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グレッグSIDE

乙女騎士は溺愛する

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「シャルロット様! あなた、どういうおつもり!?」


 そこにはレイラの友人のカレン嬢とケイティ嬢が立っていた。2人は怒りで顔を真っ赤にして、シャルロット嬢を指差している。


「あなた私の婚約者と、キスしたというのは本当なの?」
「私の婚約者とは、夜まで一緒に過ごしたとか!」


 泣いていたはずのシャルロット嬢は一瞬顔を引きつらせていたが、すぐに「そんな事してません!」とクスンクスンと泣き始める。しかしそこにまた真っ青な顔をした男がドタバタと走ってきて叫び始めた。


「シャルロット! さっきの男は誰だ! 茂みに隠れてキスしていただろう! 俺という者がいながら……!」


 わなわなと体をふるわせシャルロット嬢を糾弾する男を見て、まわりは彼女を軽蔑の目で見始める。


「わ、私、そんなこと……」


 するとあちらこちらから「私も彼女が暗がりで、男性と2人でいるのを見たわ」「他の夜会でカレン嬢の婚約者とキスしていたのは、やっぱり彼女だったのね」と出てくる。思い当たる事でもあるのかコソコソと帰ろうとする男もいて、会場は混乱を極めていた。


 こうなってはもう無理だろう。結婚前の令嬢が男と夜を過ごしていたなど、社交界で未来はない。しかも複数の男とだなんて! 特に今の王家はそういった風紀にとても厳しい。相応の罰が家にも下るだろう。


 ピンチから救われてホッとしたとたん、本来の自分の目的を思い出す。こんな事にかまっている暇はない!今日は俺にとってすごく大切な日になるはずだったんだ! レイラに好きな男がいたってかまわない! 気持ちを伝えずに敗北するのだけは嫌なんだ!


 俺は無我夢中でレイラを探し、無事に誤解を解き、プロポーズを成功させた。その後のことは正直忙しすぎて、記憶が曖昧だ。しかし少しでも早くレイラと結婚したいがために、頑張ったことに後悔はない。


(それにしてもあの日寝ずに考えた結婚式プランも、レイラのドレスも大成功だったな……)


 純白のドレスを着たレイラは、まるで花の女神のようだった。上半身は体に沿わせるようにし、反対にスカートの部分は何枚ものドレープを重ねて花びらのようにデザインした。縫い付けたたくさんの宝石は陽が当たらずともキラキラと輝き、彼女が歩くたびに幻想的な雰囲気に包まれた。


 俺達の友人もたくさん祝福してくれ、いい結婚式になった。そうそう、あの夜俺のピンチを救ってくれたカレン嬢とケイティ嬢も、俺が紹介した新しい婚約者と来てくれた。きっかけは招待状の返事だったが、もらったその手紙には2人がどれだけレイラに救われたかが書いてあり、俺は彼女達に心から共感した。


 というのもカレン嬢とケイティ嬢は社交界デビューすると、成り上がりだと馬鹿にされる事があったそうだ。たしかに2人の家は希少だった綿の栽培に唯一成功し、一代で富を築いた男爵家だ。何代もかかって両家が土地や種の研究をし、ようやく成功したのに一部の者からは歴史が無い成り上がりとして馬鹿にされていた。


 それを救ったのがレイラだった。レイラが彼女達の良質の綿のおかげでぐっすり眠れるので感謝していると、みんなの前で言ったらしい。しかも勇気を出してお茶会に誘えば、ニコニコと来てくれる。社交界の花であるレイラに認められたことで、2人も馬鹿にされることが無くなったという。


 レイラは社交ができないと言っているが、正直な気持ちで話す言葉が一番の社交になって彼女達を救っていた。俺も彼女の言葉に救われたからよくわかる。


 同士だな! と2人に共感し、すぐに真面目な友人を紹介したら、その日の内に婚約が整ってしまった。2人の元婚約者は謹慎のうえ縁談は絶望的だというし、さぞ浮気して破談になった事を後悔しているだろう。自分の結婚式で明るく気立ての良い令嬢が、本当の幸せを手に入れた姿を見るのはとても嬉しいものだ。


 まあ、一番嬉しかったのは、レイラからキスされたことだが。


 レイラは苦笑いをして「素直にならなきゃいけませんね」と言っていたが、俺の前ではいつも素直な感情のままだからよくわからない。


 おっと! 結婚式の思い出に浸っている場合じゃない。今はとても忙しい。まずするのはハンカチの刺繍だ。流行の移り変わりは早く、今では家紋の刺繍も5色になって難しくなってきた。レイラは結婚によって家紋が変わったから、俺の家の家紋にしなくちゃいけない。


