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シーズンⅠ-29 六家学園会合
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井汲温泉最大のホテル雲海楼の三階にある宴会場。
定刻で、刻文学園理事長の刻文忠興の挨拶を皮切りに東北六家の学園の会合が始まり無事に終了、いまは会場を移して立食スタイルでの情報交換に移っている。
津刈学園、安西学園、北部学園、刻文学園、星那学園、茂上学園の六学園の理事長をはじめとした関係者、百数十人が会場にいる、北部からも総勢二十名が来ている、お世話係として事務局からだけでも数名にのぼっている。
紗耶香も有佳と共にいたが、頃合いを見計らって単独行動に移るつもりでいた。
紗耶香の今日の務めは安西学園関係者として来ている神崎藍子《かんざきあいこ》に接触することだった。
学園同士は、年間行事のなかで会議や研修等で会う機会もある。
さらに、私生活でも割と交流があり、持ちつ持たれつの関係が続いている。
規模で言えば圧倒的に刻文学園が大きかったが、二年に一度ある東北六家宗家の集まりに出ている唯一の北部学園の周りには人だかりができる。
どの学園も北部学園から各家の宗家の情報が欲しいのがありありと見える。
それは、宗家同士も日頃、交流があることを皆が知っているからに他ならない。
東北六家で銀行が宗家でないのは、北部の他にもう一つある。
北部の隣り合わせの日本海に面している安西、安西の宗家は新聞社だ。
東北六家で、安西ほど異色な宗家はない。
宗家が入れ替わることがあるのだ。
右竹《うたけ》家がもう一つの宗家なのは皆が知っている。
安西家と右竹家は情報に精通している一族として評されているが、活動内容はあまり知られていない。
長い間、入れ替わっていないことで、今では右竹一族の動向を知ることへの関心も薄れている、というか話題に上ることはない。
「有佳、よく見ておくのよ。工藤先生がお兄様を支える人だと言うことが、この場で知れ渡る。名刺交換だけでも三十はくだらないはずよ」
「わかった。紗耶香、ここはもういいから。一人で大丈夫だよ」
有佳に促された紗耶香は、単独行動に移り、神崎藍子を探しに向かう。
神崎藍子の年齢は紗耶香より二つ上、今は刻文市にある国立奥羽大学経済学部に通っている。
神崎藍子は安西高校を首席で卒業した才女だ。
今日もその関係で安西学園からお呼びが掛かって出席している。
その神崎藍子は右竹家の人間だった。
この会場でそれを知っているのは北部栄心と北部健将、そして紗耶香と太田素子だけで、工藤美枝子にもまだ知らされていない。
さらに安西学園もこの事実を知らない。
探し始めるために動いたら、神崎藍子の方からそれを待っていたかのように接触してきた。
「こんにちは。紗耶香さん綺麗になったわね」
「なにを今さら。藍子さんの方こそだわ。大学を卒業したら刻文銀行に勤めるつもりだって聞いたけど本当なの? 薫君の例の方のお世話はどうするの。それが聞きたいんだけど」
右竹薫《うたけかおる》。
安西市に暮らしている高校一年生の男の子、紗耶香とは腹違いの弟だ。
亡くなった紗耶香の母親も薫の存在は知っていた。
薫の母親の右竹香苗《うたけかなえ》は右竹家直系の娘で地位が高い。
お父様と香苗さんの関係、そしてそこに子供がいるという事実、薫の誕生により北部家と右竹家は裏で固く繋がっている。
お父様は、両家の関係は知られない方がお互いの為にいいとして徹底して隠し通している。
薫は香苗さんに連れられて年に数回は北部に来ているが紗耶香達と会うのは薫だけで、香苗さんはお父様が持っているマンションで待機し、決して北部宗家に足を踏み入れない。
右竹薫は、背が小さい。
容姿は抜群。
その可愛らしさは見飽きない。
男にしておくのがもったいないほど美しい。
紗耶香とは一番気が合う。
姉弟としてこれほど自慢できる美形はいないが、存在を知らしめることはできない。
大学から薫は北部市に移ってきて北部大学に入る。
