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09 ある男の決意 カイルSIDE①
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「おはようございます、アンジェラ王女。今日はなにやらご機嫌ですね?」
「あら、カイル! ちょうど良いわ。あなたに特別な役目を、あげようと思っていたところなの!」
朝の挨拶を口実に王女の様子を見に来たのだが、ケリーの情報どおり出かける準備をし護衛騎士を集めていた。しかし、その騎士も俺の指示が間に合ったようだ。この場に集められた部下に目で合図をすると、俺は何食わぬ顔で王女のほうに歩いて行った。
「実はね、あれからお父様に昨日の侵入者のことをお伝えしたの。そうしたら、私の命を狙ってたんじゃないかって怒ってしまって、処罰が必要だって言うのよ?」
にっこりと笑う王女の顔は、初めて会う人なら無邪気で可愛い貴族令嬢に見えるだろう。しかしこれから行う処刑のことを知っている俺にとっては、そのあどけない笑顔こそが不気味に感じる。
「陛下が? しかしあまりにも急ですし、まだ取り調べが終わっておりませんよ。処罰はアルフレッド殿下が帰ってからでも遅くはありません。もう一度お考え直ししていただくことは――」
「カイル! なにを言っているの? あの女はわたくしを狙ったのよ? 王宮に侵入したのも、もうすでに何かを仕掛けた後かもしれないわ!」
「それなら、なおさら生かして取り調べをしなくては」
「もういいわ! 今日の処刑は決まったことなの。お兄様がいたとしても、お父様の印があるこの書類があれば、誰の意見も関係ないわ!」
そう言って王女は俺に、処刑を実行することを許可した一枚の書類を差し出した。たしかに陛下の印が入っていて、なおかつ持っているのは王女だ。これを偽物だという証拠がない状態では、今はどうすることもできないだろう。
(なにがあっても実行するということだな。やはりおかしい。これだけ急ぐということは、彼女と王女には何かあるのだろうか……)
しかし今はそんなことを考えている暇もないようだ。王女は俺が何も言わないことを、処刑に賛成したとみなしたらしい。こちらをを振り返ると、楽しそうに笑って言った
「じゃあ、カイルがあの女を、崖から突き落としてね」
事前に情報を聞いていなかったら、怒りで暴れだしていただろう。俺は震える拳をそっと背中に隠し、了承した。
「…………っ!」
牢屋から連れ出された彼女は、たった一晩で今にも倒れそうなほど弱りきっていた。顔は青ざめ、頬には涙の痕が痛々しいほど残っていた。
大きな瞳はただ虚ろで、何も見ていない。処刑が行われる聖女の崖に到着してようやく、俺の存在に気がついたようだ。一瞬目を見開き驚いた顔をしていたが、これから行われることを理解し、そっと目を伏せた。
その健気な姿に、胸がえぐられるような痛みが走る。
(あと少し、あと少しで君を助けてあげられる!)
細心の注意を払って、王女を欺かなくては。少しの違和感でも感じさせたら、彼女を突き落とす役目を他の者に譲るだろう。いや王女本人が、やるつもりかもしれない。
そうなったら全てが台無しだ。王女が剣を持つ腕をわざと前に動かし彼女を傷つけようとも、気付かないふりをしてやり過ごした。
「……悪く思わないでくれ」
これから俺がすることは、君を助ける行為だ。だからどうかこのまま動かないでほしい。俺に身を任せて、一緒に崖から飛び降りてくれ。
ゆっくりと一歩、前に踏み出した。その時だった。ガラガラと王女を乗せた馬車が動き出す音がした。ケリーだ。作戦どおり部下のケリーが王女の視線をそらすため、馬を動かしてくれた。
(今だ!)
