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第3章 嫉妬

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 工藤さゆりと吉田由奈が向かったのは今回も池袋北口だった、厳密に言えば東武鉄道池袋駅西口(北)だ。
 元々、池袋駅は東口と西口があり西口にある南側と北側の出口を南口、北口と呼んでいたのだが地元以外には分かりにくいということで2019年3月に北口と南口が西口(北)、西口(南)に変わった。西口(中央)とJR池袋駅の表記は並んでいる、駅構内もそうだが少しややこしいのが池袋駅だ。
 北口を出て居酒屋に向かう、隣の席とはしっかりとした仕切りで遮断されている、向かい合って座りビールで乾杯。
「お疲れ様でした、別室に連れていかれるなんて今日は大変でしたね」
 ジョッキを手に持ったままで由奈が気遣う素振りを見せる。
「怒られちゃった」
 さゆりの方は少し甘えた言い方だ。
「部長って大声とか出さないから、そんなにキツくは叱らないでしょ」
「まあね、吉田さんは叱られたことあるの?」
「そりゃありますよ。入社したての頃はミス村善ってあだ名がついたくらいです」
 目を見合う、どちらからともなく吹き出す。
「あんまり可愛くないって自覚あるのに、よりによってミスだなんて、すごく恥ずかしかったです。遠藤さんは、まずミスをしないですね。あの人、優秀なんで」
 焼き鳥の盛り合わせが塩で、それと肉豆腐が運ばれてきた。
 遠藤多恵子は少しぽっちゃりとしている吉田由奈と違って身体つきは細く顔立ちは悪く言えばのっぺりとしていて薄い。
 食べることに集中する、美味しい、「このあとどうする」「鍋、いきますか」「どれにする」「うぅーん、迷うなぁ、とり鍋でもいいですか」「いいわよ」
 鍋を頼んで火を入れてもらう、お替りの飲み物も届く。
 さゆりが真っ直ぐに吉田由奈を見る。
「遠藤さんって、部長のこと好きなんじゃないかな。違ってたら遠藤さんに悪いから内緒にしてね」
 さゆりの声は小声だ。
「分かります?」
 由奈も合わせて小声で返す。
「なんとなく、直感かな」
「好きを通り越して恋焦がれているって感じですかね、多恵子さんはひた隠しに隠しています。私以外、誰も知らなかったのに、工藤さん観察力半端ないですね、驚きました」
 (やはりそうだったか、加奈への対抗策が見つかるかもしれない)、さゆりの目が見開く。
「部長はどうなの、気付いていると思いますか」
「そりゃぁ、気付いてますよ。だって、多恵子さん、告白してますから」
「すごい」
「この前3人で飲んだ時に部長がSだってわたし言いましたよね、それもかなりのSだって。実は、あれは多恵子さんが教えてくれたんです。告った時に断られたそうで、その時の断り方がドSだったって、だから今の多恵子さんは片思いしてるだけで本当は諦めているんです。少しぐらいそういう思いを残しておけば仕事にも張り合いがでますからね、深刻じゃないのでこうやって話せますけど」
「そうだったんですね。多恵子さん、付き合ってる男性とかいるんでしょうか」
「うぅーん、どうだろう。わたし、会社入ってまだ2年なんで、でも、いない気がします。って言うか、 今まで男性と付き合ったことないと思う、だって、男の話で会話が続いたことないもの、女の話なら延々とするし」

 鍋がぐつぐつ言い始めている、そろそろ食べれる。
 さゆりが手を出す前に、由奈が取り分けてくれる。
 由奈は自分の分をよそって「これ、この味ですよ、美味い」って言いながら食べ始める。
 2回目を取り分けたあとで、由奈が、これ言っていいのかどうか迷うんですけど、と前置きしてくる。
「工藤さん、気を付けた方がいいですよ。多恵子さん、工藤さんに嫉妬してますから」
 さゆりの顔がこわばる。
「えっ、ちょっと待って、なんで私が出てくるの。しかも、私に嫉妬だなんて、勘違いだと思うけど」
「いいえ、勘違いなんかじゃありません。この前、二人で飲んだ時、多恵子さん言ってましたもの、部長の工藤さんを見る目が怪しいって」
 えっ、さゆりの声が上擦る。
 どう答えればいいのか思案しているのだろう、さゆりが無表情になる。
「入社したての人を担当部長が観察するって普通だと思うけど、考えすぎだよ。きっと、遠藤さんは周りが見えなくなっているんだと思う。絶対に考えすぎだから」
 出て来た言葉がこれだ、さゆりは自分に言い聞かせている。







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