小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

文字の大きさ
上 下
118 / 121
最終話:小悪魔最強伝説

第4章

しおりを挟む
「やあやあ! 待ってたよ!」
 エプロン姿のユージーンが、ルカとフィンレーの間に割って入った。手にはサラダの大皿を抱えている。
「早速だけど、まだ準備の途中なんで、手伝ってくれるかな!」
 矢継ぎ早に捲し立てながら、ユージーンはフィンレーの手にサラダを載せた。愛馬の手綱を握ったままだったことに気付いたフィンレーは、「あ、ああ」と言い澱みながらも、素直に従う。
 先程のジェイク同様、テーブルまで大皿を運んだフィンレーが、玄関ポーチにオフィーリアを繋ぎに向かうのを見届けてから、ユージーンはルカに向き直った。
「ルカ、昔からずっと言ってるだろう。不用意に男性と二人きりになるものじゃないって」
 あまりにタイミングの良い登場はどうやら、ルカとフィンレーの醸し出す甘酸っぱい空気に気付いて、キッチンから急ぎ駆け付けたためらしい。恐るべきスピード、恐るべき「ルカ探知能力」だ。
 その小言に、ネイトが「さすがに『二人きり』は無理があるでしょう」と嘲笑し、レフが「どの口が言ってんだ」と辛辣しんらつに切り捨て、ジェイクは「お前それじゃ、お母さんだぞ」と憐れむような視線を向ける。
「うるさいな」
 一斉に浴びせかけられるツッコミをいなして、ユージーンは、お小言はこれまでとばかりに、ルカに向かってにっこりと微笑み掛けた。彼の最強の武器でもある美貌を最大限に活かしたアプローチに、ルカは思わず頬を赤らめる。
 帰還してからのユージーンに、目立った変化はない。
『大好きだよ、ルカ。今までもこれからも、君の隣に並ぶのは僕だ。誰にも譲るつもりはないよ』
 はっきりと明言してくれる好意には以前と変わったところはなく、それだけに、どこか他の仲間達よりも優位に立っているような、余裕めいたものが垣間見える。
 そしてルカの方でも、度を越した美形かつ同性の幼馴染みに、ストレートに愛を伝えられるという行為には、いつまで経っても慣れることはなかった。
 気恥ずかしさと気まずさに視線を泳がせるルカを、並んで腰かけたソファの端まで追い詰めたユージーンは、バッチリとウィンクを決めて宣言したのだ。
『今は知っててくれればいいよ。僕は気が長いからね』
 それはきっと、ユージーンの自信の顕れであり、他者に負けるつもりがないからこその発言だったのだろう。
「……」
 ユージーンの背に庇われたまま、ワイワイと盛り上がる仲間達の様子を眺めながら、ルカは改めて、ユージーンという存在について考える。
 斥候せっこうの旅への同行を頼んだ時もそうだったが、彼が傍に居るのが当たり前になっているのは、やはり家族のような距離の近さ、安心感のためだろうか。でも、他の仲間がそうではないかといったら、決してそんなことはない気もするし……。
 ――ああ! 人生でイケメンに迫られるのは一人だけでいい。誰かを選ぶなんて出来ないし……というか、そもそもなんで男前提なの!?

