上 下
28 / 54

16 アンジェラ王女と聖女の魔力③

しおりを挟む

(あ……! まさか……!)


 瞬く間に検査板からは虹色の光が浮かび上がり、部屋中に金色の粒が舞い始める。幻想的なその光景はまさに私が召喚された時と同じで、懐かしさに胸が締め付けられそうだった。


(魔力が戻ってる……?)


「おお! やはりあなたこそが、聖女様! この美しい虹色の光。まるで神が降臨したかのような――」
「ジャレド」
「まあ、そういうことです。王女様。彼女が聖女だということ、わかってもらえましたでしょうか?」


 いい加減にしろと言わんばかりの司教様の呼びかけに、師匠はあわてて口調を戻すと王女のほうを振り返った。


 するとガタンと椅子を乱暴に倒し、王女が叫びだす。


「そんなわけないわ! 魔術師ジャレド! あなた、この検査板に細工をしたのでしょう?」


 わなわなと震えながら師匠を睨みつけ、今にも飛びかかりそうなほど怒っている。しかしそんな鬼気迫る表情に動じることもなく、王女を見つめるジャレドの瞳は氷のように冷たくなっていく。


「おや? アンジェラ王女はこの検査板に、そのような不正ができる方法をご存じで?」
「わ、わたくしが知るわけないでしょう?」


 やはり彼女は子供だ。突然質問を返され目が泳ぎ始めた。するとその姿をかばうようにエリックが前に出てくる。王女と違ってまったく動揺はしておらず、堂々と師匠のほうに歩いていく。


「きっとその検査板には、人がふれると虹の光が出るよう細工してあったのでしょう。ジャレド氏があらかじめ魔法陣を仕込んでいたのなら簡単ですよね?」


 そう言ってエリックはせせら笑うと、王女のほうを振り返った。アンジェラ王女はホッとした顔で「エリックの言うとおりよ!」と叫んでいる。


(たしかに私たちが奥に隠れてから時間はあったから、検査板になにかすることはできたと思う。じゃあ、これはその場しのぎの策なのかな……)


 二人のやり取りに心臓がバクバクといっている。しかし師匠は挑戦的に睨みつけるエリックを見て、ニヤリと笑った。待ってましたと言わんばかりの表情に、目の前のエリックは気づかない。


「なら君がこの検査板にふれてみればいい。君の魔力の色は?」
「……青だが」
「さあ、どうぞ」


 検査板を差し出され、エリックは戸惑いながらも手を置いた。するとすぐに板は青く光を放ち、ジャレドは満足そうにほほ笑んだ。


「青ですね。では他の者でも試してみましょうか。ブルーノ! アメリ!」


 外で控えていた二人の魔力の色は緑と白。申告通りの色が光り、エリックは苦々しい顔でうつむいている。


「ほら、本物でしょう? 細工などするわけがない。エリックといったかな? 君が間違っていたようだね?」


 クスクスと笑うジャレドの言葉にも、エリックは何も答えない。ただギリッと歯を食いしばる音だけが、部屋に響いた。そんな黙り込む彼の横を通り、師匠はアンジェラ王女に検査板をスッと差し出した。


「さあ、アンジェラ王女。この検査板に手を置いて証明してください。あなたもサクラと同じ聖女だというのなら、先ほどのようにこの部屋が虹色の光で満たされるでしょう」
「――っ!」


 師匠はそう言うと、彼女を追い詰めるように一歩前に出た。


「わ……わたくしは……」


 王女の顔は青ざめ、何も言えずに黙っている。エリックも同じだ。屈辱にまみれた顔でジャレドを睨み、拳を握りしめていた。


「わ、わたくしは、もう王宮に帰らせていただくわ!」


 叫ぶようにそう言うと、王女は足早に扉に向かっていく。しかし王女が部屋を出ようと扉に手をかけた瞬間、今まで黙って様子を見ていた司教様が突然話し始めた。


「おお! それならちょうど良い! そろそろ迎えが来るころでしょうから」
「む、迎え……?」


 アンジェラ王女は意味がわからないといった様子だ。確認するようにエリックの顔を見ているけれど、彼も首を横に振っている。


 するとカチャリと扉が開き、一人の男性が入ってきた。


「おお、時間どおりですな!」


 司教様はニコニコと笑いながら立ち上がると、両手を広げその男性を歓迎した。反対にその人の顔を見た瞬間、アンジェラ王女は顔が真っ青になり、後ずさりし始める。


「ようこそ、アルフレッド殿下」


 部屋に入ってきたのは、まぎれもなくこの国の王太子である、アルフレッド殿下だった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...