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第5章 秘密
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加奈と健太郎が帰り、居間にはさゆりと両親が残った。
「明日分かることだけど私立に合格すれば、たぶんここで一緒に暮らすことになると思う。第一志望の国立は今年がムリなら来年はもう受験しないって拓海が言ってたんで」
「そうか、だとすれば晴香も来るってことで間違いないんだな」
「はい、その件で少し相談したいことがあります」
さゆりが背筋を伸ばす。
「さゆり、どうしたの、健太郎や加奈さんの前では言えない事だったの?」
不安げに秋江がたずねる。
「家族の問題だしあまり広げたくない、そこは分かって欲しい」
「そういうことならちゃんと話しを聞くから、言ってみなさい」
「晴香の事だけど、起伏が激しい上に思春期とも重なり、中学の時から私と距離を置くようになって何を考えているのかよく分からないところがあるの」
「どうして、そんなことに」
「実は友也との関係はずいぶん前から冷えてて、それが一因だと思う。家庭内別居みたいでろくに口もきいていない。知らぬ間に晴香が外に居場所を求めていたの、知ったのは友達と一緒に万引きで補導されて呼び出された時だった、それまでは気付いてもあげれなかった。すべて私の責任です」
「そんなことがあったのか、あの晴香が、信じられん」
善吉が首を小刻みに振る、納得したくないのだ。
「ごめんなさい、でも、この前の電話ではすごく素直だった。私を頼っている感じもしたんだけど、また一緒に住めば晴香にとって居心地がいいとは限らない。だから二階の部屋じゃなくお母さん達と同じ一階の部屋ならどうかと思って、相談したいの」
さゆりの目は哀願する目になっている。
「さゆり、それは難しいと思うわよ」
優しく言う秋江だが目は冷静だ。
「そこをなんとか、ムリかな」
「第一、娘がいるのに息子と母親が二階で暮らすのは不自然だし健太郎や加奈さんにも説明しなきゃならなくなる、それでもいいの、イヤでしょう。晴香が来たら二階で、拓海は一階で、自然な形が一番、分かったわね」
決定事項を伝える秋江。
「分かりました」
少し不満そうな表情を見せるさゆり。
「ところで、加奈さんのお母さんってまだ清掃員してるの、どうなの」
娘の件がダメなら加奈の話題に切り替える、そんな口調だ。
「なにも言ってこないから、まだそのまんまだと思う。なにか気になることでもあるの」
「いや、ちょっと、加奈さんを生んだのが19の時だって言ってたから今は47歳でしょ、加奈さんが8歳の時に離婚して、その後から清掃の仕事を始めたんだからもう20年もやってるんだと思って、ふっと気になったのよ」
「あっ、そういえば、健太郎が社長になって警備や管理の会社を変えたんだけど、真美子さんはその会社の清掃部門で働いているんだったわ」
真美子は加奈の母親の名前だ、相沢真美子という。
「それって、加奈さんの指示で変えたってことなのかな」
「ぜんぜん違う、加奈さんはすごく反対してたし」
秋江はすごくという部分に力を込めている、加奈の抵抗が凄かったということだろう。
「健太郎が変えた理由はハッキリとしている。今まで使っていた会社のレベルが低すぎだった、ただそれだけのこと。今度の会社はさゆり、凄いぞ」
「お父さん、どう凄いのよ」
「会社の建物やうちが所有するマンション、それにこの家だって全部警備対象になっている、清掃も契約の中に入っている。清掃員だけで3千人もいる会社なんて、日本でもトップクラスのビル管理会社なんじゃよ」
自分の事のように自慢げに言う。
「そういうことか、だったら健太郎の決断は間違っていないと思う」
「だろう、加奈さんのお母さんとはなんの関係もない」
「いちど挨拶に来られた管理職の方が女性なんだけど、さゆりと同じ大学出ていたのよ」
秋江が何かを思い出すようにちょっと上を向いている。
「大学が同じって、その程度の話はよくあるでしょ。でも、知ってる人かも知れないから、お母さん、名前覚えてるんなら教えて」
「あぁー、なんだっけ、顔は覚えてるんだけど、落ち着いていて優しそうな人だったわ、ごめん思い出せない。会社に行けばもらった名刺あるんだけど」
目をつぶって下向きに首をひねる秋江、思い出そうとしている。
「いいわ、あとで見せて、年はいくつぐらい、管理職なら私と近い年齢かも」
「それは覚えている、さゆりの2こ下で、そうそう、さゆりがスキーやってたって言ったら、同じ運動部なのが分かって、あれよ、あれ」
「ゆきうさぎスキー同好会のこと?」
「そう、それ聞いて打ち解けたんだったわ」
