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シーズンⅠ-5 デートの翌日
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宮藤君子は一回目のデートの翌日に、工藤有佳にメールを入れた。
耕三さんが出勤し、涼子も朝美も学校に送り出し今は独りの時間。
有佳に送る文面を何度も何度も考え、ふと時計を見たら十一時を過ぎている。
有佳はこの時間は学校にいるはずだ。
昼近くまで待ってから、もうすぐ昼休みになる直前に送信した。
『話せてよかった。普通に初めからで。・・・・・・・・します。』
送ってしまった。
晩御飯の最中にジーンズの右ポケットの中から振動が伝わってきた。
すぐに確認したいが、いまはそうもいかない。
君子は食後のデザートを用意した後で自分も席に着いた、これから子供たちに大事な話をしなければならない。
面接を受けたところから今日、採用の電話が入っていた。
「お母さん、この前話してた所に決まったわ。再来週から勤め始めるね」
朝美の反応が早かった。
「朝美は、おばあちゃん家に行くんだっけ」
「日勤の時でボイトレの水曜日以外の日はおばあちゃん家か放課後児童クラブに、お願いね。準夜勤と深夜勤の時はボイトレの日以外は朝美が帰って来るまで居れるから。大丈夫?」
「うん。わかった」
こういう反応の時の朝美は危ない。
話を合わせてくれている。
どういうわけか、こんなところは自分に似ていると君子はつくづく思う。
朝美は綺麗な顔立ちなだけでなく性格も素直で周りを思いやる。
こんなに綺麗なのに顔が出ない声優になりたいってことが最初は信じられなかったが今どきの声優は声だけじゃなく顔が命だと涼子に教えられた。
涼子が言うには「声が四十、顔が四十、あとの二十は運。そのためには早い時期から声優学校」なのだそうだ。
涼子の分析ほど偏ったものはない。
とにかく独善的なのだ。
朝美の性格は、神様が姉の涼子に与えるのを忘れた分まで朝美に付け足したに違いない。
「朝美ったら。分かってないでしょ。お姉ちゃんでも難しいんだから」
涼子の割り込みが始まった。
すべての基準が自分になっている。
君子もそういうところがあるが涼子のは徹底してる。
可愛げをどっかに置いてきたって感じ。
顔立ちは君子に似てシャープな目をしてて少し少年っぽくキリっとしている。
可愛らしさは私と一緒だと言うのに、自分基準から一歩も出てこない。
「予定表できたら貼るね。二人とも三月は父兄参観とかないよね?」
「お母さん。悪人に手向かってはならないのよ。右の頬の次は左の頬を差し出すんですって」
涼子が入ると、こうなる。
「父兄参観が悪人とは思えないけど、頬っぺたの話は知ってる」
「工藤先生にね、部活はどうするのって聞かれたから、母がお勤めに出るので妹の世話をしなくちゃなりませんので帰宅部になりますって答えたの」
「涼子はそれでいいの?」
「お姉ちゃん、大好き」
朝美の顔にぱっと喜びの華が咲いている。
たぶん世界で一番好きなものはなに?って聞かれたら朝美は、涼子お姉ちゃん、と答えるはず。
君子より涼子のことをよく知っているこの小学四年生は姉想いの出来た妹なのだ。
「私ね、この学校に入れてもらって考えたの。受験勉強しなくて高校に上がれるし、大学受験までまだ四年もあるなって。そう考えたら、この貴重な時間を無駄にしたくないと思った」
「家と学校の往復にしてどうするつもりなの?」
涼子の顔が、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに変わっている。
「四千年の旅に出ることにしたの」
「四千年って。お父さんが言ってる中国のことでしょ」
「これから先は、中国の歴史を知らないとダメだって教えてくれた時のお父さん凄かった」
確かにそうだ、ここ何年かは中国の話は何度も聞かされている。
そう言えば一時期だが君子を楊貴妃と呼んでいた。
耕三さんは研修とやらでとっくの昔に中国に行ってる。
君子は博物館に行ってみたいと思っただけだが、涼子は歴史のほうだったんだ。
「涼子、素晴らしいわ。旅に出なさい」
母親として娘の気持ちを大切に思い、最高の応援をすることにした。
「お母さんありがとう。旅の軍資金として高性能パソコンが必要なの、宜しくお願いします」
「なんでそうなるのよ。旅は自分でするものよ。図書館とかあるでしょ」
「私はお母さんが大好き」
そう言うと、涼子は両の手を合わせてお願いポーズ。
朝美も真似てお願いポーズ。
「お父さんと相談してからね」
お願いポーズのまま大きく頷いている。
やれやれだ。
でもこんないい娘たちを持って幸せな気分になれる。
****
後かたずけをした後でメールを開いたら有佳からの返信が入っていたが、そこに書かれていた文章は短文にもほど遠い「点々、多すぎ。」だけだった。
自分からお付き合いを求めておきながら、申し込んだ相手の返事に対する言葉とは思えない。
君子は有佳の関心の無さすぎに腹が立ちながらも「ちゃんと意味があるんです」と返した。
有佳から初めて速攻で返信がきた。
「あの点々は、『あなただけにこい』します。でしょ。」
えぇぇーっ!
