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グレッグSIDE

ニセモノ令嬢からのプロポーズ 02

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(……僕をからかってるのかな? )


 彼女は訝しげな視線を送る俺と目が合うと、ニコッと笑い「良いアイデアじゃないかしら?」と自信満々の様子だ。10歳とはいえ、その頃には婚約者がいる友人もいた。レイラが俺の家に遊びに来たことも、相性を見る軽いお見合いのようなものだと理解していた。


「僕がお人形を集めたり、刺繍を作るのを馬鹿にしないなら、君と結婚したい」
「そんなこと? 馬鹿にするどころか尊敬するわ。むしろ私のためにいっぱい作ってもらわないと!」


 どうせ嫌がられるだろうと思って言ったのに。レイラは俺の言葉を聞いて「これでラクになるわ!」と大喜びしている。しばらくそうして喜んでいた彼女はくるりと俺の方を振り返ると、満面の笑みで俺に手を差し出した。


(今の笑顔だけで、じゅうぶん女の子らしいと思うけど……)


 輝くようなレイラの笑顔にドキドキしながら、差し出された手を握る。


「こーしょーせーりつね」
「……うん!」


 こうして俺達は初めて会った日に、婚約することになった。最初はいきなりの展開に驚き戸惑っていた両家だったが、会うたびに仲良くなる俺達を見て、すぐに婚約の手続きをしてくれた。


 こんなふうにお互いの利害の一致で始まった婚約だったが、俺はいつもレイラに救われた。女の子の趣味を楽しむこともそうだが、16歳で彼女に言われた言葉で俺の人生はガラリと変わる。


 当時の俺は親の勧めで騎士団に入団したばかりだった。自分が考えていた以上に騎士としての才能はあったが、毎日の地道な訓練にはやりがいを感じられない日々を送っていた。


「それはそうでしょう。だって今は戦争もないし、害獣だって出ない平和な日々ですもの」


 俺が呟いた「騎士団の仕事は訓練ばかりでつまらない」という不満に、レイラは優雅にお茶を飲みながらそう答える。


「反対にグレッグはどういう状況なら、やりがいを感じられるの?」
「う~ん……誰かの役に立った時かな? 困ってる人を助けるとか」


レイラに質問されて初めて仕事へのやりがいを意識したが、自分のしていることが誰かの役に立っていると実感したいだけなのかもしれない。俺の答えを聞いた彼女は、「そうねえ……」と呟き、ティーカップを置いた。飲みきって空になっている。俺は当たり前のように、彼女のカップにおかわりの紅茶を注いだ。


「そういった事でやりがいは感じられるかもしれませんが、そうなると誰かに問題や犯罪が起こる前提になるわね」
「……たしかにそうだな」


考えたこともなかった。俺が活躍したいと思う状況は、誰かが苦しんでいないと成立しない。そういう角度で状況を見ていなかったので、思わず言葉に詰まってしまう。


「騎士の訓練は嫌いなの?」
「いや、趣味の合間に体を動かすと、いい気分転換にはなるな」
「軸が趣味なのは気になりますが、それで良いじゃないですか」
「えっ?」


良くないのだが。やはりレイラは女性だから、わからないのかもしれない。そう思っていると、彼女は俺が作ったくるみクッキーを食べ、「うん! 美味しい」と言って微笑んだ。


「この国の騎士団は、諸外国にも強さが知れ渡っていますでしょう? 強ければ強いほど、戦わずとも国の防衛に成功しているのだと思います。毎日の訓練をしっかりやることで、国民の平和を守っておりますから、誇りに思ってくださいませ」

「戦わなくても、国を守っているか……」
「だって騎士団がいない国なんて、戦争や害獣が怖くて住めませんわ」
「それもそうだな」

「それに騎士の方が領地や街を見回りしてくださるから、安心して暮らせるんです。国内の治安が悪かったら、さすがの私ものんきに昼寝はしてられないでしょう」


レイラの家の領地には国境に面している場所がある。なにかあったら彼女の家族は領地を守るため戦うだろうし、領主一族は殺される危険もある。


「でもそれは騎士の方が、日々の訓練に気を抜かず鍛錬して強さを保っているからでしょう? 弱い騎士団だとわかっていたら、いつ攻め込まれるかわかりません。だからグレッグも国や国民を守り続けるために、強くなってみてはどう?」


小さい声で「私が惰眠をむさぼるためにも……」と聞こえたが、まあいい。さっきまでくすぶっていた不満が、彼女の言葉であっという間に消え去り、日々の訓練へのやる気がふつふつと湧いてきている。


(そうか、無駄のように思えた訓練も、国の防衛や治安に役立っているのだな。気づかなかった……)


「素晴らしい考えだ! レイラは本当に素敵な令嬢だな!」
「今さらなんですの……」


俺の突然の褒め言葉に、めずらしくレイラの顔が赤くなる。そのまま照れているのをごまかすように、ぐいぐいと紅茶を飲み始めた。それでも俺がニコニコと彼女を見つめるのをやめないので、フン!と鼻をならしてそっぽを向いてしまった。


「もう! 武術大会で優勝できるほど、鍛えてらっしゃい!」


 レイラが好きだ。レイラのこの考え方に俺は何度も救われている。俺の頑張りでレイラが惰眠をむさぼれるならこんな幸せなことはない。それからというもの、俺は日々の訓練に身が入るようになり、いつしか武術大会での優勝が目標になった。


(レイラのおかげで優勝もできた。あとは次の夜会で表彰され、そのままプロポーズだ!)


 しかしレイラをクライトン邸に送りご機嫌で自宅に帰ると、母親が腕を組んで何か言いたげに待っていた。
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