そして大学卒業後は、北部学園に勤める手はずになっていた。
薫の小さな時からのお世話係が神崎藍子だった。
その神崎藍子が大学に入ったことで担当が代わっていた。
「そうなんです。刻文銀行を受けるよう指示が出ています。薫さんの外歩きのデビューは刻文市でおこなうことにしました」
紗耶香は、薫の女の姿をすでに見ていた。
但し、部屋の中でだけだ。
外歩きを見たい。
絶対にデビューの時は私も一緒にいる。
元々、薫に女の姿をさせたのは紗耶香だった。
小学生の時からさせている。
北部宗家には執事とお手伝いがいるので、近い親戚という名目で薫は姉という触れ込みのの神崎藍子といつも一緒に来ていた。
初めて右竹薫を見た時から紗耶香の趣味は薫になった。
次に来たときはすでに一式揃えて待機してたほどだ。
紗耶香の部屋でやるパリコレごっこは三人だけの素敵な秘密になった。
薫が楽しんでいるのも知っていた。
「薫君が大学に入ったらすぐやるの?」
「そのつもりでいます。薫さんの女子力、前にも増して磨きが掛かっていてメイクもお一人でできるようになっていると報告を受けています」
「藍子さん。デビューは私もご一緒します。そのつもりでお願いね」
「紗耶香さんったら。もちろんですわ、もとからそのつもりです。三人だけの秘密ですもの」
「わかってればいいのよ。それから、藍子さんもう一つ。中野塔子がこのホテルに来てるんだけど、お忍びでもない様子なの。調べてもらえると助かるんだけど。・・・あまり長くなると怪しまれるから、また連絡するわ」
「かしこまりました」
お父様にはまだ報告をしていないが、健将お兄様の相手として考えている中野塔子が同じホテルにいることを知れば、心穏やかでいられなくなると思う。
この会合に合わせて何かがあるから来ていると考えるのが普通だと思う。
紗耶香はこのあと、刻文聖也を探して挨拶をすれば、今日の務めをすべて終えるのだがそれがもう面倒くさい。
正直、聖也なんかどうでもよかった。
薫と藍子と女三人で巨大都市刻文を昼も夜も歩き回りたかった。
ふっとため息をついてから、紗耶香は刻文聖也を探しにその場所を離れた。
定刻で、刻文学園理事長の刻文忠興の挨拶を皮切りに東北六家の学園の会合が始まり無事に終了、いまは会場を移して立食スタイルでの情報交換に移っている。
津刈学園、安西学園、北部学園、刻文学園、星那学園、茂上学園の六学園の理事長をはじめとした関係者、百数十人が会場にいる、北部からも総勢二十名が来ている、お世話係として事務局からだけでも数名にのぼっている。
紗耶香も有佳と共にいたが、頃合いを見計らって単独行動に移るつもりでいた。
紗耶香の今日の務めは安西学園関係者として来ている神崎藍子《かんざきあいこ》に接触することだった。
学園同士は、年間行事のなかで会議や研修等で会う機会もある。
さらに、私生活でも割と交流があり、持ちつ持たれつの関係が続いている。
規模で言えば圧倒的に刻文学園が大きかったが、二年に一度ある東北六家宗家の集まりに出ている唯一の北部学園の周りには人だかりができる。
どの学園も北部学園から各家の宗家の情報が欲しいのがありありと見える。
それは、宗家同士も日頃、交流があることを皆が知っているからに他ならない。
東北六家で銀行が宗家でないのは、北部の他にもう一つある。
北部の隣り合わせの日本海に面している安西、安西の宗家は新聞社だ。
東北六家で、安西ほど異色な宗家はない。
宗家が入れ替わることがあるのだ。
右竹《うたけ》家がもう一つの宗家なのは皆が知っている。
安西家と右竹家は情報に精通している一族として評されているが、活動内容はあまり知られていない。
長い間、入れ替わっていないことで、今では右竹一族の動向を知ることへの関心も薄れている、というか話題に上ることはない。
「有佳、よく見ておくのよ。工藤先生がお兄様を支える人だと言うことが、この場で知れ渡る。名刺交換だけでも三十はくだらないはずよ」
「わかった。紗耶香、ここはもういいから。一人で大丈夫だよ」
有佳に促された紗耶香は、単独行動に移り、神崎藍子を探しに向かう。
