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停滞

普通の生活 2

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 食後、僕は千聖達に来た理由を訪ねてみた。こういうことは普通もっと早く聞いておくべきなのだろうが、色々なことが起きすぎて完全に頭からすっぽ抜けていた。というか、二人には上手いこと躱されていた気もするのだが。
 卓袱台の上はさっきまでの煌びやかな様子と打って変わって、素朴な木目が浮かび上がり、三つの紅茶の入ったコップが並んでいる。
 僕と対面して座っているのが千聖、そして左手で壁にもたれながら、だらけているのが理英。
 「私たちがここに来た理由?」
 「うん。聞いておこうと思って」
 「なんでだろうね。大地のこと話してたらいつの間にか足がこの家に向かっちゃった」
 千聖は僕から目を逸らして、明らかにいつもと違う態度で接する。流石に二年の付き合いがあるからそんなことは直ぐに分かる。
 「ちひ、資格の事本当にそれで大丈夫なのか心配だからきたんじゃなかったっけ」
 「理英、そんなこと言わなくてもいい」
 そういうことかと、気付き僕は少し俯いてしまった。図星だったからだ。
 「それで、大知本当にエンジニア? で大丈夫なの? 私は別に大知のしたいことに野次を飛ばすわけじゃないんだけど、心配で」
 「それは、俺にも分からない。男に二言は無いって言うからやらないといけないけないなって、思ってるんだけど今更初めてどうこう出来る話じゃないし」
 僕はいつの間にか愚痴をこぼすように、何故か何も悪くない千聖のことを責めるように話し始めていた。どれだけ文句を言ったところで何も変わらない事は一番自分が理解しているはずなのに、なぜか言葉は止まらなかった。
 はっきり言って今の僕は何をして欲しいのかもよく分からない。褒めて欲しいのか助けて欲しいのか、それとも貶して欲しいのか。それすらも分からなくなっていた。
 「それで結局、大知くんは何が言いたいわけ? 言い訳をするだけなら、後にしてくれないかな。千聖も全ての時間を君にかけられるわけじゃないんだし」
 ここで、お前らが勝手に来たんだろとは口が裂けても言えない。もともと、僕がちゃんとしておけばこうなる事も無かったのだ。千聖が泣く事なんて絶対になかったはずなのだ。
 「俺だって、夢を叶えたいけど今後の事を考えたら、そんな無謀な事、やるだけ無駄だ。どうせ合格しなくて、期待だけを産んでしまう」
 「あのね、さっきの言葉本気で言ってるの? 就職して正社員として、働くことも大切かもしれないけど、誰も無謀だとも思ってないし、責める人もいないと思うよ。もしそんな風に本気で思ってるなら、何れ千聖とも別れちゃうんじゃない?」
 彼女は真摯に僕の話を聞いて、真面目に返してくれた。本当に彼女は正論しか言ってない。でも、自分の心の傷というかコンプレックスに触れられて、少し腹が立ってしまう。でも、頑張って怒りを鎮めた。
 「ありがとう、理英。でも、今日は帰ってくれないか? 一人で考えてみたい。それと、千聖にも、ごめんありがとうって伝えといてくれ」
 今の僕には、これしかすることが出来なかった。逃げて、話を先送りすることしか出来なかった。
 「分かった。でも、話がまとまったら千聖に連絡入れてあげて。私には不要だから。千聖立てる? 帰ろっか」
 そして、彼女たちは玄関を出て、卓袱台に残ったコップが閑散と残っていた。汗をかいて、机を濡らしている。
 でも、冷静になっていないこの状態では何も考えることは出来ない。でも、かといって気分転換なんかする気にもならない。そして、僕は残っていた紅茶を一気飲みして、机に叩きつけるように置いた。
 
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