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27 虹色の結界②
しおりを挟むそしてパリンとガラスが割れるような音と同時に空が虹色に光ると、結界にピシピシとひびが入る。最初は落雷のような大きな割れ目だったのがあっという間に細かくなっていき、最後にはパアンと弾けるように結界が割れた。
(ひえ~! どうしよう! 怒られる!)
この国を瘴気から守っている結界が粉々になってしまった。それでもよく見ると、うっすらと膜が張っているようにも見える。穴が開いている様子もなく、瘴気も入ってきていない。
(なにあれ? 空全体が虹色にキラキラしてるけど、私なにか変なの作っちゃったのかな?)
「ねえ、カイル。あれって……きゃあ!」
「サクラ!」
後ろからいきなりカイルに抱きしめられ、大きな叫び声をあげてしまう。苦しいほどにきつく、まるで私に縋っているような抱きつき方に、驚いて後ろを振り返った。
「どうしたの? カイ――」
「全部、思い出した……!」
「え……」
カイルのその言葉にドクンと胸が跳ね上がり、喉の奥が苦しくなる。
(今、なんて言ったの……?)
聞こえているのに頭が真っ白になって理解が追いつかない。それでもカイルが震える声で何回も「思い出したんだ」と言うたびに、これが現実のことだと実感してくる。
(そうだ。結界が割れたから、忘却の呪いも解けたんだ……)
それでも確かめずにはいられない。私はカイルの大きな手に自分の手を重ね、あふれそうな涙をこらえながら口を開いた。
「……全部って、全部?」
「ああ、この交換したネックレスが、俺たちを救ったんだな」
「お、思い出してくれたの……? 本当に本当に全部?」
「本当だ。俺はこの町で君にプロポーズしたんだ。そうだろ?」
――全部思い出した
ずっと、ずっと、聞きたかった言葉だ。
一番大切な人に忘れられ殺されそうになっても、それでも必死に希望を捨てずにここまできた。
「う……うう……」
目の奥がじんじんと痛んで、胸が苦しい。大粒の涙が次から次へと零れ落ち、私はもう我慢ができなかった。
「う、うわあああ。うああああ……」
「いっぱい泣いていい。全部受け止めるから」
後ろから切ないほどにぎゅっと抱きしめられ、よけいに涙が止まらない。私は大きく口を開け、気がすむまで子供のように泣きじゃくった。
「本当につらい思いをさせてごめん。俺は何度もサクラを傷つけた」
「サクラはずっと頑張ってたな。本当にありがとう」
「もうこんな苦しい思いは絶対にさせない。許してくれ」
泣いている間カイルは私の頭を優しくなで、何度も謝っていた。
(カイルが謝ることなんてない。ずっと変わらず私のことを愛してくれてたのだから……)
ようやく泣き止んだ私はスンスンと鼻をすすり、カイルの言葉を首を振って否定した。
「謝らないで。だってカイルは記憶がないのに、命をかけて守ってくれたでしょ。それにずっとあのネックレスを持っていてくれたから。本当に嬉しい……」
あのネックレスは旅の途中、私が「好きな人とお揃いの物を持ちたい」と言ったことを覚えていたカイルが買ってくれたのだ。彼の気配を少しでも近くに感じたい私が、あの小瓶を選んだ。
「不思議だったんだ。買った記憶がないのにいつの間にか胸元にあって、しかもなぜか外す気になれない。それにあの小瓶にふれている時だけは気持ちが安らいだ」
「私も一緒だったよ。あっちの世界にいた時に何度もあの小瓶にさわって、あなたの元に帰りたいって願ってた。あれにふれている時だけは、希望が持てたの」
つい最近までそんな日々を過ごしていたのに。今は温かいカイルの腕の中にいるからだろうか。ずいぶん昔のことのように思えた。
「結界が……虹色だ」
「やっぱりあれって、結界? 私、新しく結界を張れたのかな?」
空を見上げると、さっきよりもくっきり虹色の結界が見えた。今までの結界は透明の膜という感じだったけど、私が作ったものはキラキラとした虹色の粉が空から降ってきている。
「あの粉みたいなの、なんだろう? 変なのじゃないといいけど……」
「たぶんケセラの町に残っていた瘴気を浄化しているんじゃないか?」
(そうかもしれない。あの町はかなり瘴気があったみたいだから。でも浄化されているなら良かった。しかも自動でしてくれるなんて、かなり助かる!)
謎の粉の正体に見当がつき安心して町を見ていると、大事なことを思い出した。
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