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12. 秘密のお茶会

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 私達が庭のガゼボに到着する頃には、すっかりお茶の準備が整っていた。コポコポと心地よい音をたてて、温かいお茶が注がれる。メイドや護衛は見える場所に下がらせたので、今は2人きりだ。これで私達の会話は聞こえないから、安心して「サラ」と「エド」で話すことができる。



「素敵な家族で安心したよ」
「ふふ、ありがとう。無理やり嫁がせる両親じゃなくて、良かったわ」



 権力主義者なら娘が何を言ったところで、隣国の王妃になれるかもしれない求婚を断る人などいないだろう。両親が娘を大事にしてくれる人で本当に良かった。



「相変わらず、苺が好きなんだね」



 テーブルには、苺を使ったケーキやジャムが所狭しと置かれている。入れたばかりの紅茶の良い香りが広がり、先程の話し合いの緊張がほぐれていくようだ。



「ローズも大好きだったの。それにこのジャムは、お父様が作ったのよ。お父様は休日にジャムやケーキを作るのが、趣味なのよ」



 今の父も家族をすごく愛していて、休日は領地で取れた果物でジャムを作っていた。その頃サラの意識は無かったけど、楽しかった思い出に思わず笑みが溢れる。



「それにしても、本当に同じ時代に生まれ変わったわね」
「少し年がずれてるけど?」



 うぅ……エドの言葉に棘を感じる。エドが少し口を尖らして拗ねているけど、無視して話を続けた。



「お父様やお母様とも会いたかったけど、今回はいないみたいで淋しいな」
「そうか……周りにはそれらしい人はいなかったの?」
「いないわ。まあお父様のことだから、今頃念願の農家か、いろんな国の果物を探し求める旅人か、いずれにせよ楽しく過ごしていると思う」


 お父様のことを思い出すと、ついクスクスと笑ってしまう。それより今日は苺を楽しまなきゃ! エドが「乗せすぎじゃない?」と言っているけど、無視してスコーンに苺のジャムをたっぷり乗せていく。うんうん、お父様の作ったジャムは最高だわ!



「エドはどうなの? 王子として生まれちゃって。勉強、頑張ってる?」
「まあ、二度目だからね。家族とは不仲ではないけど、前と同じで距離はあるよ。王族だからそんなものだと思っていたけど、サラを見ていると家族仲が良くて羨ましいよ」


 そういえば昔も魔術をしながら2人で話していた時、私の家族が羨ましいと言ってたっけ……


「まあそれでもフィリップは、国のため兄が王座に就いた時に支えるためにと、日々頑張っていたみたいだな」


 そう言ってエドは少し遠くを見ている。何かあったのだろうか? と考えていると、エドは真剣な目で私に向き合った。


「僕は今度こそ、あの時やり残した王族としての努めを果たそうと思う」
「え……?」
「前の人生で君と会えた事は嬉しかったし、後悔していない。でも王族としての努めを放棄した事は、悔やんでいたんだ」


 エドは今の人生では第3王子で王位は継がないけれど、前世では王位を継ぐはずだった。私の魂を取り戻すために、たくさんの葛藤や諍いがあったのだろう。


「キース王国は王族だけが贅沢をして、国民が苦しんでいる。そのせいで困窮しているというのに、さらに僕達の領土を奪おうとしているんだ。もしこの国がジーク王子に乗っ取られたら、今の平和なままではいられないだろう。僕もそしてフィリップも、しっかりと王族として戦う覚悟を決めたよ」


 キース王国が本当にこの国の領土を狙って、王族を抹殺したいと思っているのならエドは戦わないといけない。頭ではわかっていても、心が追いつかない。出会えたばかりなのに……


「まあそれでも、今回のことが片付いたらサラと結婚したいな」


 そう言ってエドは、テーブルの下でそっと私の手を握ってきた。ドクンと胸がはねる。


「君が16歳で僕が31歳くらいなら、なんとか……」
「エドがいろいろ言われそうだし、そこまであなたが独身でいられるとは思えない……」


 はあ~と2人でため息をつく。テーブルの下では、エドの指がからまってきた。


「私は正直、王族には向いていないわ」
「僕ももう、疲れたよ」


 私はもちろんだけど、エドもどちらかというと政治に関わりたい人ではない。何かを研究したり作ったりすることで、やる気を発揮する。きっとこの指輪も楽しんで作ったんだろうな。


「次生まれるなら、繁盛している商家がいいな。何かを作って、売るのは楽しそうだ。」
「私は次こそはお父様達と一緒に、のんびり過ごしたいな。そうすると有無を言わさず果物農家か八百屋かも?」


 はっきりと今生きている時代では、私達の人生が交わらない事を考えたくない。エドも同じなのか楽しそうに、次の人生を語っている。


 私達の指は隙間なくからみあい、お互いの熱を感じていた。


「そういえばジーク王子は何の道具も使わずに、君の魔力量が多いと言ったんだよね?」
「うん。いきなり後ろから、話しかけられただけよ」
「……そうすると、ジーク王子こそが、魔術兵器みたいなものなのかもしれない」
「ジーク王子が魔術兵器?」


 どういう事だろう? 人なのに兵器になるとは? よくわからず首を傾げていると、エドが詳しく説明し始めた。


「以前君の事で昔の文献をたくさん読んだ時に、他人の魔力量を見る力を持つものは、特別な魔術師だと書いてあったんだ」
「特別って?」
「僕達は昔の文献から、魔法陣を習って作っただろう?」
「うん。型が決まってて、それに呪文を当てはめる感じだったよね」
「でも魔力量が見える者は、魔法陣も独自に作れるらしい」
「そんな事できるの!?」


 師匠だってそんな事できなかったし、周りにもいなかった。エドによるとその文献はかなり古くて文字もかすれていたため、なぜ魔法陣が作れるのかまでは分からなかったらしい。


「それでも文献の最後の1文が気になって、解読を頑張ったんだけどね」
「どんな内容だったの?」
「その魔力量の見える者は、何かを持っていない。あと、何かができないとあって、その何かがかすれて見えなかったんだ」
「す、すごい気になる……」


 師匠とエドのことだから当然修復の魔術もしたんだろうけど、読めなかったんだろうな。でもジーク王子に弱点といえそうな事があるのは、嬉しい情報だ。


「とにかくジーク王子は、かなりの魔術師だと思う。僕達の知らない魔術を使うのではないかな。気をつけるんだよ」
「気をつけなきゃいけないのは、あなたも同じ。ううん、標的はあなた達王族なんだからね」


 そしてもしそれが実行されるなら、私がエドを殺す燃料になるということだ。絶対にそんな事はさせない。


 落ち着くためにコクリと紅茶を飲み干すと、護衛達が控えている場所がざわめき始めた。なんだろうと思って振り向くと、護衛が止めるのも聞かず誰かが歩いて近づいてくる。


「またフィリップが一緒か」


 ぞくりとする憎しみを込めた声とともに歩いてきたのは、ジーク王子だった。
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