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Obsession
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声が聞こえるの。いつからだろう、声の存在なんて気にしたことなかったから。
冷静に考えてみたらそうだ。声なんか聴こえないはずなの。いや、聴こえちゃいけないはず。最近は声が聞こえてこなくなって、少し怖さまで感じていた。
私にとって一番仲のいい友達に相談してみた。畏怖の表情と異常者を見るような表情を浮かべて、私を見つめて。それからというもの、彼女とはほぼ絶縁となってしまった。嫌われた。そう感じた。
そして、いつの日からかみんなは私のことをパラノイアって言い始めた。パラノイア、簡単に言えば、妄想癖ってやつ。小難しく言うと偏執病。被害妄想とかも度が過ぎればこれに分類されるのかな。医者じゃないからそこのところよく分からないけれど。
いつの間にか、クラスメイトの数人に私の声っていう存在を知られていた。その頃からかな、いじめみたいなのが多くなってきた。いや、いじめじゃないのか。私なんかがいじめって感じるなんてね、ただの自意識過剰か。いつもより、いろんな子と喋れるようになったんだから、嬉しいことなのに。
誤魔化しているつもりはないんだけど、こう思うと彼、声がまたふっと私のところへ帰ってくるの。でもね、前と違うところが少しあってね、執拗に私を攻撃的なの。君の友達になったつもりはないとか、僕を見るなんて馬鹿みたいで滑稽だって言ってくるようになったの。
だから、私は僕の声に従って、行動するようになった。誰からも嫌われたくなかったから。そしたらね、周りの人たちは私のことをよく見てくれるようになった。ただ、距離は遠くなったようにも感じたけれど。自分の良心に従って行動する。なんて気持ちのいいことなんだってね。何もかもうまく行っていたんだよ。
ある日、私はクラスメイトの佐々木さんと思われる人に話しかけられたんだ。どうにも、離れたいって気を良く感じ取れたのだけれど。それでも、私には話しかけられたことがとっても嬉しかったんだ。今まで、クラスメイトと話す機会はなかったはずだから。
彼女は私の容姿を注意深く観察したのちに、決心を決めたのか、唾をのみ、真剣な眼差しで、口を開いた。
「あなたって、いつも授業中とか休み時間、何やってるの? えっと、誰かと喋ってるようだけど。私はあなたのこと嫌いじゃないっていうか、むしろ好きっていうか、気になるんだけど」
嘘っぽい、彼女に私はそんな感情を抱いた。でも、これが嘘じゃないとすれば、私にとっての一番の幸福。人、いや他人から好かれるってことが起こるのかな。嘘だったら、恐怖しか湧き出ない。ただ、少し彼女を信じるだけで、私にとって最大の幸福が得られる。
彼女と喋ったことなんてないし、名前もよく知らない。先入観で判断しちゃいけないけれど、怖い。でも彼女の眼は真剣で疑う余地はないはず。ただ、本能が、心が、駄目だって言っている気がするの。
これも私の妄想によるものなのかな。ただ、私は彼を信じたから、彼を、私を信じたから、僕は今、こうやって幸せへの階段を歩めたんだ。彼を信じるべきなのかな。でも、いつもは助言してくれる彼の声が、今日は聞こえない。
私は誰を信じて、誰を信じる。彼しかいないのに。
急に来る酩酊感と頭痛から思考が止まった。彼を信じても、彼がいない恐怖と、僕を信じられない私が彼を探して、私は何を言っているんだろう。前に見えたホワイトボードがぼやけてきて、不安げに僕を、私をみた佐々木さんの表情が歪んで見えて。やっぱり、憎んでいて、嘘だったんだ。
「…………の、……あの、千里さん。大丈夫? ぼーっと、ホワイトボードの文字見てるけど。体調悪い? 保健室にでも行く?」
何分経っただろう。いや、数十秒しかたってないのかもしれない。佐々木さんが不安げに僕のことを見ていた。私はハッと気が付いて、いきなり背筋を伸ばした。
「す、すみません。ちょっとぼーっとなってた。ぼ、いや私は大丈夫なんだけど、さっきの質問、もう一回してくれないかな?」
「え、あ、うんいいけど。ほんと大丈夫? あの質問してから、急に、だったけど」
やっぱり、僕は違っていたみたい。彼女に悪意はなかったんだ。彼女は僕を本気で心配してくれた。私は間違っていた。やっぱり、彼がいないと自分でお話しをうまくまとめることすらできないんだ。
大丈夫。彼がいてくれたら、僕は間違わないんだよね。なんで、僕は彼に腹を立てているのだろうか。私がしっかりしてなかったから、こうなったはずなのに。私は弱い人なのかな。
