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13 司教様と聖魔力③
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(なんだか期待されてたのに、申し訳ないな……。それにしても、私の聖魔力は枯れてしまったの? あの時王女が私から聖女の力も声も奪ったと言ってたけど、実際にそんなことできるのかな? それに呪いって王女がかけたのだろうか……)
こういうことも目の前にいる二人に相談できればいいのに、声が出せないのでなにもできないのが悔しい。はあ~とため息を吐き落ち込んでいると、カイルは私が疲れたと思ったようで心配そうに顔をのぞき込んできた。
「悪い。朝から馬に乗って疲れただろう。休憩しようか」
「おお、ちょうどお昼の用意ができているはずです。話はまたその後にしましょう」
二人はそのまま立ち上がり、食堂に移動しようとしている。
(あれ? 私は結局、ここでは犯罪者扱いされないってことなのかな? さっきのケリーさんの手紙になんて書いてあったんだろう?)
それに司教様はアンジェラ王女について「愚行がまた始まった」と言っていた。「また」というくらいだから、私がいない間になにかしたのだろう。
(でもこれって、教会が受け入れてくれたってことよね。良かった~!)
ホッと安心して私も椅子から立ち上がった。司教様たちはなにやら二人で、昨日の転移について興奮気味に話している。
「それにしても、よくあの状況で転移を成功させましたな! すぐにケリーさんからの手紙が届いたので安心しましたが、大量の聖魔力の気配に昨日は驚きました」
それは私もそう思う。あんな切羽詰まった時によく魔術を使えたものだ。しかしカイルも内心は違っていたようで、苦笑いをしている。
「正直私も緊張しましたが、ジャレド氏に徹底的にしごかれましたから。……そういえば彼は最近どこにいるのでしょうか? 一年前くらいから見かけませんが」
(え? 師匠ったら、一年前からいないの?)
するとカイルのその問いかけに、司教様の顔が一気に曇る。
「お恥ずかしながら、あやつは一年前に旅の踊り子を追いかけて、隣国に行ってしまったのです。まったく! そろそろ聖女様の召喚に成功するはずですから、戻ってきてほしいのですが……」
その言葉にドキッと胸が跳ねた。今たしかに聖女様の召喚って言った。もしかして誰か別の聖女を召喚するつもりなんだろうか。
「まあ、あやつのことはいいです。さあ、お二人ともお昼をいただきましょう」
「ありがとうございます」
司教様がやや苦笑しながら、ドアを開けてくれた。私もカイルを追いかけるようについて行く。
それにしても師匠は相変わらずのようだ。会えないのは淋しいけど女性を追いかけていったとわかると、謎の安心感がある。
(そういえば、私が最後の旅に出る前に、未亡人の踊り子さんについて熱く語ってたっけ。あの女性について隣の国まで行くなんて。いつもはグータラなくせに恋愛ごとには凄い行動力だ)
きっとその女性との恋が終わっても、隣国でまた別の恋をしているのだろう。そんな師匠を思い浮かべてニヤニヤしていると、突然私とカイルの間にふわりと金色の粒が見えだした。
「…………?」
(なに、これ?)
すると次の瞬間、私の足元に金色の魔法陣が浮かび上がる。
「――っ!」
(魔法陣! もしかして私、どこかに飛ばされる!?)
踏まないようにあわてて下がろうとしたけど、もう遅かった。ドンとなにかが顔にぶつかり、そのまま目を閉じると聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「いたた。なにかぶつかったな。……あれ~? 伯父さんがいない。もう食堂に行ったのかな?」
(こ、この声! このチャラい話し方!)
懐かしいその声に驚いて目を開けると、目の前にいたのはやはり師匠のジャレドだった。
さっきまで話題の中心だったその人が突然現れて、私は呆然と彼を見つめている。するとその視線に気づいたのか、師匠は私を見て目を大きく見開いた。
そしていつもの色気たっぷりの笑顔を私に向けると、信じられないことをつぶやいた。
「あれ? サクラじゃないか。まだ教会にいたのかい?」
(え? 師匠が私のことを覚えてる?)
