小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

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第1部・第6話:ユージーン

第5章

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「どうして僕を誘ってくれなかったの?」
「えっ、着いてきてくれるんじゃなかったの!?」

 ユージーンからの質問が意外すぎて、ルカは咄嗟に聞き返した。
 いや、ユージーンの態度がおかしい理由として、好きな人が出来たとかで「一緒に行けなくなった」と言われるかもしれないとは思ったりもしたけれど、そもそもは一緒に居るのが当たり前、だと思っていたから、ユージーンの疑問はルカにとって、本当の本当に寝耳に水だったのだ。
「え、ごめん、てゆーか僕、てっきりユージーンは一緒に来てくれるものだと思っちゃってた……!」
「……!」
 矢継ぎ早に言い訳を繰り出しながら、ルカは頬がどんどん熱くなるのを自覚していた。
 ああ、言われてみれば、これは確かにルカが悪い。ユージーンの意図を確認しないまま、着いてきてくれるのが当たり前だと思い込んでいた。彼の自主性を無視する行為であり、とても申し訳ないことだと思う。
 だがそれ以上に、自分のユージーンに対する依存心の強さを露呈してしまったようで、恥ずかしくてたまらなかった。
「うわぁ、ホントにごめん!!」
 両手で赤面した頬を隠すようにして、必死で謝罪を繰り返す。半ばパニック状態の頭の中で、ルカはこれまでの、フィンレーやジェイクの態度の不自然さを思い返していた。
『3人……3人!?』
『アイツに直接聞いてやれ』
 深く考えては来なかったけれど、今ならわかる。
 ルカの反応から、おおよそのことは理解できたらしいユージーンが、少しだけ意地悪そうに唇の端を吊り上げた。
「きみは、『自分を守る3人』として、誰を想定してたの?」
 美青年は、どんな表情もサマになる。トラウマをズキズキと刺激されながらも、自分の非を認めざるを得ないルカは、正直に答えた。
「――ユージーンと、ジェイクと、フィンレーです……」
 そう。ルカは祖母に課された「あなたを守ってくれる人を3人連れてきなさい」という条件に見合う人物として、最初から、ユージーン、ジェイク、フィンレーの3人を想定していた。ネイトは教会のみならず孤児院の職務もあるため、誘ってはいけないのではないかと思っていたから、数には入っていない。
 当然着いてきてくれるものと思い込んでいたユージーンについては、結果的に後回しみたいになってしまったものの、ある意味では、彼は筆頭のような存在だ。傍に居てくれるのが当たり前になっていた。だからこそルカは、彼の態度に不安を感じ、着いてきてくれなかったらどうしようと、思い悩むことにもなったのだから。
「そうか……」
 申し訳なさに肩を落とすルカは、ユージーンの幸せそうな微笑には気付けなかった。
 誘って貰えず拗ねていただけの彼には、ルカが恥じ入る自分への依存心こそが、何より嬉しいのだろう。
「きみの気持ちはわかったから、もう気にしないで」
 優しく頭を撫でられ、ルカはようやく、ホッと安堵の息をついた。

                  ●

「お願いがあるんだけど」
 すっかり自尊心の回復したらしいユージーンが言ったのは、落ち着いて話せるよう、庭のポールベリーの樹の元に場所を移した直後のことだった。
 ルカがジェイクを訪ねていた間、ユージーンは昨日に引き続いてのベリンダの自習用課題――成長させたオレンジツリーの実を実らせること――を、早々にクリアしていたらしい。辺りには徐々に夕闇が迫ってきており、後はベリンダの帰りを待つのみだ。それまでは自由時間である。
 お気に入りの場所、大樹の奇妙に湾曲した節の部分に飛び乗ってから、ルカは「何?」と小首を傾げた。彼に対する負い目がある今、大抵のことなら聞かねばならぬと、少しだけ身構える。
 ユージーンは樹の傍に立ったまま、悪戯っぽく肩を竦めて見せた。
「やっぱり、君の口から、ちゃんと誘って欲しいな」
 可愛らしいおねだりに、ルカは軽く瞠目どうもくした。
 これもまた、確かにユージーンの言うとおりかもしれない。本来なら斥候隊せっこうたい加入はルカからのお願い事なのだから、けじめをつけるという意味でも、きちんと言葉にしておくべきだろう。
 しかし、改めてとなると、少々照れる。
 わずかに逡巡してから、ルカは、普段よりも視線の近い幼馴染みを見上げた。
「ユージーン、僕と一緒に来て。迷惑かけるかもしれないけど、精一杯頑張るから……僕のこと、守ってくれないかな?」
 我ながら、男としては情けない限りのお願いだ。
 しかしユージーンは、美しい顔をキリリと引き締め、即答する。
「元々僕に、君から離れる選択肢なんてない。君が行くというのなら、どこまでもついていくよ」
 そして流れるような自然な所作でルカの手を取り、指先に口付ける。
「君の隣に立つべきは、僕だ」
「!!」
 ――なんか本気で来た////!!
 イケメントラウマをバッキバキに刺激されるのと同時に、途方もない恥ずかしさに襲われて、ルカは頬を真っ赤に染めた。
 咄嗟にユージーンの手を振り払い、ごまかすようにポールベリーの樹から飛び降りる。
「こ……っ、これからもよろしくね!」
 マトモにユージーンの顔を見ることも出来ず、明後日の方向に向かって叫んだルカは、ちょうどそこに真っ黒な猫を見付けて、これ幸いとばかりに飛び付いた。ビクリと動きを止めた黒猫を抱え込み、半ばむりやり可愛がりながら「君はどこの子かな~初めて見る顔だね~」と必死に話題を逸らすルカに対して、ユージーンはというと、めげた様子もなく「先生に報告しないとね♪」と楽しそうに微笑んでいる。
 ――それって、交際の、とかじゃないよね?
 自分の心中でのツッコミに、盛大に赤くなったり青くなったりを繰り返すルカに向かって、黒猫が何かを抗議するようにニャーンと鳴いた。


第6話 END
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