「大丈夫です。あと、えっと、思い出したので質問答えるね」
気に入られる方法。探していたのに解決しなかった。いろいろとネットには解決策は載っていたんだ。策であって、方法ではないんだけど。それで、分かったんだよね。私は私が好きであって、私自身が好きじゃない。だから、私自身を好きになることができる、他人が好きなんだ。
「私、ちょっとだけ霊感みたいなのがあって、そのせいなのかな。変な子とか、痛い子だって言ってくれていいですよ。分かっているから」
私は本当を言うことが怖かった。本島を言うことで人がいなくなったことが怖くて、少し包んでいってしまった。いつかはばれるはずなのに。
聞いた彼女は、少し悩んだような表情を見せて、手でストップとジェスチャーをして何かを考えていた。僕はそれを見て終わりを感じたんだ。彼からも見放されて、せっかく友達になれるかもしれない子も失くしてしまったって。
しばらくして、彼女は結論を見つけ出したのか、顔を上げた。
「霊感ね。大変じゃない? お節介かもだけどさ。手伝ってあげたい。だって、私とかこのクラスとかの人が見えないものが見えてるわけでしょ? 普通じゃないって言いたいんじゃないんだけど、なんだろ、私が最初あなた、千里さんを怖がってたこと謝るよ。気色悪いなって思ってて。いまじゃ、千里はすごいなって思うよ」
なんでかな。思ったよりも私は私自身を知ってなかったんだって、知らされた。ただ、これは彼に聞いても出てこない答えだったのかも。彼はすぐに僕の考えを否定して、全く別の考えを与えてくれるから。少したりとも同情はなかったから。
こう思えば、解決法を提示されていても、先入観や憶測だけで、彼女を遠ざけていた私は気に入られるってこととは無縁だったのかも。旧友も私のせいで仲違いしたんだろうし。ただこれも憶測なのかな。
でも、憶測であっても、壊れたことは事実であって。そのことが私からは離れなかった。だからこそ、今は取り戻せない断片を作り変えてでも、取り返したかった。彼女を旧友に見立てて。
「ありがと。いろいろ、お願いします」
初めて誰かにこうやって感謝を言えた気がする。そして、初めて彼以外から私を知ってもらえた気がした。嬉しさを知って、私は知ることができるのかな。理解することができるのかな。私は私自身を好きで、私が好きじゃないって。
目の前が、揺れてきた。涙かな。久しぶりに出したかもしれない。私にとって何が必要だったのかな。今では少し理解できた気がする。
冷静に考えてみたらそうだ。声なんか聴こえないはずなの。いや、聴こえちゃいけないはず。最近は声が聞こえてこなくなって、少し怖さまで感じていた。
私にとって一番仲のいい友達に相談してみた。畏怖の表情と異常者を見るような表情を浮かべて、私を見つめて。それからというもの、彼女とはほぼ絶縁となってしまった。嫌われた。そう感じた。
そして、いつの日からかみんなは私のことをパラノイアって言い始めた。パラノイア、簡単に言えば、妄想癖ってやつ。小難しく言うと偏執病。被害妄想とかも度が過ぎればこれに分類されるのかな。医者じゃないからそこのところよく分からないけれど。
いつの間にか、クラスメイトの数人に私の声っていう存在を知られていた。その頃からかな、いじめみたいなのが多くなってきた。いや、いじめじゃないのか。私なんかがいじめって感じるなんてね、ただの自意識過剰か。いつもより、いろんな子と喋れるようになったんだから、嬉しいことなのに。
誤魔化しているつもりはないんだけど、こう思うと彼、声がまたふっと私のところへ帰ってくるの。でもね、前と違うところが少しあってね、執拗に私を攻撃的なの。君の友達になったつもりはないとか、僕を見るなんて馬鹿みたいで滑稽だって言ってくるようになったの。
だから、私は僕の声に従って、行動するようになった。誰からも嫌われたくなかったから。そしたらね、周りの人たちは私のことをよく見てくれるようになった。ただ、距離は遠くなったようにも感じたけれど。自分の良心に従って行動する。なんて気持ちのいいことなんだってね。何もかもうまく行っていたんだよ。
ある日、私はクラスメイトの佐々木さんと思われる人に話しかけられたんだ。どうにも、離れたいって気を良く感じ取れたのだけれど。それでも、私には話しかけられたことがとっても嬉しかったんだ。今まで、クラスメイトと話す機会はなかったはずだから。
彼女は私の容姿を注意深く観察したのちに、決心を決めたのか、唾をのみ、真剣な眼差しで、口を開いた。
「あなたって、いつも授業中とか休み時間、何やってるの? えっと、誰かと喋ってるようだけど。私はあなたのこと嫌いじゃないっていうか、むしろ好きっていうか、気になるんだけど」