 ウキウキとハンカチに刺繍していると、ふとシャルロット嬢を思い出した。


 あの令嬢も夜会の場でまわりに糾弾され、社交界では誰も相手にしない。それどころかシャルロット嬢の男爵家は社交界の風紀を乱したということで、爵位は弟に渡ることになった。


 もともとあの家は父親の遊びの借金で困窮していたらしいから、この機会に堅実と噂の弟に譲るよう言われたのだろう。平民として暮らすことになるが、したたかな彼女のことだ。なんとかやっていくだろう。


 それにしても俺とレイラの秘密を知っているのが不思議だったが、最近その理由もわかって一安心だ。クライトン伯爵の話によると、1人のメイドがレイラの部屋を漁っていたところを捕まり、全て白状した。


 そのメイドはシャルロット嬢の友人で、金品を探している時に偶然手紙を見て、彼女に情報を渡していたらしい。しかもそのメイドの部屋にはレイラの宝石だけでなく、俺達の手紙もあったという。どうりで返事がこないはずだ。もちろんそのメイドはもういない。紹介状の無いメイドなど、どこも雇ってくれないだろう。


 裕福な家やその婚約者ばかりに手を出していたところを見ると、シャルロット嬢は成り上がることが目的だったのだろう。またレイラのように生まれつき裕福な令嬢への嫉妬もあり、手当り次第に陥れようとしたのかもしれない。


 もちろんレイラはそんな事知らなくていい。結婚前に俺のせいで不安にさせてしまったが、これからはわずらわしい事は何一つ君に見せたくない。レイラには幸せな気持ちで惰眠をむさぼってほしい。それを守るのが騎士であり、夫である俺の仕事だ。


(これからはそういったまわりの感情にも気をつけ、危険人物からレイラを守っていかねば……)


 さて、ハンカチの刺繍も終わったし、ブランケットも昨日完成した。あと必要なのは……そう考えながらブランケットを畳んでいると、レイラがこちらをじっと見ていることに気づく。俺が作ったハーブティーを飲みながら、頬に手を当て微笑んでいた。


「よく作るわねぇ」


 本当に感心しているように言うので、愛する人の苦手な部分を俺が代われる事に喜びを感じる。


「レイラ、寒くないか?」


 出来上がったばかりのブランケットを、レイラのやや膨らんだお腹にかける。


「ありがとう。あなたの作ってくれたブランケット、この子が産まれたらお昼寝に使えるわね」
「君とのおそろいで、もう1枚作ろうか?」
「……あなたは使わないの?」
「よし!あと2枚作って、家族全員でおそろいだな!」


 俺が拳を握って言ったからか、レイラはクスクス笑い始めた。そしてゆっくりと俺に顔を近づけてくる。彼女の昔と変わらない綺麗な瞳に見つめられると、吸い込まれそうなきもちになってクラクラする。


「私、あなたを見ているのが、唯一の趣味みたい」


(俺自身が愛する妻の趣味にもなっているとは、なんて素晴らしいんだ!)


 近づいてくるレイラの顔を両手で包むと、彼女はふふっと可愛らしく笑う。俺はこれからも未来永劫、自分らしくいられることに感謝し、愛する妻に口づけをした。


 
 
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みんなの感想(8件)

にゃあん
2023.03.06 にゃあん

とても暖かい良いお話ですね♪補いあってお互いが幸せならOKです。

これから産着も作るのかな😀
セレモニードレスも作るのかな😄

お顔に熊など飼わないように頑張って👍

読ませていただきありがとうございます😊

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さばこ
2023.01.23 さばこ

お互いに補いあい、愛しく思いあえる素敵な2人のお話でした 作者様は読後にあたたかい気持ちになれる素敵な作品を書かれますね

四葉美名
2023.02.27 四葉美名

かなり遅い返信でごめんなさい!
感想ありがとうございました!
読後感が良くしたいというのが小説を書くうえで気にしていることなので、そこを褒めてもらえて嬉しいです。

解除
ぷりこ
2023.01.10 ぷりこ

読後幸せになれる素敵なお話でした。

四葉美名
2023.01.10 四葉美名

感想ありがとうございます。最後まで読んでもらえて嬉しいです!
少しでもぷりこさんを幸せな気持ちにできたなら、作者として幸せです。
ありがとうございました。

解除

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