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17. あふれる涙をぬぐうのは

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 エドワードとサラが結婚宣言して何が嫌かって、俺以外の親3人がニヤニヤしてこっちを見てくることだ。まったくあいつらは!


 俺がエドワードに「娘はまだ嫁にやらん!」とでも、言うと思ったのだろう。娘を溺愛している父親ならそれは当然だが、本音を言うとサラと離れなくてすむから嬉しかった。



 過保護かもしれないがどうも昔からサラのこととなると、心配で寝れなくなったり悪夢を見ていた。だから隣に嫁に行くなら、かなり良い縁談だと思ったんだ。



 とはいっても10才が言うことだ。あっちの親とも「上手くいったら嬉しいけど、こればっかりはな」と2人の心変わりだって想定内だった。



 もっと大人になって世界が広がれば、いろんな出会いがあり人生の生き方や価値観が変わる。子供の頃の約束など、甘酸っぱい思い出に変わるだろうとも思っていた。



 しかし2人はそれからも年々仲良くなっていくし、将来の夢も決めていた。聞けば2人の夢は2家族6人で同居して、カフェを開くことらしい。これには親の俺達も、ものすごく喜んだ。なんならすぐに叶えられるよう、金まで貯め始めた。エドワードの親父なんか店の設計図まで書こうとしてたから、それはさすがに止めたけど。



 そして2人が15歳になった頃、本格的に婚約をさせてほしいと言ってきた。この国では16歳で結婚できる。早い方ではあるがめずらしくもないから、少し苦笑いしながら了承したんだったな。エドワードの親父は、さっそく設計図を書き始めた。



 最近じゃあ2つの家をつなげる改装話まで出はじめて、6人でワイワイ楽しく夕飯を食べるのがものすごく幸せだ。



 妻は「あなたは昔からサラと離れ離れになるのは嫌だ! と愚痴ってたから本当に良かったわね~」とケラケラ笑ってる。まったく妻だってサラが産まれた時には、遠くにお嫁に行かせたくないなんて言ってわんわん泣いていたくせに。



 そんなわけで今日という日は、両家族が待ちに待った結婚式だ! まあでも 2人にとっては通過点みたいなもので、気楽にやるんだと思ってた。それなのに目の前にいる幸せいっぱいのはずのエドワードは、さっきからずっと泣いている。



「おまえどうしたんだ!? なんでそんなに泣いてんだよ?」
「わからない。わからないけど、ようやくサラと結ばれるんだと思うと、涙が出てくるんだ」



 娘のことをそんなに大切に想ってくれるなんてものすごく嬉しいが、紆余曲折あったわけじゃないのにそんなに感極まるものか? エドワードの親父と顔を見合わせて驚いていると、苦笑気味の呆れた声が後ろからした。



「私達10歳から婚約してるようなものだったけど、そんなに不安だった?」



 振り返るとウェディングドレスを着た世界一美しいサラが笑顔で立っている。サラはそのまま俺達に見せびらかすように両手を広げ、「どう?」とポーズを取った。



「サラ! なんて綺麗なんだ! さすが俺の娘だ!」
「サラちゃん! 本当に美しいよ!」


 同意を求めるようにエドワードの方を振り返ると、顔を真っ赤にしてうっとりと娘を見つめている。


「本当に、世界一綺麗だ」
「ふふ。みんなありがとう! それにしてもエドは大丈夫?」
「今朝は何も思わなかったのだけど、教会に着いたら勝手に涙が出てきて……」


 泣いてるのが気まずかったのだろう。照れくさそうにしている。


「ふふ。変なエド」
「俺のことは別にいいよ。それより今日は本当に特別綺麗で他の男に見せたくない」
「あなたもすごくかっこいい! 私はみんなにあなたを自慢したい!」


 2人は手を取り合いおでこをくっつけ、今にもキスしそうな距離でクスクス笑っている。


 おおい! ここに父親いるけど、目に入っていないのか~と言いたいところだが、2人はいつもこんな感じだから今さらだな。エドワードも落ち着いたようで、良かった。


「ほらほら、もうみんな集まってるから始めるわよ」
「サラちゃん、また後でね」


 妻たちもにこやかに教会に入っていく。


「エド、私に見惚れないでよ!」
「今日は見惚れるよ……」


 こんな甘い会話をこれから毎日聞かされるのかと思うと、なんだか気恥ずかしい。 まあ新婚だから大目に見てやろうと思いたいが、この2人なら俺の歳になってもずっと言ってそうだ。エドワードも教会の中に入り、2人だけになった。


「さあ、そろそろだな」
「うん。父さん今までありがとう。これからもずっと側にいるから、よろしくね」
「お前を嫁に出す時は泣いたり寂しくなると思っていたが、にぎやかになって父さん嬉しいよ」
「泣いたのはエドだったね!」
「はは! そうだな」


 サラが俺の腕にそっと手をかける。オルガンの音が聞こえ始め、扉が開く気配がする。その時ふと娘が何かをつぶやいた。



「今度こそ、幸せにしてあげるからね」



 何を言ったか聞こうと思った瞬間ゆっくりと目の前の扉が開き、大勢の人の視線を感じた俺は自然と姿勢を正す。一番奥の祭壇では、エドワードが真剣な顔で俺達を見ていた。娘と目が合ったのだろう。ふにゃりと顔を崩し、幸せそうにサラを見ている。



 なんだあいつ。また泣きそうじゃないか。泣き顔でもからかって緊張でもほぐそうかと、サラの方を振り返った。



 サラは真っ直ぐに前を見て、少し切ない遠い昔を思い出すような大人の顔をしている。 しかしそれは一瞬で、誰も気づかなかっただろう。みるみるうちにサラの大きな瞳には涙がいっぱいたまり、頬は苺色になっていく。



 ああ、娘はそしてもう息子か、2人は本当に幸せになるんだな。



 あふれそうな涙は、俺がぬぐってやるわけにはいかない。



 そう思うと娘の涙がこぼれ落ちないように、ゆっくりと息子のもとに一歩踏み出した。
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