神崎藍子の年齢は紗耶香より二つ上、今は刻文市にある国立奥羽大学経済学部に通っている。
神崎藍子は安西高校を首席で卒業した才女だ。
今日もその関係で安西学園からお呼びが掛かって出席している。
その神崎藍子は右竹家の人間だった。
この会場でそれを知っているのは北部栄心と北部健将、そして紗耶香と太田素子だけで、工藤美枝子にもまだ知らされていない。
さらに安西学園もこの事実を知らない。
探し始めるために動いたら、神崎藍子の方からそれを待っていたかのように接触してきた。
「こんにちは。紗耶香さん綺麗になったわね」
「なにを今さら。藍子さんの方こそだわ。大学を卒業したら刻文銀行に勤めるつもりだって聞いたけど本当なの? 薫君の例の方のお世話はどうするの。それが聞きたいんだけど」
右竹薫《うたけかおる》。
安西市に暮らしている高校一年生の男の子、紗耶香とは腹違いの弟だ。
亡くなった紗耶香の母親も薫の存在は知っていた。
薫の母親の右竹香苗《うたけかなえ》は右竹家直系の娘で地位が高い。
お父様と香苗さんの関係、そしてそこに子供がいるという事実、薫の誕生により北部家と右竹家は裏で固く繋がっている。
お父様は、両家の関係は知られない方がお互いの為にいいとして徹底して隠し通している。
薫は香苗さんに連れられて年に数回は北部に来ているが紗耶香達と会うのは薫だけで、香苗さんはお父様が持っているマンションで待機し、決して北部宗家に足を踏み入れない。
右竹薫は、背が小さい。
容姿は抜群。
その可愛らしさは見飽きない。
男にしておくのがもったいないほど美しい。
紗耶香とは一番気が合う。
姉弟としてこれほど自慢できる美形はいないが、存在を知らしめることはできない。
大学から薫は北部市に移ってきて北部大学に入る。
そして大学卒業後は、北部学園に勤める手はずになっていた。
薫の小さな時からのお世話係が神崎藍子だった。
その神崎藍子が大学に入ったことで担当が代わっていた。
「そうなんです。刻文銀行を受けるよう指示が出ています。薫さんの外歩きのデビューは刻文市でおこなうことにしました」
紗耶香は、薫の女の姿をすでに見ていた。
但し、部屋の中でだけだ。
外歩きを見たい。
絶対にデビューの時は私も一緒にいる。
元々、薫に女の姿をさせたのは紗耶香だった。
小学生の時からさせている。
北部宗家には執事とお手伝いがいるので、近い親戚という名目で薫は姉という触れ込みのの神崎藍子といつも一緒に来ていた。
初めて右竹薫を見た時から紗耶香の趣味は薫になった。
次に来たときはすでに一式揃えて待機してたほどだ。
紗耶香の部屋でやるパリコレごっこは三人だけの素敵な秘密になった。
薫が楽しんでいるのも知っていた。
「薫君が大学に入ったらすぐやるの?」
「そのつもりでいます。薫さんの女子力、前にも増して磨きが掛かっていてメイクもお一人でできるようになっていると報告を受けています」
「藍子さん。デビューは私もご一緒します。そのつもりでお願いね」
「紗耶香さんったら。もちろんですわ、もとからそのつもりです。三人だけの秘密ですもの」
「わかってればいいのよ。それから、藍子さんもう一つ。中野塔子がこのホテルに来てるんだけど、お忍びでもない様子なの。調べてもらえると助かるんだけど。・・・あまり長くなると怪しまれるから、また連絡するわ」
「かしこまりました」
お父様にはまだ報告をしていないが、健将お兄様の相手として考えている中野塔子が同じホテルにいることを知れば、心穏やかでいられなくなると思う。
この会合に合わせて何かがあるから来ていると考えるのが普通だと思う。
紗耶香はこのあと、刻文聖也を探して挨拶をすれば、今日の務めをすべて終えるのだがそれがもう面倒くさい。
正直、聖也なんかどうでもよかった。
薫と藍子と女三人で巨大都市刻文を昼も夜も歩き回りたかった。
ふっとため息をついてから、紗耶香は刻文聖也を探しにその場所を離れた。
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