俺は彼女に体当たりするように、後ろからぎゅっと抱きしめ、崖から飛び降りた。
「目を閉じてくれ!」
飛び降りてすぐに転移の魔術を開始する。無事、魔術は発動し、俺たちの体はまぶしい光に包まれた。
「あら、カイル! ちょうど良いわ。あなたに特別な役目を、あげようと思っていたところなの!」
朝の挨拶を口実に王女の様子を見に来たのだが、ケリーの情報どおり出かける準備をし護衛騎士を集めていた。しかし、その騎士も俺の指示が間に合ったようだ。この場に集められた部下に目で合図をすると、俺は何食わぬ顔で王女のほうに歩いて行った。
「実はね、あれからお父様に昨日の侵入者のことをお伝えしたの。そうしたら、私の命を狙ってたんじゃないかって怒ってしまって、処罰が必要だって言うのよ?」
にっこりと笑う王女の顔は、初めて会う人なら無邪気で可愛い貴族令嬢に見えるだろう。しかしこれから行う処刑のことを知っている俺にとっては、そのあどけない笑顔こそが不気味に感じる。
「陛下が? しかしあまりにも急ですし、まだ取り調べが終わっておりませんよ。処罰はアルフレッド殿下が帰ってからでも遅くはありません。もう一度お考え直ししていただくことは――」
「カイル! なにを言っているの? あの女はわたくしを狙ったのよ? 王宮に侵入したのも、もうすでに何かを仕掛けた後かもしれないわ!」
「それなら、なおさら生かして取り調べをしなくては」
「もういいわ! 今日の処刑は決まったことなの。お兄様がいたとしても、お父様の印があるこの書類があれば、誰の意見も関係ないわ!」
そう言って王女は俺に、処刑を実行することを許可した一枚の書類を差し出した。たしかに陛下の印が入っていて、なおかつ持っているのは王女だ。これを偽物だという証拠がない状態では、今はどうすることもできないだろう。
(なにがあっても実行するということだな。やはりおかしい。これだけ急ぐということは、彼女と王女には何かあるのだろうか……)
しかし今はそんなことを考えている暇もないようだ。王女は俺が何も言わないことを、処刑に賛成したとみなしたらしい。こちらをを振り返ると、楽しそうに笑って言った
「じゃあ、カイルがあの女を、崖から突き落としてね」
事前に情報を聞いていなかったら、怒りで暴れだしていただろう。俺は震える拳をそっと背中に隠し、了承した。
「…………っ!」
牢屋から連れ出された彼女は、たった一晩で今にも倒れそうなほど弱りきっていた。顔は青ざめ、頬には涙の痕が痛々しいほど残っていた。
大きな瞳はただ虚ろで、何も見ていない。処刑が行われる聖女の崖に到着してようやく、俺の存在に気がついたようだ。一瞬目を見開き驚いた顔をしていたが、これから行われることを理解し、そっと目を伏せた。
その健気な姿に、胸がえぐられるような痛みが走る。
(あと少し、あと少しで君を助けてあげられる!)
細心の注意を払って、王女を欺かなくては。少しの違和感でも感じさせたら、彼女を突き落とす役目を他の者に譲るだろう。いや王女本人が、やるつもりかもしれない。
そうなったら全てが台無しだ。王女が剣を持つ腕をわざと前に動かし彼女を傷つけようとも、気付かないふりをしてやり過ごした。
「……悪く思わないでくれ」
これから俺がすることは、君を助ける行為だ。だからどうかこのまま動かないでほしい。俺に身を任せて、一緒に崖から飛び降りてくれ。
ゆっくりと一歩、前に踏み出した。その時だった。ガラガラと王女を乗せた馬車が動き出す音がした。ケリーだ。作戦どおり部下のケリーが王女の視線をそらすため、馬を動かしてくれた。
(今だ!)
俺は彼女に体当たりするように、後ろからぎゅっと抱きしめ、崖から飛び降りた。
「目を閉じてくれ!」
飛び降りてすぐに転移の魔術を開始する。無事、魔術は発動し、俺たちの体はまぶしい光に包まれた。
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