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第2章 あり得ないお土産

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 総務の仕事に就いて1か月が経った。
 未上場会社の総務の仕事を一言でいえば営業以外の全部だと思う、経理、庶務、労務も人事も全部やっている、他企業とジョイントで一緒にやる仕事の場合は現場からくるいろんな経費を案分せねばならないし、役所に提出する書類のなんと煩雑で多いことか、初めての月末を迎えた時にはよくもこんな仕事量を若い二人でこなしてきたものだとすっかり感心した。
「工藤さん、一段落したし今晩飲みに行きませんか」
 若い方の吉田由奈が誘い、年上の方の遠藤多恵子がさゆりの反応を見てくる。
「いいわよ」
「じゃ決まり、終わったら一緒にブクロに行きましょう」

 池袋北口の焼き肉屋に入る。
 吉田由奈22歳、遠藤多恵子25歳、45歳のさゆりの3人。
「ちょっと聞いてもいいですか」
「なに」
「どんないきさつでウチに入ったんですか、みんなけっこう気にしているんで」
 ビールで乾杯してタン塩から焼き始めた時に、由奈がさりげなく聞いてきた。
 多恵子は聞き役に徹する、今日の飲み会は多恵子だけがこっそり部長村上加奈から後で内容を詳しく報告するように指示を受けている、お小遣いはいつも通り、今までに何度もやっている。
「あぁ、それね。私、離婚して、前に建設会社に勤務していたことがあるんで親戚に頼んで、なんとか入れてもらったんです」
 入社の経緯は両親と弟夫婦と打ち合わせした通りにさゆりは話した。
「誰かが裏の会長宅から出勤するの見たって、噂になってるんです」
 由奈が焼けたタン塩をさゆりの皿に置いてきた。
「しばらく居候させてもらうことも親戚が頼んでくれて、ありがたいことです」
「そうだったんですか」
 由奈も多恵子も納得した様子、これで気兼ねなく話せると思ったのか、由奈が「自分の分は自分で焼いて食べましょう」などと言っている。
 タン塩を食べ終わりホルモンと野菜を焼き始める。
「北口なんでびっくりした、てっきり東口だと思ってたから」
 若い二人なら東口だと決めつけているさゆり。
「ここ旨いんで、会社の人けっこう来るんです。最初だからみんなの行きつけがいいかなって思って」
 多恵子がホルモンをひっくり返しながら答える。
「ありがとう、嬉しい。飲み会とかってやってるんだ」
「そりゃぁ、やりますよ。女子少ないんで営業3人と私たち入れて5人はよく参加してます、たまに設計も来るんですが、技術工事部の彼女は来たのを見たことがない」
「村上部長は来るんですか」
「来ないですよぅ」
 由奈は続けて、何で経営者が来るのっ、普通来ないでしょう、当たり前なこと聞かないでくださいよぅ、はい食べて、ホルモンと野菜をさゆりの皿に置いてくる。
「でも、村上部長の話題はむちゃくちゃ多いです。男連中、みんなそういう話、好きだから」
 由奈はそれだけ言うと自分の皿にホルモンだけ置いて、野菜はお二人でどうぞ、と言ってパクついている。
「そういう話って、なんですか」
「やだぁ、かまととぶってないで、分かるでしょ。もしかして工藤さん、エッチが苦手で離婚されたりとかですか」
 この若い由奈は容赦がない、大手ゼネコンにいた当時の飲み会と全然違う、さゆりも覚悟を決める。
「ごめんなさい、わたし平凡だから。これからいろいろ教えて下さい」
「由奈、年上に失礼よ。謝りなさい」
 多恵子が助け舟を出す。
「ごめんなさい」
 言いながら次のホルモンを塊ごと鉄板に置いてくる、顔を見れば分かる、口だけだ、謝る気なんかさらさらない。
「いいえ、いいんです。私にも男性陣がどんな話、しているのか教えて下さい、気になるんです」
「そういう話が気になるの、それとも村上さんだから気になるの、教えてくれたら話さないでもないかな」
 多恵子も核心にどんどん迫る、もっとも多恵子の場合は工藤さゆりがどんな人間か、どんな性癖を持つ女なのかを少しでも調べ上げて村上加奈に報告したい思惑があるのだが。
「正直、両方とも気になります。だって、村上さんって若いし綺麗だから」

 
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