小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

文字の大きさ
上 下
49 / 121
第1部・第8話:俺様王と小悪魔系救世主

第8章

しおりを挟む
 本来の日程から、遅れること一週間。
 ラインベルク王国、王都ヴェスティアの王宮では、魔王斥候隊せっこうたいの任命式、及び出立式が、盛大に執り行われた。
 黄金のベリンダこと、大魔法使いベリンダ・ミドルトン。
 その孫にして、魔王を倒す『予言の子供』、ルカ・フェアリーベル。
 二人を支えるのは、ベリンダの愛弟子、ユージーン・バトラー。剣士フィンレー・アクセル・ボールドウィン。正エドゥアルト教会の司祭、ナサニエル・ベイリー。格闘家ジェイク・エヴァンズの四名。
 元々国家の期待を背負って結集した彼らは、魔王軍の襲撃から王都を救ったことと、その復興支援での尽力により、民衆の支持を一層強固なものにしていた。
 出立する彼らの勇姿を一目見ようと押し掛けた人々で、沿道は埋め尽くされている。



 王宮の庭に出た黄金のベリンダ一行は、大きな歓声に迎えられた。
 正面の大通りに向かって敷かれた赤い絨毯の両脇には、帯剣した騎士達が居並んでいる。
『必ず無事で戻れ』。
 式典ののち、アデルバートに声を掛けられた時のことを思い出して、ルカはふと王宮を振り仰いだ。
 今は3階のテラスに佇み、悠然とこちらを見下ろすアデルバート2世は、ルカの頬に触れ、間近に瞳を覗き込んで笑った。凄味のある美貌に射竦められたルカは、羞恥に頬を染めて狼狽えつつ「ハイ」と答えるしかなかったのだが、その様子を仲間達が、それはそれは嫌そうに睨み付けていたことには気付いていない。
 王宮前には、王都住まいの有力貴族達が詰め掛けていた。大半が、予言の子供と、ベリンダ子飼いの斥候隊員の姿を見ておこうとの興味本位であるのは間違いない。
 しかし、物見遊山ものみゆさん気分の貴族の中に、ローザリンデ・ベルトホルト公爵令嬢の姿を見付けて、ルカはハッと目を見開いた。白地に青の装飾を施したドレス姿は、今日も輝くばかりに美しい。
 ルカの視線に気付いたローザリンデは、並んで立つ紳士――恐らくは父親のベルトホルト公爵共々、優雅な礼で応えてくれた。ルカが彼らの減刑を訴えたことを、どこからか聞き及んだのだろう。
何にせよ、アデルバートは約束通り、ベルトホルト家への厳罰を解いてくれたということだ。
 ――良かった!
 喜びに突き動かされるまま、ルカはローザリンデに向かって大きく手を振った。わずかに面食らった様子のローザリンデは、それでも微苦笑を浮かべて、小さく手を振り返してくれる。
 それから思い立って、ルカはアデルバートにも手を振ってみた。昨夜までの交流からみるに、彼には意外と子供っぽいところがある。ローザリンデに手を振る姿を見られているなら、「我には振らなかったな」などと言われかねない、というのが理由だ。しかし、いよいよの出立に、ルカ自身少しだけ気が大きくなっていたことも無関係ではなかった。
 アデルバート2世が予言の子供に手を振り返すのを見て、貴族達がわずかにどよめく。

 一連の様子を眺めていたユージーンが、胸を押さえて深い息を吐いた。美しい容貌も相俟あいまって、悲劇を演じる舞台俳優のようにも見える。
「どうした?」
 堂々たる体躯に戦斧せんぷを担いだジェイクが、凛々しい眉をひそめた。幼馴染みであるだけに、自然界の万物と語り合う魔法使いの感覚には、一目置くところがあるのだ。
 苦痛を堪えるように、整った顔を歪めて、ユージーンは答えた。
「……悪寒がする」
「大丈夫か?」
 気遣わしげに聞いたのは、貴公子然とした軍服風の装いに、長剣を背負ったフィンレーだ。決して仲が良い訳ではないけれど、仲間を思いやる真っ直ぐな気性が、いかにも彼らしい。
 するとネイトが、「それは大変」と大仰おおぎょうに驚いて見せた。派手さはないが、品良く整った顔に、穏やかな笑みを浮かべて言い放つ。
「大事を取って、あなたは王都に残りますか?」
 暗に、「ルカに近付く者は一人でも少ない方が良い」との提案に、ユージーンは敬語も忘れた様子で「ふざけるな」と即座に噛み付いた。
 言い争う若者達を眺めながら、黄金のベリンダは美しい眉根を寄せて、困ったように微笑む。
「仲が良いわねぇ」
「だよね!」
 祖母の婉曲表現に、ルカはコクコクと頷いた。一周回って、だけどね! という注釈は、ひとまず飲み込む。
『……』
 羽織ったローブのフードの中、今日もピタリとルカに寄り添ったぬいぐるみ体のレフだけは、男達の騒動などどうでも良さそうに、主のぬくもりを享受している。

 その頃、王宮3階の豪奢なテラスでは、が、満足げに微笑んでいた。
 ローザリンデに手を振った後、自分に向かって両手を振るルカの、なんと愛らしかったことか。
 あどけない様子を思い返しながら、アデルバート2世は、「決めたぞ」と、側近くに控えた近習に宣言した。
「――予言の子供を、我の小姓として召し抱える」



 レッドカーペットに足を踏み出した途端、勇ましいファンファーレが鳴り響く。
 騎士達が一斉に剣を掲げた。
 はなむけの花びらが舞う中を、斥候隊は出立していく。
 沿道の人々の中に、正エドゥアルト教会の司祭達に連れられた、見知った子供達の姿を見付けて、ルカは大きく手を振った。
 彼らの笑顔を守るためにも、ルカは魔王と戦わなければならない。
 帰郷後にどんなゴタゴタが待ち受けているのか、考えもつかない無自覚な小悪魔ルカは、少年らしく、未知の冒険に胸を高鳴らせていた。


 第8話 END/第1部 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

処理中です...