こういうことも目の前にいる二人に相談できればいいのに、声が出せないのでなにもできないのが悔しい。はあ~とため息を吐き落ち込んでいると、カイルは私が疲れたと思ったようで心配そうに顔をのぞき込んできた。
「悪い。朝から馬に乗って疲れただろう。休憩しようか」
「おお、ちょうどお昼の用意ができているはずです。話はまたその後にしましょう」
二人はそのまま立ち上がり、食堂に移動しようとしている。
(あれ? 私は結局、ここでは犯罪者扱いされないってことなのかな? さっきのケリーさんの手紙になんて書いてあったんだろう?)
それに司教様はアンジェラ王女について「愚行がまた始まった」と言っていた。「また」というくらいだから、私がいない間になにかしたのだろう。
(でもこれって、教会が受け入れてくれたってことよね。良かった~!)
ホッと安心して私も椅子から立ち上がった。司教様たちはなにやら二人で、昨日の転移について興奮気味に話している。
「それにしても、よくあの状況で転移を成功させましたな! すぐにケリーさんからの手紙が届いたので安心しましたが、大量の聖魔力の気配に昨日は驚きました」
それは私もそう思う。あんな切羽詰まった時によく魔術を使えたものだ。しかしカイルも内心は違っていたようで、苦笑いをしている。
「正直私も緊張しましたが、ジャレド氏に徹底的にしごかれましたから。……そういえば彼は最近どこにいるのでしょうか? 一年前くらいから見かけませんが」
(え? 師匠ったら、一年前からいないの?)
するとカイルのその問いかけに、司教様の顔が一気に曇る。
「お恥ずかしながら、あやつは一年前に旅の踊り子を追いかけて、隣国に行ってしまったのです。まったく! そろそろ聖女様の召喚に成功するはずですから、戻ってきてほしいのですが……」
その言葉にドキッと胸が跳ねた。今たしかに聖女様の召喚って言った。もしかして誰か別の聖女を召喚するつもりなんだろうか。
「まあ、あやつのことはいいです。さあ、お二人ともお昼をいただきましょう」
「ありがとうございます」
司教様がやや苦笑しながら、ドアを開けてくれた。私もカイルを追いかけるようについて行く。
それにしても師匠は相変わらずのようだ。会えないのは淋しいけど女性を追いかけていったとわかると、謎の安心感がある。
(そういえば、私が最後の旅に出る前に、未亡人の踊り子さんについて熱く語ってたっけ。あの女性について隣の国まで行くなんて。いつもはグータラなくせに恋愛ごとには凄い行動力だ)
きっとその女性との恋が終わっても、隣国でまた別の恋をしているのだろう。そんな師匠を思い浮かべてニヤニヤしていると、突然私とカイルの間にふわりと金色の粒が見えだした。
「…………?」
(なに、これ?)
すると次の瞬間、私の足元に金色の魔法陣が浮かび上がる。
「――っ!」
(魔法陣! もしかして私、どこかに飛ばされる!?)
踏まないようにあわてて下がろうとしたけど、もう遅かった。ドンとなにかが顔にぶつかり、そのまま目を閉じると聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「いたた。なにかぶつかったな。……あれ~? 伯父さんがいない。もう食堂に行ったのかな?」
(こ、この声! このチャラい話し方!)
懐かしいその声に驚いて目を開けると、目の前にいたのはやはり師匠のジャレドだった。
さっきまで話題の中心だったその人が突然現れて、私は呆然と彼を見つめている。するとその視線に気づいたのか、師匠は私を見て目を大きく見開いた。
そしていつもの色気たっぷりの笑顔を私に向けると、信じられないことをつぶやいた。
「あれ? サクラじゃないか。まだ教会にいたのかい?」
(え? 師匠が私のことを覚えてる?)
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