「あらあら。今日もあなたは人気者ねぇ」
 一人悶絶するルカに向かって、おっとりとした声が掛けられた。振り返ると、祖母のベリンダが微笑んでいる。彼女の周囲にふわふわと浮かんでいるのは大量の大皿料理だ。キッシュやパスタにミートローフなど、全員で取り分けられる分量の手料理を軽々と運べるのだから、本当に魔法というのは素晴らしい能力だ。
「おばあちゃん嬉しいわ」
 言いながらベリンダは、白魚のような右手を一振りした。宙に浮いていた大皿が、サッとテーブル上に並べられる。当たり前のように見事な魔法を披露しながら、ベリンダは、相変わらずモテモテの我が孫にご満悦の様子だ。やはり、自分を巡って起こる揉め事に関して、彼女の救援は期待できそうにない。
 思わず微苦笑を漏らしたルカに、ベリンダは内緒話でもするかのように、若々しい美貌を近付けてくる。
「大丈夫よ。おばあちゃんは、ルカが選んだ人なら誰だって応援するわ」
 悪戯っぽい魅力的な表情が、そこでふと真顔になり、「でもビアンカだけはダメ」と付け加えられた。
 ルカの相手として、ビアンカを疎む祖母の気持ちは、痛いほど理解できる。それ以外なら誰を選んでも認めると言ってくれるのは、ありがたいことだ。
 しかしベリンダには、なぜか最初からこんな風に、ルカが同性を選ぶことを想定しているかのようなフシがあった。それは、ルカの周囲に、ルカを好いてくれる美形男子が多いというだけのことなのかもしれない。だが、ルカはたまに考えることがあった――まさか、大魔法使いである祖母にも、予知や予言が可能だったりはしないだろうか、と。もしそうなら、健全な青少年としては由々しき事態だ。
 けれどそれ以上に、ルカには気に掛かることがあった。優しい祖母が「一番大事なのはルカの気持ち。ルカを幸せにしてくれる人なら(ビアンカ以外なら)誰でも許せる」と思ってくれているのは間違いない。しかしその一方で、「ルカの子供を見てみたい」と考えているらしいことにも、ルカは何となく気付いている。それは祖母の、亡き娘、そしてその子供であるルカに対する愛情の深さと無関係ではないはず。
『私の可愛いエリス。その子供のルカがこれだけ可愛いのだから、曾孫ひまごだって可愛いに決まってるわ!』
「――ありがとう」
 色んな意味を込めて、ルカは感謝を口にした。将来のことに加えて、恋愛面でもこんな悩みを抱えることになるとは思いもよらなかったが、祖母がルカの幸福を願ってくれていることは、疑いようのない事実だったから。
 照れ笑いを浮かべて見上げたベリンダは、今日も美しい。――が、その表情が何かを察したように、不意に引き締まる。
「!」
 仲間達と言い争っていたユージーンとレフが、揃って空を見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

続・聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』(完結)の続編になります。 あらすじ  異世界に再び召喚され、一ヶ月経った主人公の古河大矢(こがだいや)。妹の桃花が聖女になりアリッシュは魔物のいない平和な国になったが、新たな問題が発生していた。

紅(くれない)の深染(こそ)めの心、色深く

やしろ
BL
「ならば、私を野に放ってください。国の情勢上無理だというのであれば、どこかの山奥に蟄居でもいい」 広大な秋津豊島を征服した瑞穂の国では、最後の戦の論功行賞の打ち合わせが行われていた。 その席で何と、「氷の美貌」と謳われる美しい顔で、しれっと国王の次男・紅緒(べにお)がそんな事を言い出した。 打ち合わせは阿鼻叫喚。そんななか、紅緒の副官を長年務めてきた出穂(いずほ)は、もう少し複雑な彼の本音を知っていた。 十三年前、敵襲で窮地に落ちった基地で死地に向かう紅緒を追いかけた出穂。 足を引き摺って敵中を行く紅緒を放っておけなくて、出穂は彼と共に敵に向かう。 「物好きだな、なんで付いてきたの?」 「なんでって言われても……解んねぇっす」  判んねぇけど、アンタを独りにしたくなかったっす。 告げた出穂に、紅緒は唐紅の瞳を見開き、それからくすくすと笑った。 交わした会話は 「私が死んでも代りはいるのに、変わったやつだなぁ」 「代りとかそんなんしらねっすけど、アンタが死ぬのは何か嫌っす。俺も死にたかねぇっすけど」 「そうか。君、名前は?」 「出穂っす」 「いづほ、か。うん、覚えた」 ただそれだけ。 なのに窮地を二人で脱した後、出穂は何故か紅緒の副官に任じられて……。 感情を表に出すのが不得意で、その天才的な頭脳とは裏腹にどこか危うい紅緒。その柔らかな人柄に惹かれ、出穂は彼に従う。 出穂の生活、人生、幸せは全て紅緒との日々の中にあった。 半年、二年後、更にそこからの歳月、緩やかに心を通わせていった二人の十三年は、いったい何処に行きつくのか──

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

幸福からくる世界

林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。 元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。 共に暮らし、時に子供たちを養う。 二人の長い人生の一時。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...