2年後輩で日本有数のビル管理会社に勤めたのは一体誰なの、何人かの顔が思い浮かぶ、ここ何年か同窓会に出ていない、もやもやしたままさゆりは後片付けを始めた。
「明日分かることだけど私立に合格すれば、たぶんここで一緒に暮らすことになると思う。第一志望の国立は今年がムリなら来年はもう受験しないって拓海が言ってたんで」
「そうか、だとすれば晴香も来るってことで間違いないんだな」
「はい、その件で少し相談したいことがあります」
さゆりが背筋を伸ばす。
「さゆり、どうしたの、健太郎や加奈さんの前では言えない事だったの?」
不安げに秋江がたずねる。
「家族の問題だしあまり広げたくない、そこは分かって欲しい」
「そういうことならちゃんと話しを聞くから、言ってみなさい」
「晴香の事だけど、起伏が激しい上に思春期とも重なり、中学の時から私と距離を置くようになって何を考えているのかよく分からないところがあるの」
「どうして、そんなことに」
「実は友也との関係はずいぶん前から冷えてて、それが一因だと思う。家庭内別居みたいでろくに口もきいていない。知らぬ間に晴香が外に居場所を求めていたの、知ったのは友達と一緒に万引きで補導されて呼び出された時だった、それまでは気付いてもあげれなかった。すべて私の責任です」
「そんなことがあったのか、あの晴香が、信じられん」
善吉が首を小刻みに振る、納得したくないのだ。
「ごめんなさい、でも、この前の電話ではすごく素直だった。私を頼っている感じもしたんだけど、また一緒に住めば晴香にとって居心地がいいとは限らない。だから二階の部屋じゃなくお母さん達と同じ一階の部屋ならどうかと思って、相談したいの」
さゆりの目は哀願する目になっている。
「さゆり、それは難しいと思うわよ」
優しく言う秋江だが目は冷静だ。
「そこをなんとか、ムリかな」
「第一、娘がいるのに息子と母親が二階で暮らすのは不自然だし健太郎や加奈さんにも説明しなきゃならなくなる、それでもいいの、イヤでしょう。晴香が来たら二階で、拓海は一階で、自然な形が一番、分かったわね」
決定事項を伝える秋江。
「分かりました」
少し不満そうな表情を見せるさゆり。
「ところで、加奈さんのお母さんってまだ清掃員してるの、どうなの」
娘の件がダメなら加奈の話題に切り替える、そんな口調だ。
「なにも言ってこないから、まだそのまんまだと思う。なにか気になることでもあるの」
「いや、ちょっと、加奈さんを生んだのが19の時だって言ってたから今は47歳でしょ、加奈さんが8歳の時に離婚して、その後から清掃の仕事を始めたんだからもう20年もやってるんだと思って、ふっと気になったのよ」
「あっ、そういえば、健太郎が社長になって警備や管理の会社を変えたんだけど、真美子さんはその会社の清掃部門で働いているんだったわ」
真美子は加奈の母親の名前だ、相沢真美子という。
「それって、加奈さんの指示で変えたってことなのかな」
「ぜんぜん違う、加奈さんはすごく反対してたし」
秋江はすごくという部分に力を込めている、加奈の抵抗が凄かったということだろう。
「健太郎が変えた理由はハッキリとしている。今まで使っていた会社のレベルが低すぎだった、ただそれだけのこと。今度の会社はさゆり、凄いぞ」
「お父さん、どう凄いのよ」
「会社の建物やうちが所有するマンション、それにこの家だって全部警備対象になっている、清掃も契約の中に入っている。清掃員だけで3千人もいる会社なんて、日本でもトップクラスのビル管理会社なんじゃよ」
自分の事のように自慢げに言う。
「そういうことか、だったら健太郎の決断は間違っていないと思う」
「だろう、加奈さんのお母さんとはなんの関係もない」
「いちど挨拶に来られた管理職の方が女性なんだけど、さゆりと同じ大学出ていたのよ」
秋江が何かを思い出すようにちょっと上を向いている。
「大学が同じって、その程度の話はよくあるでしょ。でも、知ってる人かも知れないから、お母さん、名前覚えてるんなら教えて」
「あぁー、なんだっけ、顔は覚えてるんだけど、落ち着いていて優しそうな人だったわ、ごめん思い出せない。会社に行けばもらった名刺あるんだけど」
目をつぶって下向きに首をひねる秋江、思い出そうとしている。
「いいわ、あとで見せて、年はいくつぐらい、管理職なら私と近い年齢かも」
「それは覚えている、さゆりの2こ下で、そうそう、さゆりがスキーやってたって言ったら、同じ運動部なのが分かって、あれよ、あれ」
「ゆきうさぎスキー同好会のこと?」
「そう、それ聞いて打ち解けたんだったわ」
2年後輩で日本有数のビル管理会社に勤めたのは一体誰なの、何人かの顔が思い浮かぶ、ここ何年か同窓会に出ていない、もやもやしたままさゆりは後片付けを始めた。
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