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シーズンⅠ-3 報告と性癖
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「有佳も七海ななみもお風呂あがったのー!」
「あがったよー」
「七海は宿題やってから寝なさいね。聞こえてるー!」
いつもの工藤家の夜の風景。
有佳の母親、美枝子は七海が生まれてまもなく離婚している。
父親も先生だ、もっと言えば祖父も校長先生だった。
離婚後は祖父母の意向で同じ敷地内に一軒家を建て、有佳の兄が北部銀行で沿岸部に配属になってからは女三人で暮らしている。
七海が部屋に戻ったあと、有佳はお母さんとリビングであのソファーに並んだ。
今日の昼に宮藤君子と初めて二人で食事をしたことをこれからお母さんに報告するのだ。
「どうだった。ちゃんと話せたの?」
「大丈夫。話せたよ。答えはもらってないけど」
「そう。何か言われた?」
「君子さんは、私を理解しようとして聞いてくれたんだと思う。途中から一点を見つめて固まっていたけど。質問はしてこなかった」
「私だって、そんな年齢でって思った瞬間に固まったのよ。固まって当然だと思うわ。まさか具体的なことまでは話してないわよね」
「今日の今日で? 話せるわけがない。どっかでは話すと思うけど、ほんとに話すかどうかも今は分からない。そこで拒絶されて終わるってのは見える。今日ので終わるってのも普通に思えるし」
「君子さん、なんとかお付き合いしてもらえるといいんだけど。君子さんとお話しするようになれば絶対に有佳は成長できるんだから」
「はいはい」
「なにその言い方っ。黙ってたけどあんなスリットの入ったスカート履くなんて、君子さん困ってたじゃないの。君子さんに迷惑かけないっていまここで約束しなさい」
「そんなつもりじゃ・・・ごめんなさい。約束します」
やばいっ、私がわざと見せつけていたのバレてるかも。
いやそんなはずはない、バレてないはず。
もしそうだとしても、何を見せつけたのかまでは知られるハズがない。
君子の変化があまりにもスゴかったんでお母さんも驚いていたと君子には嘘をついたが、実際そうだったのかも知れない。
「七海と君子さんの娘の涼子さんのことだけど。クラスが違うし接点はないと思うけど、気を付けないとね」
「もうすぐ三年生だよね。三年になったらクラス替えあるんだっけ?」
「ないわ、その点は大丈夫。ただ、変わった時期の転入だったし私のクラスだから七海が聞いてくるのよ。私の知らないところでもし接点を持ちそうだと分かったら必ず教えてね」
「わかった」
「有佳も、もう部屋に行きなさい。それと私に逐一報告する必要はもうないから。付き合うかどうかだけ教えて。それで、私の役目は終わり。わかったわね」
「うんわかった。お母さん、おやすみなさい」
「あっ、そうだ。正樹が来週末はこっちに戻れるって連絡きてたわ。土曜日の夜はみんなでどっか食べに行こうと思うの。七海にも言っておいてちょうだい」
「はぁーい。りょうかい」
****
自分の部屋に戻った有佳は後ろ手でドアを閉め、扉に寄り掛かると力を抜いた。
次に、崩れ落ちるようにしゃがみ込み膝を抱えた。
お母さんごめんなさい。
お母さんがやっと見つけ出してくれた人だし、きっとあの女性(ひと)もお母さんの願いを叶えようとしてくれると思う。
でも、私は違うの。
成長なんてこれっぽっちも興味がない。
私に足りないものだとお母さんは言ったけどそれが私には分からない。
分かっているのは、時間を掛けて同性を支配することに憑りつかれた女だってこと、止やめられない。
お母さんに打ち明けたのだってあれがすべてじゃないんだよ。
打ち明けられない方が私の本当の姿、それが情けなくって泣いてただけ。
家族にだけは知られたくなかった。
特にお母さんにだけは絶対に知られてはいけない。
そう思って生きてきたのに家に押しかけられてしまった。
敦子さんの御主人が家に突然押しかけてきてお母さんに知られることになってしまうとは想像したこともなかった。
敦子さんが突然結婚していなくなった時は、敦子さんが自分で踏ん切りをつけたんだから裏切られたのとはぜんぜん違う。
敦子さんは初恋の人だ、そして初めて愛した女性だったと今は思える。
それでも追いかけるなんてことはしなかった。
追いかけてる自分が想像できない。
それが私だ。
なのに敦子さんたら私の名前を呼ぶなんて・・・。
不思議だったのは、こんな騒ぎを起こしたのに同じ敷地内に暮らす祖父母やお母さんのお兄さん家族に知られずに済んだことだ。
お母さんがよっぽどうまく対応してくれたに違いない。
でもねお母さん。
お母さんが探し出すまで待っていたと思う?
