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15 サクラにかけられた呪い①
しおりを挟む「せ、聖女だと!? それは本当か? ジャレド!」
「ジャレド! サクラを離せ!」
カイルと司教様が同時に叫び、気づけば師匠はカイルに胸ぐらをつかまれていた。あわてて二人の間に入って止めようとしたけれど、私の身長が足りないから二人の睨み合いは一向に止まらない。
それでも凄んでいるのはカイルだけで、師匠はヘラヘラと笑って余裕の表情だ。
「もう~なんなの? カイルはサクラのこと忘れてるくせに、独占欲だけはあるんだから」
「くっ……! しかし! 気軽に女性にふれてはいけない!」
「はあ? カイルだってさっき、サクラのこと抱きしめてたじゃないか?」
「う……ぐう、しかし――」
終わりそうにない不毛な言い争いにオロオロしていると、司教様が苛立ったように二人を引き剥がした。
「二人とも、そんなことは後にしてくれ! それより彼女が聖女だというのは事実なのか?」
その言葉に師匠はクスッと笑い、また椅子に座った。
「事実も事実。僕が魔法陣を作って、伯父さんが聖魔力で発動させてサクラを召喚したんだ。覚えてないみたいだけど~」
どうやら師匠は「自分だけが知ってる」というこの状況を、楽しんでるみたいだ。お小言を言う二人への良い仕返しだと思ってるのだろう。口笛を吹いて「質問があるならどうぞ~?」なんて、くつろいでいる。
すると二人は師匠の煽りにも気づかず、待ってましたとばかりに質問し始めた。
「ジャレド氏、なぜあなただけ、サクラのことを覚えているのですか?」
「それにジャレド、彼女には聖魔力どころか、魔力すらないのだ。それはどういうことなんだ?」
「しかも彼女はなぜか話せない。話そうとすると喉を痛がるのだが、その理由も知っていますか?」
「彼女はいきなり王宮に現れたそうだが、おまえが呼び寄せたのか?」
二人の猛烈な問いかけに、師匠は自分で質問を募集したくせに、うんざりした顔をしている。
「ちょっと待ってよ~! 質問が多すぎる。それでまず、なんだって? サクラのことをなんで覚えてるかだっけ?」
「そうです。なぜあなただけ彼女のことを覚えているのですか?」
カイルは小さな声で「納得がいかないのだが」と呟き、師匠の顔をじとりと見ている。するとジャレドはその憮然としたカイルの顔を鬱陶しそうに手で払いのけ返事をした。
「そんなの俺が知りたいよ。反対になんで伯父さんたちは忘れてるわけ? じゃあ、次はなんだっけ? え~っと……サクラに魔力がないってことだったな。じゃあ、見てみようか」
まったく知りたい答えになっていない返事を返され、カイルはため息を吐きながら私の魔力の件について話し始める。
「彼女の魔力は、王宮でもここでも検査板ですでに調べました。どちらもなんの反応もなかったのです」
少し呆れたようなカイルのその言葉に、師匠は鼻で笑って私のほうを振り返った。
「ふ~ん。見くびってもらっちゃ困るな~。僕は天才魔術師なんだよ? 魔力の流れくらい本人にさわればわかる。ではサクラ、こっちにおいで」
師匠が私に向けて手を差し出し、私もそれに従った。
(魔力の流れを見てもらうのは初めてだけど、魔術に関して師匠は天才だ。きっと原因がわかるはず!)
一瞬カイルが私の手を止めようとしたが、司教様に「カイル様……」と呼びかけられ思い直したようだ。そのかわり、私の後ろにピッタリとくっついて、師匠の監視をしている。
「じゃあ、サクラ。目を瞑ってね~」
指示通り目を瞑ると、師匠が私の両手をつかんだ。そのままじっとしていると、なにやら顔の近くで人の気配がしてくる。すると突然、私の体がふわりと持ち上がった。
(え? え? な、なに?)
目を開けると私はカイルに抱き上げられていて、師匠は呆れ返った顔でカイルを見ていた。
「ジャレド氏! 今しようとした行為は、本当に魔力を調べるのに必要なのですか?」
抱えていた私を降ろしサッと背中に隠すと、カイルは一歩前に出て師匠に詰め寄っている。しかし師匠もひるまない。
「必要だよ! おでこを合わせて、魔力の流れを調べるの! 伯父さん、カイルをサクラから遠ざけてよ。話が進まないから」
そう言うと、カイルの後ろにいた私の腕をつかんで引っ張っていく。
「カイル様……」
「くっ……!」
司教様に咎められたら、カイルも引き下がるしかないみたいだ。それでも師匠を威嚇することは止めないようで、ジロジロと睨んでいる。
(もしかしたらさっきのは、はたから見たらキスする前みたいだったのかも……)
お互いの両手をつないで額をコツンとする様子は、キスする前の行動そっくりだ。真面目なカイルにとって、人前で男女が顔を近づけるなんてあり得なかったのだろう。驚いて止めるのも当然だ。
しかし我が師匠にそんなデリカシーは全くない。再び私の両手をガシッとつかむと、お互いの額をくっつけた。
「さ~て、これからサクラに僕の魔力を流すからね」
私はコクンとうなずくと、目を瞑る。しばらくすると、つないだ手からじわりとなにかが流れてくるのを感じた。
(なにこれ。温かい……)
私の体の中に、温かくて心地よい液体のようなものが巡っている。手のひらから腕に、肩から頭とお腹に。スルスルと血管を通っていくように、師匠の魔力が全身に届けられていく。
どのくらいそうしていただろうか。その優しい温かさが足先まで届いた時、師匠がパッと手を離した。
「サクラ、もういいよ~」
そして司教様たちのほうを振り返り、ニコリと笑う。
「彼女に魔力がない理由がわかったよ~」
「なに! 本当か!」
二人はずいっと前のめりになって、師匠の話の続きを待っている。するとジャレドは明日の天気を言うような軽さで、検査の結果を笑って報告した。
「うん! 彼女、呪われてるね!」
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