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第7章 せめぎ合い
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連休初日4月29日㈮、今日からゴールデンウィークが始まる、来週の月曜日と金曜日の2日を休みにすれば10連休になる、村善建設は暦通りの勤務だが月曜日休んで7連休か金曜日休んで6連休にするかは各部署に任せている。
8時40分始業、その30分前出社を始めてひと月が経つ。
50年の歴史で7時出社が当たり前の村善では1時間以上遅い出社だが、蓋を開けてみると特に問題もなくスムーズに進んでいる、誰もが出社したらどこから手を付けるかを考えて出社するようになったことが大きい、目標達成への熱意も今までより強い、通期、いや最初の半期で結果を出さないと元に戻ると皆が思っているからだ、思ってないのは社長の健太郎ぐらいなもので加奈でさえ思っている。
「あなた、忘れ物ないかチェックしたの」「うん、大丈夫」「じゃ、気を付けて、行ってらっしゃい」「姉さんに宜しく」「はい、夜は遠藤さんの家に行くから遅くなる」「遠藤さんに引っ越し祝い持っていかなくていいのかな」「そんな大袈裟じゃないから、手土産考える」「分かった、晩御飯は勝手に食べるから、ゆっくりして来て」
朝6時、健太郎はゼネコンの人達とゴルフをするのに栃木県に出かけた、栃木インターで高速を降りればすぐ近くに複数のゴルフ場がある、この時間だと7時半過ぎには到着できる、インターを出ればゴルフ場まで10分も掛からない、高速を降りてから一般道を長く走って到着するゴルフ場は加奈も健太郎も苦手なので今日健太郎が行くコースは加奈もメンバーになっている。
13時、小竹向原駅で加奈とさゆりは待ち合わせ、二人で池袋に向かう。
ショッピングを終えて西口にある25階建てシティホテルでコーヒータイムを過ごす、ショートケーキが加奈でチーズケーキがさゆり、コーヒーは二人ともホット。
「この前、晴香とはどんな感じだったのか聞かせて欲しいんだけど」
さゆりが探りを入れてくる。
「お義姉さんったら、よっぽど気になるのね。映画観てご飯食べただけよ、男の子の話は結構した、好きなタイプがどんなのかお義姉さん、当ててみてよ」
ニヤッと笑いながら答える加奈。
「うぅーん、イケメンで優しい人、かな」
「ぶぅ、違います。なんでそう思ったの」
「前にアイドルで草食系が好きだって言ってたから」
晴香がおとなしくて優しい人が好きなんだとその時に気付いたとさゆりが追加してくる。
「それってカモフラージュだわね、晴香ちゃんが本当に好きなのはその真逆、頭が良くて冷たい感じの人に惹かれるみたい、太目でもマッチョでも構わないみたいなんだけど、ちょっと危ない気もする」
えっ、そうなの、と言ったきりさゆりが黙る。
「意外だったみたいね、その反応だと普段から晴香ちゃんと会話ないみたいね」
詰め始める加奈。
「ほっといてよ、なんかアドバイスしてあげたんだったら教えて」
言い返すさゆり。
「するわけないでしょ、しばらくは聞き役に徹するんだから、アドバイスは信頼関係がしっかりと築けてからかな」
余裕で答える加奈。
「それもそうか、なんかあったら宜しくお願いします」
頷くさゆり、半分まで食べてたチーズケーキの続きを食べ始める。
「お義姉さん、そう言えば健太郎さんが業界筋から得た情報だと友也さんの再婚相手って大津軽建設会長の娘らしいそうよ」
さゆりの手が止まる、フォークをケーキに刺したままで躰全体の動きが停止したかのようだ。
「お義姉さん」
心配顔の加奈。
「会長の娘って、7年ぐらい毎月、会長夫妻とわたし会ってるのに・・・信じられない」
手が震えている。
「えっ、そうなの、ちょっとそれは酷いかも。お義姉さんと会いながら自分の娘を嫁がせる算段をしてたのだとしたら、そんな人達と何でまた毎月会ってたのよ」
お義姉さんっ、人が好過ぎる、と加奈が続ける。
「会長ご夫婦主催の会があって夫が役付きの婦人はみな出席してた、30歳で転職した友也は勤め始めて8年で役付きになったから」
「うぅーん、講和を聞くとかってだったら堪えられない」