あれからだって止めたことはないんだよ。
だって関係を持つまでの長い時間こそが楽しみなんだから止めたらまた一から探さなきゃならなくなるもの、もったいないでしょ、お母さん。
私に関わる女性のほとんどが対象。
小学校から仲の良かったあの大人しい綾ちゃんのお母さん、少しぽっちゃりしてる尚子さんもずっと前からなんだよ。
選り好みはしないの。
でも深追いはつまんないからしない。
縁がなかったらただそれだけのこと。
お母さんがずっと気を遣つかっていたあの紗耶香とも高校を卒業した去年からそういう関係になったよ、お母さんが知ったら卒倒するんじゃないかな、だってあの紗耶香だよ。
私ってけっこうマメにいろんな女性と会ってるんだけど。
お母さんぜんぜん気が付かなかったでしょう?
有佳は高校一年の夏に敦子さんの御主人が乗り込んで来た時から、自分だけの世界、自分の中での自問自答をする習慣が身に付いてしまった。
お母さんに言いたいこと聞いて欲しいことはまだまだあったが、今日はここまでにしよう。
有佳は立ち上がると机に向かった。
椅子に腰を下ろした有佳はパソコンの電源を入れ、一度大きな伸びをした。
それから日課になっているネットサーフィンに気持ちを切り替えた。
この切り替えがないと心が暴走してしまう。
「あがったよー」
「七海は宿題やってから寝なさいね。聞こえてるー!」
いつもの工藤家の夜の風景。
有佳の母親、美枝子は七海が生まれてまもなく離婚している。
父親も先生だ、もっと言えば祖父も校長先生だった。
離婚後は祖父母の意向で同じ敷地内に一軒家を建て、有佳の兄が北部銀行で沿岸部に配属になってからは女三人で暮らしている。
七海が部屋に戻ったあと、有佳はお母さんとリビングであのソファーに並んだ。
今日の昼に宮藤君子と初めて二人で食事をしたことをこれからお母さんに報告するのだ。
「どうだった。ちゃんと話せたの?」
「大丈夫。話せたよ。答えはもらってないけど」
「そう。何か言われた?」
「君子さんは、私を理解しようとして聞いてくれたんだと思う。途中から一点を見つめて固まっていたけど。質問はしてこなかった」
「私だって、そんな年齢でって思った瞬間に固まったのよ。固まって当然だと思うわ。まさか具体的なことまでは話してないわよね」
「今日の今日で? 話せるわけがない。どっかでは話すと思うけど、ほんとに話すかどうかも今は分からない。そこで拒絶されて終わるってのは見える。今日ので終わるってのも普通に思えるし」
「君子さん、なんとかお付き合いしてもらえるといいんだけど。君子さんとお話しするようになれば絶対に有佳は成長できるんだから」
「はいはい」
「なにその言い方っ。黙ってたけどあんなスリットの入ったスカート履くなんて、君子さん困ってたじゃないの。君子さんに迷惑かけないっていまここで約束しなさい」
「そんなつもりじゃ・・・ごめんなさい。約束します」
やばいっ、私がわざと見せつけていたのバレてるかも。
いやそんなはずはない、バレてないはず。
もしそうだとしても、何を見せつけたのかまでは知られるハズがない。
君子の変化があまりにもスゴかったんでお母さんも驚いていたと君子には嘘をついたが、実際そうだったのかも知れない。
「七海と君子さんの娘の涼子さんのことだけど。クラスが違うし接点はないと思うけど、気を付けないとね」
「もうすぐ三年生だよね。三年になったらクラス替えあるんだっけ?」
「ないわ、その点は大丈夫。ただ、変わった時期の転入だったし私のクラスだから七海が聞いてくるのよ。私の知らないところでもし接点を持ちそうだと分かったら必ず教えてね」
