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07. 愛のある手紙

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 私の目の前に跪いたエドは真剣な表情で、私の手に自分の手を重ねる。決して触れる事はできないはずなのに、エドのぬくもりが伝わってくるようだ。


「サラ、僕は君のことを愛してる。次生まれ変わったら、絶対に僕は君を見つける。そうしたら僕と」
「ダメよ!」
「え?」


 エドの顔には驚きと失望の色がありありと見えるけど、ここはちゃんと伝えなくてはいけない。


「探してはダメ。私達今は誤解が解けて仲直りしたけど、また生まれ変わったら喧嘩ばかりすると思う。だって生まれ変わったとしても、今の記憶があるかはわからないでしょう?それなら最初から出会わない方が、お互いのためよ!」


 エドは30年もの間後悔して日々過ごしてきたけど、私なんて今日聞いたばかりだ。人生経験も少ないから、また同じ過ちを繰り返すかもしれない。生まれ変わってこの記憶が残っていればうまくやれるかもしれないけど、前世の記憶が残っている人なんて聞いたこともない。


「それにエドの今の気持ちは、私に対しての罪悪感や執着なんじゃない?」
「難しいこと言うね」
「そんなの私はちっとも嬉しくない」


 本当はエドが私のことを大切に思っているのがわかっているのに、覚えたての恋愛小説のセリフを持ち出した。だってあんな浅はかな事をする私に関わらない方が、エドはきっと幸せになれる。私が幸せにしてあげたいなんて、そんな事を言える資格すらないし自信もない。


「執着か、そうかもしれないね。それでも僕は君を探さずにはいられないし、必ず見つけるよ」
「エド……」


 お互いなんとなくこれ以上話し合っても平行線だと思って、黙り込んでしまう。そんな暗い空気を打ち消すように、エドが明るく話しかける。


「そうだ! 君のお父さんから、手紙を預かっているんだ」
「え! 父から!?」


 どうやら父はエドが王位を捨ててまで私の魂と会うための魔術を研究している事を知って、「もし娘と会えたらこの手紙を読んでほしい」と手紙を託していたそうだ。


 エドが私に見える様に手紙を開き、読んでいく。私は父の字を見ただけで、涙が出てきそうだ。魂なのに涙が出るのは本当に不思議だけど。


「サラへ。本当にお前は大馬鹿だ」


 出そうな涙が引っ込むのを感じる。読んでいるエドも気まずそうに宛名を確かめ「これはオルレアン伯爵の筆跡で間違いない?」と聞いてくる始末だ。悔しいが癖のあるお父様の字なので、頷くしかない。


「サラは昔から短気で後先考えず行動するから気をつけろと言っていたのに、話を聞かないお前には本当に怒っている。まさか死んでしまうなんて、ここまで大馬鹿とは思わなかった」


 本当にそのとおりなので、返す言葉も無い。


「それでも私やお前の母は大馬鹿なサラが恋しくてしかたがない。会いたくて仕方がない。馬鹿なお前を愛しているのだから、私達両親も大馬鹿なのだろう」


 私のお父様は嘘を言う人ではない。だから私のことを大馬鹿だと怒っているのも本当で、それ以上に私を愛しているのも本当なんだと思い知らされる。


「今これを読んでいるという事はお前を傷つけた憎きエドワードが、お前の魂を呼び戻してくれたのだろう。何も伝えられず死んでしまったお前に、言葉を伝える機会をくれた事に感謝する」


 エドの肩がほんの少し揺れる。手を添えてあげる事ができたなら、どんなにいいだろうか。


「私達夫婦は家督を弟に譲り、領地に行くことにした。昔から言っているが、私は果物が大好きだから品種改良などして余生を過ごしたいと思う。おまえの好きな苺を、もっと甘く改良できるように頑張るつもりだ」


 1人娘を亡くして王都に居るのが辛かったのだろう。もともと好きだった領地での仕事が、両親の心を癒やしてくれていたらほんの少し救われる。


「愛する娘に先に死なれるのが、これほど辛い事とは思わなかった。でも私は諦めない! また生まれ変わったら私の娘になりなさい。その頃にはきっとおまえの好物の苺を、たくさん食べさせてやるから」


 ボタボタと大粒の涙が溢れ、止まらない。エドが何も言わないところをみると、両親はもう生きていないのだろう。それでもエドが私の魂を魔石から呼び戻して、この手紙を読んでくれたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。


「エド、ありがとう。お父様からの言葉を聞けて、本当に嬉しかった」


 エドは少し淋しげに私を見つめ、指で私の涙を拭おうとする。しかしすり抜けてしまうのを思い出したのか、自分の指をじっと見つめていた。


「君の涙を拭いてあげる事もできないなんて」
「……でもその気持ちが嬉しいよ」


 そう言うとエドはほんの少し笑った。しかし次の瞬間その笑顔がフッと消え、気づけばエドの体は床に倒れ込んでいた。
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