「そうじゃなくて、カラオケの会なんだけど」
「カラオケかぁ、そうやって役付きの奥様方を集めるんだ」
他社の人心掌握の手法に少しだけ頷く加奈。
「会長ご夫婦がカラオケが大好きなんで、親睦が目的で毎月1回は午前10時から16時までカラオケする、スナックを貸し切ってやるんだけど」
ショートケーキの最後の一口を口に運んでいた加奈の手が止まる、すぐに動き出し口に入れて食べ終わってからコーヒーを飲んで、
「スナックって、それ会長の下の娘がやってるやつだよたぶん、いやたぶんじゃなく間違いなくそうだよ」
合点が言った顔付きで話す加奈。
「えっ、会長の娘って、まさか」
さゆりの顔の色が無くなっていく、一点を見つめてただじっとしている、加奈が声を掛けれる雰囲気はまったくない。
お手洗いに行くと言って席を立ったままなかなか戻って来ない、20分も経ってやっと戻って来る。
「ごめんなさい、ちょっと気分悪くなっちゃって」
「帰ろうか」
「もう大丈夫だから、さっきの人、武田真由美さんって名前じゃないかな」
「そうだけど。お義姉さん、もしかして」
さゆりの驚きと落胆する様を見て、加奈にも想像がついた。
「そう、離婚の原因になった私の相手よ」
「だったら友也さんが踏み込んで撮影したのも計画通りだったということになる」
加奈に電話が入る「ちょっと失礼」、スマホの画面を見て加奈が席を立つ。
席に戻った加奈が、
「ごめんなさい。それにしてもヒドイとしか言いようがない、すべて離婚するために計画的にやってる」
「そう言うことになるわね、そう考えるといろいろと見えてきたこともあるけど、さっきは取り乱してごめんなさい、少し落ち着いたからもう大丈夫」
さゆりの顔に色が戻っている、本当に大丈夫なようだ。
「お義姉さん、夜は空いてたら晩御飯どう、わたし約束があったんだけどキャンセルになったんで」
「いまの電話がそうだったの?ごめん、わたし出掛けに約束入っちゃって、このまま池袋でご飯食べることになってる」
加奈と別れたさゆりは約束の時間まで書店で時間を潰す、面白そうなミステリーを見つけてつい買ってしまう、約束の時間が近づく、有楽町線の改札口へ向かう。
今朝、泣きそうな声でさゆりに電話を寄こした相手は遠藤多恵子の彼女の高木綾乃だった。
8時40分始業、その30分前出社を始めてひと月が経つ。
50年の歴史で7時出社が当たり前の村善では1時間以上遅い出社だが、蓋を開けてみると特に問題もなくスムーズに進んでいる、誰もが出社したらどこから手を付けるかを考えて出社するようになったことが大きい、目標達成への熱意も今までより強い、通期、いや最初の半期で結果を出さないと元に戻ると皆が思っているからだ、思ってないのは社長の健太郎ぐらいなもので加奈でさえ思っている。
「あなた、忘れ物ないかチェックしたの」「うん、大丈夫」「じゃ、気を付けて、行ってらっしゃい」「姉さんに宜しく」「はい、夜は遠藤さんの家に行くから遅くなる」「遠藤さんに引っ越し祝い持っていかなくていいのかな」「そんな大袈裟じゃないから、手土産考える」「分かった、晩御飯は勝手に食べるから、ゆっくりして来て」
朝6時、健太郎はゼネコンの人達とゴルフをするのに栃木県に出かけた、栃木インターで高速を降りればすぐ近くに複数のゴルフ場がある、この時間だと7時半過ぎには到着できる、インターを出ればゴルフ場まで10分も掛からない、高速を降りてから一般道を長く走って到着するゴルフ場は加奈も健太郎も苦手なので今日健太郎が行くコースは加奈もメンバーになっている。
13時、小竹向原駅で加奈とさゆりは待ち合わせ、二人で池袋に向かう。
ショッピングを終えて西口にある25階建てシティホテルでコーヒータイムを過ごす、ショートケーキが加奈でチーズケーキがさゆり、コーヒーは二人ともホット。
「この前、晴香とはどんな感じだったのか聞かせて欲しいんだけど」
さゆりが探りを入れてくる。
「お義姉さんったら、よっぽど気になるのね。映画観てご飯食べただけよ、男の子の話は結構した、好きなタイプがどんなのかお義姉さん、当ててみてよ」
ニヤッと笑いながら答える加奈。
「うぅーん、イケメンで優しい人、かな」