「よくも都合よく解釈できるわね。『よろしくおねがい』します。の点々です。誤解のないように。」
このまま有佳のペースなんて絶対に嫌だと思いながら返信した。
まもなく反撃不能の決定打が、飛んできた。
「ふぅーん。どっちも一緒でしょ。違うの?」
かなわない。
十六歳も年下に軽くあしらわれている、有佳は私を見ようとしない、有佳の思うようにあしらうだけに思える。
その夜は次に会う日取りを決めてやり取りを終えた。
耕三さんが出勤し、涼子も朝美も学校に送り出し今は独りの時間。
有佳に送る文面を何度も何度も考え、ふと時計を見たら十一時を過ぎている。
有佳はこの時間は学校にいるはずだ。
昼近くまで待ってから、もうすぐ昼休みになる直前に送信した。
『話せてよかった。普通に初めからで。・・・・・・・・します。』
送ってしまった。
晩御飯の最中にジーンズの右ポケットの中から振動が伝わってきた。
すぐに確認したいが、いまはそうもいかない。
君子は食後のデザートを用意した後で自分も席に着いた、これから子供たちに大事な話をしなければならない。
面接を受けたところから今日、採用の電話が入っていた。
「お母さん、この前話してた所に決まったわ。再来週から勤め始めるね」
朝美の反応が早かった。
「朝美は、おばあちゃん家に行くんだっけ」
「日勤の時でボイトレの水曜日以外の日はおばあちゃん家か放課後児童クラブに、お願いね。準夜勤と深夜勤の時はボイトレの日以外は朝美が帰って来るまで居れるから。大丈夫?」
「うん。わかった」
こういう反応の時の朝美は危ない。
話を合わせてくれている。
どういうわけか、こんなところは自分に似ていると君子はつくづく思う。
朝美は綺麗な顔立ちなだけでなく性格も素直で周りを思いやる。
こんなに綺麗なのに顔が出ない声優になりたいってことが最初は信じられなかったが今どきの声優は声だけじゃなく顔が命だと涼子に教えられた。
涼子が言うには「声が四十、顔が四十、あとの二十は運。そのためには早い時期から声優学校」なのだそうだ。
涼子の分析ほど偏ったものはない。
とにかく独善的なのだ。
朝美の性格は、神様が姉の涼子に与えるのを忘れた分まで朝美に付け足したに違いない。
「朝美ったら。分かってないでしょ。お姉ちゃんでも難しいんだから」
涼子の割り込みが始まった。
すべての基準が自分になっている。
君子もそういうところがあるが涼子のは徹底してる。
可愛げをどっかに置いてきたって感じ。
顔立ちは君子に似てシャープな目をしてて少し少年っぽくキリっとしている。
可愛らしさは私と一緒だと言うのに、自分基準から一歩も出てこない。
「予定表できたら貼るね。二人とも三月は父兄参観とかないよね?」
「お母さん。悪人に手向かってはならないのよ。右の頬の次は左の頬を差し出すんですって」
涼子が入ると、こうなる。
「父兄参観が悪人とは思えないけど、頬っぺたの話は知ってる」
「工藤先生にね、部活はどうするのって聞かれたから、母がお勤めに出るので妹の世話をしなくちゃなりませんので帰宅部になりますって答えたの」
「涼子はそれでいいの?」
「お姉ちゃん、大好き」
朝美の顔にぱっと喜びの華が咲いている。
たぶん世界で一番好きなものはなに?って聞かれたら朝美は、涼子お姉ちゃん、と答えるはず。
君子より涼子のことをよく知っているこの小学四年生は姉想いの出来た妹なのだ。
「私ね、この学校に入れてもらって考えたの。受験勉強しなくて高校に上がれるし、大学受験までまだ四年もあるなって。そう考えたら、この貴重な時間を無駄にしたくないと思った」
「家と学校の往復にしてどうするつもりなの?」
涼子の顔が、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに変わっている。
「四千年の旅に出ることにしたの」
「四千年って。お父さんが言ってる中国のことでしょ」
「これから先は、中国の歴史を知らないとダメだって教えてくれた時のお父さん凄かった」
確かにそうだ、ここ何年かは中国の話は何度も聞かされている。
そう言えば一時期だが君子を楊貴妃と呼んでいた。
耕三さんは研修とやらでとっくの昔に中国に行ってる。
君子は博物館に行ってみたいと思っただけだが、涼子は歴史のほうだったんだ。
「涼子、素晴らしいわ。旅に出なさい」
母親として娘の気持ちを大切に思い、最高の応援をすることにした。
「お母さんありがとう。旅の軍資金として高性能パソコンが必要なの、宜しくお願いします」
「なんでそうなるのよ。旅は自分でするものよ。図書館とかあるでしょ」
「私はお母さんが大好き」
そう言うと、涼子は両の手を合わせてお願いポーズ。
朝美も真似てお願いポーズ。
「お父さんと相談してからね」
お願いポーズのまま大きく頷いている。
やれやれだ。
でもこんないい娘たちを持って幸せな気分になれる。
****
後かたずけをした後でメールを開いたら有佳からの返信が入っていたが、そこに書かれていた文章は短文にもほど遠い「点々、多すぎ。」だけだった。
自分からお付き合いを求めておきながら、申し込んだ相手の返事に対する言葉とは思えない。
君子は有佳の関心の無さすぎに腹が立ちながらも「ちゃんと意味があるんです」と返した。
有佳から初めて速攻で返信がきた。
「あの点々は、『あなただけにこい』します。でしょ。」
えぇぇーっ!
「よくも都合よく解釈できるわね。『よろしくおねがい』します。の点々です。誤解のないように。」
このまま有佳のペースなんて絶対に嫌だと思いながら返信した。
まもなく反撃不能の決定打が、飛んできた。
「ふぅーん。どっちも一緒でしょ。違うの?」
かなわない。
十六歳も年下に軽くあしらわれている、有佳は私を見ようとしない、有佳の思うようにあしらうだけに思える。
その夜は次に会う日取りを決めてやり取りを終えた。
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