるベリンダが場を仕切る。
無用な争いを引き起こさぬよう、ルカは大皿料理を切り分ける係に回された。
作業を分担するシェリルが、大きく溜め息をつき、ルカは反射的に謝罪を口にしてしまう。
「なんか、ごめんね」
せっかく来てくれたのに、高貴な人々が混ざっていては、寛ぎにくいこともあるだろう。ましてや自分のせいで、よくわからない揉め事まで引き起こしてしまった。
けれどシェリルは、兄と同じ色の綺麗な黒髪を揺らして、「ううん」と首を横に振った。
「ルカがそういうタイプだって知ってたつもりだったけど、ここまでとは思ってなかったから、驚いただけ」
「……」
苦い笑いには、返す言葉もない。不快な気持ちにさせたのでなければ良いのだが、しかし、これでは先が思い遣られる。
うーん、と難しい(しかし可愛らしい)表情で、眉間にシワを寄せて対策を考え込むルカの様子を、先程の一連の舌戦には参加せずにいたシェリルは、複雑な想いで見詰める。
ルカを巡って争う、兄を始めとする彼の仲間達と、高貴で高位の存在達。
流されているようで、それを何とか制御してみせたルカ。
子供の頃から比較的近くで育ってきたつもりだったけど、まさかこんな能力を秘めていたとは思わなかった。
わずかな呆れと、それを上回る好意を込めて、シェリルはもう一度溜め息を落とした。
ルカが何もしなくても、ルカのために何かしてやりたいと考える人は、こんなにも多い。それこそ、彼が望めば何だって叶えてくれそうな者ばかりだ。
「――ルカなら世界征服も出来そう!」
シェリルの物騒極まりない発言に、ルカは「しないよ!?」と震え上がった。
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