「わかった」
「有佳も、もう部屋に行きなさい。それと私に逐一報告する必要はもうないから。付き合うかどうかだけ教えて。それで、私の役目は終わり。わかったわね」
「うんわかった。お母さん、おやすみなさい」
「あっ、そうだ。正樹が来週末はこっちに戻れるって連絡きてたわ。土曜日の夜はみんなでどっか食べに行こうと思うの。七海にも言っておいてちょうだい」
「はぁーい。りょうかい」
****
自分の部屋に戻った有佳は後ろ手でドアを閉め、扉に寄り掛かると力を抜いた。
次に、崩れ落ちるようにしゃがみ込み膝を抱えた。
お母さんごめんなさい。
お母さんがやっと見つけ出してくれた人だし、きっとあの女性(ひと)もお母さんの願いを叶えようとしてくれると思う。
でも、私は違うの。
成長なんてこれっぽっちも興味がない。
私に足りないものだとお母さんは言ったけどそれが私には分からない。
分かっているのは、時間を掛けて同性を支配することに憑りつかれた女だってこと、止やめられない。
お母さんに打ち明けたのだってあれがすべてじゃないんだよ。
打ち明けられない方が私の本当の姿、それが情けなくって泣いてただけ。
家族にだけは知られたくなかった。
特にお母さんにだけは絶対に知られてはいけない。
そう思って生きてきたのに家に押しかけられてしまった。
敦子さんの御主人が家に突然押しかけてきてお母さんに知られることになってしまうとは想像したこともなかった。
敦子さんが突然結婚していなくなった時は、敦子さんが自分で踏ん切りをつけたんだから裏切られたのとはぜんぜん違う。
敦子さんは初恋の人だ、そして初めて愛した女性だったと今は思える。
それでも追いかけるなんてことはしなかった。
追いかけてる自分が想像できない。
それが私だ。
なのに敦子さんたら私の名前を呼ぶなんて・・・。
不思議だったのは、こんな騒ぎを起こしたのに同じ敷地内に暮らす祖父母やお母さんのお兄さん家族に知られずに済んだことだ。
お母さんがよっぽどうまく対応してくれたに違いない。
でもねお母さん。
お母さんが探し出すまで待っていたと思う?
あれからだって止めたことはないんだよ。
だって関係を持つまでの長い時間こそが楽しみなんだから止めたらまた一から探さなきゃならなくなるもの、もったいないでしょ、お母さん。
私に関わる女性のほとんどが対象。
小学校から仲の良かったあの大人しい綾ちゃんのお母さん、少しぽっちゃりしてる尚子さんもずっと前からなんだよ。
選り好みはしないの。
でも深追いはつまんないからしない。
縁がなかったらただそれだけのこと。
お母さんがずっと気を遣つかっていたあの紗耶香とも高校を卒業した去年からそういう関係になったよ、お母さんが知ったら卒倒するんじゃないかな、だってあの紗耶香だよ。
私ってけっこうマメにいろんな女性と会ってるんだけど。
お母さんぜんぜん気が付かなかったでしょう?
有佳は高校一年の夏に敦子さんの御主人が乗り込んで来た時から、自分だけの世界、自分の中での自問自答をする習慣が身に付いてしまった。
お母さんに言いたいこと聞いて欲しいことはまだまだあったが、今日はここまでにしよう。
有佳は立ち上がると机に向かった。
椅子に腰を下ろした有佳はパソコンの電源を入れ、一度大きな伸びをした。
それから日課になっているネットサーフィンに気持ちを切り替えた。
この切り替えがないと心が暴走してしまう。
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