すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜 

四葉美名

文字の大きさ
上 下
51 / 54

28 アンジェラ王女とエリック カイルSIDE①

しおりを挟む
 
「おはよう! 大聖女サクラ」
「師匠……いい加減からかうのは止めてください!」


 ケセラの町から王宮に戻り、もうこの会話のやり取りも何度目だろう。サクラは飽き飽きしているようで、ジャレドをジロリと睨んでいる。それでもそう呼ぶのは彼だけじゃない。むしろ今回の事件を知らない人たちほど、サクラを聖女ではなく「大聖女」と呼んでいるのだ。


「そりゃあ、魔法陣もないのにサクラ一人の力で結界を張り直したんだよ? しかも今回の結界は内側だけじゃなく外にも影響があるからね。隣国のサエラからは瘴気が減っていると感謝の手紙が来ているよ」


 サクラの作ったあの虹色の結界は、この国だけじゃなく外国にも影響を与えるすごいものだった。彼女に言うつもりは全くないが、アルフレッド殿下には隣国からサクラに結婚の打診があったらしい。


(殿下と婚約していないことでサクラに相手がいないと思ったらしいが、ケセラから帰った当日に婚約して良かった……)


 しかし彼女のなかでサエラ国について思うことは、結界で感謝されることよりも別のことらしい。ほんの少し顔を曇らせ、言いづらそうに話し始める。


「……サエラ国といえば、アンジェラ王女の結婚は取りやめになったのですか? エリックも今はどこに?」


 あの二人に関しては、すべてジャレドが後始末をしてくれた。あの日かなり遅く合流したジャレドから聞いたところによると、すぐにアルフレッド殿下に連絡し二人は捕縛されたらしい。


 その後のことも俺はもちろん知っているが、サクラは知らない。いや知らなくていいと思っている。しかしなにも説明しないままも良くなかったみたいだ。彼女はのらりくらりと質問をかわす俺ではなく、ジャレドに聞くことにしたらしい。


 罪人の罰など知ってほしくない俺が眉間にシワを寄せると、ジャレドはそれを見てフッと笑い、サクラに説明し始めた。


「ああ、そりゃ気になるよね。怖がらないで聞いてほしいのだけど、アンジェラ王女たちは術返しにあったみたい。口封じの呪いは術を壊したのではなく俺が吸い取ったから良かったけど、忘却の呪いは結界が壊れたからね。魔術がそのままあの二人に返ってきたみたいだ」


 それを聞いたサクラは「そうなんですか……」と呟き、さほど驚いていないようだった。ジャレドもそれに気づいたようで「驚かないの?」と聞いている。


「私の国でも諺で悪いことをしたら自分に返ってくるとか、術を使ったらそれが破られて呪ったほうが苦しむという話があるんです。もちろんこの世界みたいに本当の魔術じゃなくて、おとぎ話みたいなものですけど。なんとなく予想はしていました」


 サクラはふうっとため息を吐くと、そっと俺のほうに近寄った。やはり聞いたら怖くなったのかもしれない。俺が彼女の肩を抱き寄せると、胸に頭をのせ寄りかかっている。


「でも魔術が返ったということは、二人に忘却の呪いがかかったのですか?」

「ちょっと違うかな。二人は高熱が出て、今までの記憶がないみたいだ。だから話が通じない状態でね。仕方がないから王女は王宮の離れにある塔に一生幽閉となるだろうね。エリックもここからかなり遠い場所にある牢屋で過ごすだろう」
「そうですか……」


 あんな目にあったのに、サクラは二人のことを考え落ち込んでいるようだ。犯罪を犯したとはいえ、後味が悪い結果を知るのは嫌なのだろう。


 慰めるように彼女の頭をなでるが、サクラはなかなか気持ちの切り替えができないようだ。暗い顔でため息を吐いている。するとそんな重い空気の部屋の扉が開き、アメリの明るい声が響いた。


「サクラ様! そろそろ結婚式のお衣装合わせですよ!」


 その瞬間、サクラの顔がパッと明るくなった。そして大きく深呼吸をすると、アメリのほうを振り返る。


「そうだった! ありがとう、すぐ行くね! じゃあカイルまたね。師匠もブルーノさんもまた夕食で!」


 俺の腕からスルリと抜け出すと、サクラの興味はアメリに移ってしまった。二人は「素敵なドレスがいっぱいですよ」「楽しみ!」と、きゃあきゃあ騒いで楽しそうだ。残念だが今回は俺よりも、親友との楽しい時間が彼女には良かったみたいだな。


 しかし反対に暗い顔をしているのがブルーノだった。お茶の準備をしながらため息を吐き、なにか言いたそうにジャレドを見ている。もちろんその視線に彼が気づかないわけがない。


「どうしたんだい、ブルーノ。この結末は不満かい?」


 ほんの少しからかいの色が混じったジャレドの言葉に、ブルーノはさらに眉間にシワを寄せる。


「だってそうでしょう? 自分たちがした行いを覚えておらず、ただ幽閉されて終わりだなんて。エリックはまだしも、王族であれば良い食事や衣服を与えられます。サクラ様にした仕打ちを考えると、私はとても許せないのです!」


 ブルーノはいつも穏やかで優しい青年だ。こんな声を荒げ、怒る姿を初めて見た。ジャレドはそんな彼を見て笑っているが、その笑顔の奥には薄暗いなにかが感じられた。


「おいおいブルーノ、君も教会の者だろう? それならさっき僕がサクラに伝えたことが嘘だって見抜いてくれなきゃ」
「え……? 嘘だったのですか?」


 ジャレドは湯気が立つお茶をふうふうと冷ましながら、ブルーノを見上げる。


「そうだよ~嘘も嘘。サクラの聖魔力を利用した呪いをかけたんだよ? しかも二人は自分たちの記憶を留めておくために、魔法陣を書くインクに血を混ぜていた」
「そ、それでどうなったのですか?」


 ブルーノの急かすような声に、ジャレドの目がほんの少し光った。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...