嫉妬とマゾヒズム

第1章 仕事始め

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「普段も居ないってことは何してるんだろう」
「さぁ、経営者のことはよく分かりません。ゴルフはよくされています」
「接待ゴルフかぁ、大手からもらう仕事もあるんだろうから分かる気がする」
「いえ、ウチのために働いてもらっている取引先がほとんどです」
「村上さんもゴルフはするの？」
「一緒に行かれることもあると思います、村上さんは取引先の奥様方の趣味にお付き合いすることの方が多いと思います」
　驚くさゆり、まさか、さゆりをからかい蔑むような素振りをするあの加奈が村善のためにそこまでしているとは、大企業でしか社会人の経験のないさゆりには想像もできない。
　思い知らされる初出勤になった。

　初出勤を終えたさゆりはなかなか寝付けない。
　加奈は夕方に戻ってきた、何度も反復した（奥さんと呼べなんてよくも嘘を付いてくれたわね、あんたなんかもう信用しない）文句を言おうと喉元まで出かかったが言えなかった、加奈を見て気おくれしたのだ。
　仕事始めの総務は年始の挨拶に来る取引先の方々に応対し、会長と専務が待つ部屋に案内しお茶を出すことが多かった、専務は80歳になるさゆりの母親だ。
　空いた時間で村善の損益計算書と貸借対照表を見た、株主構成も最新のを探し出した。
　血の気が引いた、倒れそうになる。
　6年前、母親から連絡が来てさゆりの持ち分20％を買い取ってもらうことになった、相続は健太郎と平等だと言われた、ただし、会社にさゆりは関与しないのだから跡を継ぐ健太郎が動きやすいようにして欲しいと頼まれ、当時、夫とは既に冷たい関係になっていたがまさか離婚するとは考えもしなかったので、母の助言に従ったのだ、形式上だと言われ今後会社の株式には相続時に関与しない旨の一筆を入れている。
　それがどうだ、今日見た株主構成は父母で50％まで減少、健太郎30％、そして加奈が20％。
　さゆりの分がすべて加奈に回っている、そうとしか考えられない。
　母親に嵌められたのか、いや、離婚さえなければ会社は健太郎のものとさゆり自身が前々から思っていたのだから母親のせいではない。
　すべてはさゆりが戻ってきたことでおかしく見えるだけだ。
　それは分かっているが加奈の態度を見れば、このままではさゆりの居場所が無くなる、いずれ追い出されることになるのは目に見えている。
　親の個人財産は相当あると思うが、それにしたって借入金や連帯保証、健太郎の村善への寄与度など持ち出されたらどうなるか分からない、仮に5億貰えるなら追い出されても問題ないが5千万ならその中から住まいを手当てしたら生きていく自信がない、その5千万よりかなり低い金額だったとしたら、もう何も考えられない。
　加奈の弱点を探り出さないと、なんとしても生き抜いてやる。