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第6章 思惑/思う気持ち

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 ファミレスの駐車場に着く、もうすぐ正午になる駐車場は空きスペースが少ないが止めることができた、店に入り受付してくれた店員に人数を3人と告げた多恵子が「来てるみたいなので」と言う。
 多恵子が見ている先には席を立って手を少し上げている女性が見える、そこに向かう。
「こちら、高木綾乃さん。彼女です」立ったままで彼女を紹介する多恵子、「高木です」表情が硬い、背丈は多恵子より低くさゆりよりは少し高い、遠藤多恵子も細いが高木綾乃もスリムな女性だ、「工藤さゆりです」さゆりの表情も硬い。
 多恵子と高木綾乃が並んで座り向かい側に腰を下ろすさゆり、多恵子がテーブルにある備え付けのタブレットを手に取りさゆりに差し出す、受け取ったさゆりが最初に注文する、多恵子と綾乃は相談しながら注文していく、注文が終わると高木綾乃が席を立ち水を入れたコップ3個を器用に抱えて戻って来る。 
「お水ありがとうございます、お綺麗な方なんでビックリしました」
 笑顔で言うさゆり、高木綾乃の第一印象が良かった様子がうかがえる。
「そんなことないです、私なんて。急いで来たんで化粧もしてなくて、こんな格好ですみません」
 多恵子の前にコップを置き、さゆりを見て話す。
 高木綾乃はワイドパンツに長袖Tシャツ、上からカーディガンを羽織っている、卵型の整った顔立ちで色白、確かに本人が言うようにスッピンに違いない、肩近くまで伸びた少し茶系統の艶のある髪を後ろで一つに束ねている。
「素の高木さん、素敵です」
 眩しいものでも見るかのような目つきで高木綾乃を見るさゆり。
「ありがとうございます」
「遠藤さんの彼女さんなんですよね」
「はい、人前で言われたのは今日が初めてなんで、少し恥ずかしいです」

 1時間半近く居て店を出る、新座駅ではなく和光市駅まで送って行くと多恵子が言い、一度断ったさゆりだが、結局、送ってもらうことに決まる、高木綾乃は家に戻ると言う。
「遠藤さんにはあんな素敵な彼女さんがいたんですね、高木さん可愛かった」
 車を走らせ始めた多恵子を横目で見る。
「だよね、可愛いんだけど地元じゃ大っぴらに出来ない、すぐに感ずかれるから」
 前を向いたままでぶっきらぼうに応える。
「大変なんですね」
 赤信号になり停止する、多恵子がさゆりに顔を向ける。
「今日はありがとうございました、綾乃めちゃ喜んでた。工藤さんのことノンケだと思っててまったく疑ってなかったんで、そういうことでお願いします」
 お礼と確認を言ってくる。
「子供二人いる45歳の主婦ですから、ただの普通の人です、安心して下さい。もう会わないと思うし」
 信号が変わり車が動き出す。
「そこなんですけど、綾乃、絶対また会いたいって言うと思います。ご飯とか、もしそうなったら声掛けてもいいですか」
「それは、ぜんぜん大丈夫です」
 しばらくして角を曲がり空きスペースに停車する、前方に見える駅が東京メトロ有楽町線の埼玉県側始発駅である和光市駅だ、小竹向原駅までは15分もあれば着く。
「彼女さん大切にしてあげて下さい。他の人に目移りなんかしちゃダメですよ、遠藤さん」
 別れ際にさゆりは思っていたことを口に出したようだ。
「確かに、今日の綾乃を見て少しうるっときました。周りばかり気にしていた自分が恥ずかしいです、この先について綾乃とよく話し合ってみようと思います」
 ファミレスでの1時間半、高木綾乃は終始楽しそうに見えた、彼女だと紹介されたのがよほど嬉しかったのか食事中に多恵子への小さな気遣いを見せていた、公の場でそういうことが出来る幸せに浸っていたのだろう。
「お二人を応援します」
 車を降りたさゆりが全開された窓越しに運転席の多恵子に向かって話す。
「今日はありがとうございました」
 シートベルトをしたままで多恵子が応える。
「こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました」
 さゆりが駅に向かい歩き出す。

 10日後の3月23日水曜日、昼休み。
 遠藤多恵子と加奈が地下鉄小竹向原駅近くの蕎麦屋に入る、村善建設からだと5分以上掛かるがよく行くお店だ。
 卵とじ蕎麦が多恵子、ワンタン麺が加奈、蕎麦屋で食べる中華そばやカレーが何故か旨いと言うのが加奈の口癖、今日は大分や大阪で例年より早くソメイヨシノが開花したと店内のテレビで言っているが東京は最高気温で10度までしか上がらないのでまだまだ寒い、温かいお蕎麦を求めて店内は混み合っている。 
「例の件ですが、私には出来ないことが分かりましたのでお断りさせて下さい。すみません」
 向かいに座る加奈に顔を近づけて小声で話す多恵子。
「分かりましたって、なにそれ」
 言った後で加奈はワンタンを口に運び、目線を多恵子に向ける。
 多恵子がさらに顔を近づける。
「前から付き合っている彼女とこれから二人で暮らしていこうと考えています」
 それだけ言うと顔が遠ざかる。
「そういうことか」
 後の会話はない、無言で食べ続け、加奈が横を向いて鼻をかむ。
 会社への帰り道を並んで歩く、もうすぐ着く手前で加奈が立ち止まり多恵子と向き合う。
「後悔するわよ」
 それだけ言うと加奈が急ぎ足で離れていく、ムッとした顔で加奈の後ろ姿を見る多恵子(何が後悔だよ、加奈、お前が本当に望むものが何かを知らないとでも、綾乃の調教が一段落したら、必ず)、歩き出した多恵子が一歩目で止まる、遠ざかる加奈の背中に舌打ちする。
 



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