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12 二人の男女にベッドがひとつ②

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(ぎゃあああ! 信じられない! メチャクチャひどい顔してる!)


 そのうえ髪の毛はバッサバサで埃だらけ。不幸中の幸いは、マスカラやアイラインがウォータープルーフだったことだろうか。


(私のズボラ精神が役に立ったわ。お湯で落とせる化粧品ばかり買ってたから、とりあえずメイク落としがなくても良さそう)


 それでもこんな顔をずっとカイルに晒していたなんて! 「私のこともう一度好きになってくれないかな?」なんて乙女なことを考えてる場合じゃないよ! 本当に恥ずかしい……!


(とりあえず洗って綺麗にしなきゃ! きっと匂いもひどかったはず……)


 落ち込みながらも急いでお風呂に入り必死で汚れを落とすと、すでにカイルは帰ってきていた。たくさんの美味しそうな食事と飲み物。それに追加で私の洋服とヘアブラシなど、身の回りの物までたくさん買ってくれたようだ。


(こんなにいっぱい。いいのかな……)


 チラリとカイルを見上げると、こんなにお金を使ったのにご機嫌だ。私が戸惑うのも想定内らしく「これは君を無断で崖から突き落とした償いだから」と言っている。


(カイルはむしろ助けてくれたのに……)


 でも難しいことは今の私には説明できないし、なにより受け取ったほうが彼の気持ちがラクになるのかもしれない。そう思った私はペコリとお辞儀をして、彼の思いやりの品を受け入れた。


「さ、食事も終わったし、明日も早い時間に出るから、もう寝ようか」


 心なしかカイルの声が震えているように思えるけど、気のせいだろう。お互い微妙な距離を保ちつつそろそろとベッドに入り、カイルは寝袋に入り、私は毛布をかぶった。


(緊張して眠れないかも……)


 私はバクバクと鳴る心臓の音を子守唄代わりに、ぎゅっと瞼を閉じる。すると次の瞬間、私はトントンと肩を叩かれた。


「よく眠れたか?」
「…………?」


 カイルが私をじっと見ながら「ぐっすり寝れたみたいで良かった」と言っている。その言葉にあわてて部屋を見渡すと、窓から明るい朝の光が入ってきていた。


(うそ! 私あれからすぐに寝ちゃったんだ!)


 カイルと同じベッドを使うことであんなにドキドキしていたのに、あっという間に寝てしまったみたいだ。緊張して眠れないかもと思った時から記憶がないし、もう朝になっている。


(もう! 本当に恥ずかしい!)


 私はペコリとお辞儀をすると、すぐに身支度を始めた。カイルはだいぶ前に起きていたようで、テーブルには朝ごはんが用意してある。もうこれ以上、迷惑をかけたくない私は、クスクス笑うカイルを横目にさっさと食べて宿をあとにした。


「ここからは馬で行こう。半刻ほどで教会には着くはずだ。馬は初めてか?」


 浄化の旅は荷物も多かったから、主に馬車で移動していた。それでも護衛の騎士たちは馬だったので、時々カイルに乗せてもらったことがある。


 私が馬の腰あたりをトントンとさわってうなずくと、カイルは「……そうか。誰かの後ろに乗ったことがあるんだな」と、なぜか暗い表情で呟いた。


(もしかして、馬に一人で乗れないと足手まといなのかも! そうだよね。あの時だって遊びでちょっと、乗らせてもらっただけだし……)


 申し訳ないなと思っていると、カイルは小声で「気にするなんて馬鹿だな」とわけのわからないことを呟き、私を馬に乗せてくれた。


 久しぶりの乗馬はものすごく怖かった。遊びでパカパカ乗せてもらった時とは、まったく違う。これはカイルも私の乗馬経験を気にするわけだ。


「サイラ! もっとしっかり俺につかまってくれ!」


 私はカイルに言われたとおり、彼の腰にしがみついた。小さく「よし!」と聞こえた気がするけど、それどころじゃない。


(お、お尻がいた~い!)


 しっかりつかまっていても、スピードが早いのでお尻がバウンドして痛い。私があと少しでお尻の皮がむけそうだと心配し始めた頃、ようやく目的地に到着した。


「ほら、あそこが聖教会だ」
「…………」


 懐かしい景色に、胸の奥が苦しい。もうこの辺りの道は私がよく知っている場所で、この場にいるだけで切なくなってくる。遠くに見える教会の建物もなにひとつ変わっていない。


 私はまるで浄化の旅から帰ってきたような気持ちで、涙をこらえながらじっと見つめていた。すると教会の入り口からひょこっと人が出てきた。その人は驚いた様子で、また中に入っていく。


「……やはり知られていたか」
(え? なに?)
「いや、大丈夫だ。行こう」


 そのまま馬を走らせ教会の入り口で止めると、そこにはたくさんの人がずらりと待ち構えていた。私たちが現れると同時に中央にいる人だけを残して、皆ひざまずく。


「お待ちしておりました。カイル・ラドニー聖騎士」


(司教様……)


 たくさんの人を後ろに従えて立っているこの人こそ、私をオズマンド国に召喚した司教様だった。

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