嘘っぽい、彼女に私はそんな感情を抱いた。でも、これが嘘じゃないとすれば、私にとっての一番の幸福。人、いや他人から好かれるってことが起こるのかな。嘘だったら、恐怖しか湧き出ない。ただ、少し彼女を信じるだけで、私にとって最大の幸福が得られる。
彼女と喋ったことなんてないし、名前もよく知らない。先入観で判断しちゃいけないけれど、怖い。でも彼女の眼は真剣で疑う余地はないはず。ただ、本能が、心が、駄目だって言っている気がするの。
これも私の妄想によるものなのかな。ただ、私は彼を信じたから、彼を、私を信じたから、僕は今、こうやって幸せへの階段を歩めたんだ。彼を信じるべきなのかな。でも、いつもは助言してくれる彼の声が、今日は聞こえない。
私は誰を信じて、誰を信じる。彼しかいないのに。
急に来る酩酊感と頭痛から思考が止まった。彼を信じても、彼がいない恐怖と、僕を信じられない私が彼を探して、私は何を言っているんだろう。前に見えたホワイトボードがぼやけてきて、不安げに僕を、私をみた佐々木さんの表情が歪んで見えて。やっぱり、憎んでいて、嘘だったんだ。
「…………の、……あの、千里さん。大丈夫? ぼーっと、ホワイトボードの文字見てるけど。体調悪い? 保健室にでも行く?」
何分経っただろう。いや、数十秒しかたってないのかもしれない。佐々木さんが不安げに僕のことを見ていた。私はハッと気が付いて、いきなり背筋を伸ばした。
「す、すみません。ちょっとぼーっとなってた。ぼ、いや私は大丈夫なんだけど、さっきの質問、もう一回してくれないかな?」
「え、あ、うんいいけど。ほんと大丈夫? あの質問してから、急に、だったけど」
やっぱり、僕は違っていたみたい。彼女に悪意はなかったんだ。彼女は僕を本気で心配してくれた。私は間違っていた。やっぱり、彼がいないと自分でお話しをうまくまとめることすらできないんだ。
大丈夫。彼がいてくれたら、僕は間違わないんだよね。なんで、僕は彼に腹を立てているのだろうか。私がしっかりしてなかったから、こうなったはずなのに。私は弱い人なのかな。
「大丈夫です。あと、えっと、思い出したので質問答えるね」
気に入られる方法。探していたのに解決しなかった。いろいろとネットには解決策は載っていたんだ。策であって、方法ではないんだけど。それで、分かったんだよね。私は私が好きであって、私自身が好きじゃない。だから、私自身を好きになることができる、他人が好きなんだ。
「私、ちょっとだけ霊感みたいなのがあって、そのせいなのかな。変な子とか、痛い子だって言ってくれていいですよ。分かっているから」
私は本当を言うことが怖かった。本島を言うことで人がいなくなったことが怖くて、少し包んでいってしまった。いつかはばれるはずなのに。
聞いた彼女は、少し悩んだような表情を見せて、手でストップとジェスチャーをして何かを考えていた。僕はそれを見て終わりを感じたんだ。彼からも見放されて、せっかく友達になれるかもしれない子も失くしてしまったって。
しばらくして、彼女は結論を見つけ出したのか、顔を上げた。
「霊感ね。大変じゃない? お節介かもだけどさ。手伝ってあげたい。だって、私とかこのクラスとかの人が見えないものが見えてるわけでしょ? 普通じゃないって言いたいんじゃないんだけど、なんだろ、私が最初あなた、千里さんを怖がってたこと謝るよ。気色悪いなって思ってて。いまじゃ、千里はすごいなって思うよ」
なんでかな。思ったよりも私は私自身を知ってなかったんだって、知らされた。ただ、これは彼に聞いても出てこない答えだったのかも。彼はすぐに僕の考えを否定して、全く別の考えを与えてくれるから。少したりとも同情はなかったから。
こう思えば、解決法を提示されていても、先入観や憶測だけで、彼女を遠ざけていた私は気に入られるってこととは無縁だったのかも。旧友も私のせいで仲違いしたんだろうし。ただこれも憶測なのかな。
でも、憶測であっても、壊れたことは事実であって。そのことが私からは離れなかった。だからこそ、今は取り戻せない断片を作り変えてでも、取り返したかった。彼女を旧友に見立てて。
「ありがと。いろいろ、お願いします」
初めて誰かにこうやって感謝を言えた気がする。そして、初めて彼以外から私を知ってもらえた気がした。嬉しさを知って、私は知ることができるのかな。理解することができるのかな。私は私自身を好きで、私が好きじゃないって。
目の前が、揺れてきた。涙かな。久しぶりに出したかもしれない。私にとって何が必要だったのかな。今では少し理解できた気がする。
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