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番外編
約束の証 05
しおりを挟むエドと手をつなぎながら大通りを歩いていると、たくさんの人が楽しそうに買い物をしている光景が目に入った。元キース王国からの観光客だろうか、服装がちょっと違う家族がタペストリーのお店の前で買い物をしている。お父さんらしき男の人が値切り交渉をして隣では子供が剣を振り回しお母さんに怒られていた。
「サラどうしたの? さっきから黙ってるけど」
「え? ああ……さっきの話を聞いてちょっと考えが変わったなと思って」
「キース王国の話?」
「そう」
通りの出店には美味しそうな串焼きから苺のお菓子まで、さまざまな食べ歩きに良さそうなものが売っている。中央にある噴水広場はことさらにぎやかで、ワイワイと食事を楽しむ人が大勢いた。私達のような平民はもちろん貴族のお忍びらしき人達もこの苺祭りを楽しんでいる。
「結果的にだったけど私達がした事は、こういう平和な毎日を守ったんだよね」
そう言ってエドを見上げると、彼も通りにいる人をじいっと見つめていた。その視線の先には先程タペストリーのお店で買い物をしていた親子がいる。3人は袋からはみ出るほどお土産を買い、手には美味しそうなパンを持っていた。笑顔で歩いていく家族を見ていたエドは、微笑みながら私の肩をそっと抱き寄せる。
「そうだよ。僕達けっこうすごい事したんじゃない?」
からかう様な言い方に思わず笑ってしまう。でもそのエドの言葉に恥ずかしがっていた気持ちが消えていくのを感じた。
「ふふ。そうね! たしかに凄い事したわ」
恥ずかしく思うのはもうやめよう。今みんなが苦しみから開放されて平和に暮らしているのは、確かにあの時私達が頑張ったからなんだ。必要以上に恥ずかしがるより、お祭り気分で過去を楽しんだ方が良さそう!
そう思うとさっきまで他人事のようにお店を見ていたのに何か買いたくなってくる。今日は早く寝るつもりだしもうキッチンを使いたくないな。よし! 今日はお店で夕ご飯を買って帰ろう!
「ねえ! もうすぐ金物屋に着くけど、私今日の夕飯を出店で買ってくるわ。終わったらそっちに行くからエドは金物屋に行ってもらえる?」
「いいね! 明日も早いしそうしよう」
早速そこから別行動を始め、私は美味しそうな匂いのする串焼きや焼き立てのパンを買っていく。あとは昼のスープが残ってるしと思っていると、目の前に1人の男の人が現れた。
「うわあ。君すごい可愛いね。良かったら出店一緒にまわらない?」
このあたりではお店をやっている事もあって、私達夫婦を知らない人はいない。どうやら観光客みたいだ。そういえば昔からずっとエドと2人で過ごしてるせいか、初めて男の人に誘われたわ! どう断ればいいんだっけ? と、咄嗟に言葉が出てこなかった。
「えっ? あ、あの私は……」
「この街の人だよね? 案内を――」
そこまで言ったとたん男の人は後ろにぐいっと引っ張られる。エドがその人の襟を掴んで引っ張り上げているのが見えた。
「俺の妻になんの用?」
「エド!」
声の感じから怒っていると思いきや顔は笑顔だ。いや、口元は笑っているけど目はものすごく冷ややかで、それがエドの美形に凄みを感じさせ周りで見ていた人も「おお……」と呟いている。目の前の男の人も圧倒的な美の迫力に「うわ! 凄い! ごめんなさい!」と謝り、あっという間に人混みに消えていった。
「まったく! 危ないところだった!」
「スリじゃないから、危なくはないけど。でもありがとう」
「そういう危ないじゃないけど……まあ、いいや! 日も落ちそうだから帰るよ」
はあ~とため息をついたエドは私の手を握って足早に歩いていく。ぐんぐん歩いていくのであっという間に私達のカフェが見えてきた。そのまま店には入らず、エドは私を中庭に連れて行く。
「中庭に何かあるの?」
「渡したいものがあるんだ。ここに座って」
中庭にはよく家族でお茶をするテーブルセットが置いてあり、その周りは満開の薔薇が美しく咲いていた。エドは私をそこに座らせテーブルに小さな箱をコトリと置いた。
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