「ぶぅ、違います。なんでそう思ったの」
「前にアイドルで草食系が好きだって言ってたから」
晴香がおとなしくて優しい人が好きなんだとその時に気付いたとさゆりが追加してくる。
「それってカモフラージュだわね、晴香ちゃんが本当に好きなのはその真逆、頭が良くて冷たい感じの人に惹かれるみたい、太目でもマッチョでも構わないみたいなんだけど、ちょっと危ない気もする」
えっ、そうなの、と言ったきりさゆりが黙る。
「意外だったみたいね、その反応だと普段から晴香ちゃんと会話ないみたいね」
詰め始める加奈。
「ほっといてよ、なんかアドバイスしてあげたんだったら教えて」
言い返すさゆり。
「するわけないでしょ、しばらくは聞き役に徹するんだから、アドバイスは信頼関係がしっかりと築けてからかな」
余裕で答える加奈。
「それもそうか、なんかあったら宜しくお願いします」
頷くさゆり、半分まで食べてたチーズケーキの続きを食べ始める。
「お義姉さん、そう言えば健太郎さんが業界筋から得た情報だと友也さんの再婚相手って大津軽建設会長の娘らしいそうよ」
さゆりの手が止まる、フォークをケーキに刺したままで躰全体の動きが停止したかのようだ。
「お義姉さん」
心配顔の加奈。
「会長の娘って、7年ぐらい毎月、会長夫妻とわたし会ってるのに・・・信じられない」
手が震えている。
「えっ、そうなの、ちょっとそれは酷いかも。お義姉さんと会いながら自分の娘を嫁がせる算段をしてたのだとしたら、そんな人達と何でまた毎月会ってたのよ」
お義姉さんっ、人が好過ぎる、と加奈が続ける。
「会長ご夫婦主催の会があって夫が役付きの婦人はみな出席してた、30歳で転職した友也は勤め始めて8年で役付きになったから」
「うぅーん、講和を聞くとかってだったら堪えられない」
「そうじゃなくて、カラオケの会なんだけど」
「カラオケかぁ、そうやって役付きの奥様方を集めるんだ」
他社の人心掌握の手法に少しだけ頷く加奈。
「会長ご夫婦がカラオケが大好きなんで、親睦が目的で毎月1回は午前10時から16時までカラオケする、スナックを貸し切ってやるんだけど」
ショートケーキの最後の一口を口に運んでいた加奈の手が止まる、すぐに動き出し口に入れて食べ終わってからコーヒーを飲んで、
「スナックって、それ会長の下の娘がやってるやつだよたぶん、いやたぶんじゃなく間違いなくそうだよ」
合点が言った顔付きで話す加奈。
「えっ、会長の娘って、まさか」
さゆりの顔の色が無くなっていく、一点を見つめてただじっとしている、加奈が声を掛けれる雰囲気はまったくない。
お手洗いに行くと言って席を立ったままなかなか戻って来ない、20分も経ってやっと戻って来る。
「ごめんなさい、ちょっと気分悪くなっちゃって」
「帰ろうか」
「もう大丈夫だから、さっきの人、武田真由美さんって名前じゃないかな」
「そうだけど。お義姉さん、もしかして」
さゆりの驚きと落胆する様を見て、加奈にも想像がついた。
「そう、離婚の原因になった私の相手よ」
「だったら友也さんが踏み込んで撮影したのも計画通りだったということになる」
加奈に電話が入る「ちょっと失礼」、スマホの画面を見て加奈が席を立つ。
席に戻った加奈が、
「ごめんなさい。それにしてもヒドイとしか言いようがない、すべて離婚するために計画的にやってる」
「そう言うことになるわね、そう考えるといろいろと見えてきたこともあるけど、さっきは取り乱してごめんなさい、少し落ち着いたからもう大丈夫」
さゆりの顔に色が戻っている、本当に大丈夫なようだ。
「お義姉さん、夜は空いてたら晩御飯どう、わたし約束があったんだけどキャンセルになったんで」
「いまの電話がそうだったの?ごめん、わたし出掛けに約束入っちゃって、このまま池袋でご飯食べることになってる」
加奈と別れたさゆりは約束の時間まで書店で時間を潰す、面白そうなミステリーを見つけてつい買ってしまう、約束の時間が近づく、有楽町線の改札口へ向かう。
今朝、泣きそうな声でさゆりに電話を寄こした相手は遠藤多恵子の彼女の高木綾乃だった。
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