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36 エピローグ 今日も地味には生きられない②

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「はいはい、二人ともそこまで。リュディカはあと少しだけ休憩したら、仕事に戻ってね。トレジャーは竜気が溜まって苦しいんだから、大人しく寝てなさい」
『は~い』
「しょうがないな」


 二人は納得すると、リュディカは私の膝枕で芝生の上に寝転び、トレジャーはまたポケットの中に戻った。二人はさすが親子というか、同時に喉をクルルと鳴らし始め、ご機嫌なようだ。


(なんだかんだ言っても、二人はこのやり取りが楽しいのよね)


 毎日のように繰り広げられる茶番のような光景に軽いため息を吐いたあと、私はそっとお腹に話しかける。


「あなたも大変なパパと、お兄ちゃんをもつことになるわね」


 私は今、第二子を妊娠中だ。しかし今度は卵じゃない。竜王になる子どもは一人と決まっているので、第二子以降は人間の赤ちゃんとして生まれてくるらしい。


 トレジャーはまだ人間の姿にはなれない。リュディカいわく、最初の人間化にはかなりの力がいるので、竜気を溜め込む必要があるのだ。今がまさにその時で、もうすぐ人間の姿も見られると言われている。


(いつ人間化してもいいように、服も準備してあるんだけど、まだ時間がかかりそうね)


 反対に今お腹にいる子は、人間の姿で生まれ、そのあと竜気が溜まったら竜化できる。


「みんな、待ってるからね」


 お腹を優しくなでると、返事をするようにポンと蹴られた。その懐かしい感触に、なんだか目の奥がきゅっと切なくなる。するとそんな感傷的な気持ちを吹き飛ばす声が、聞こえてきた。


『訓練終わったから、ぼくも手伝う~!』
「キールくん……!」


「ああ……」と頭を抱えても、もう遅い。キールくんは訓練からの開放感からか、大声でみんなが寝ている場所に飛び込んでいく。案の定、みんな起きてしまい大騒ぎだ。


『キール! 今寝かせたところなんだぞ!』
『ご、ごめん……!』


 ヒューゴの怒り声にビクビクと反省中だけど、もう黄竜の子たちは『おひるね、おわりだー!』と騒ぎ始め、青竜は静かに苛立ち、白竜は寝ぼけ眼で首をゆらゆらと揺らしている。終いには、黄竜と青竜で喧嘩になってしまった。


『おまえら、止めろって!』
「リコ様! すみません! わたくしの手にはおえません!」
「はあ……今日も大変だわ」


 あわてて喧嘩を止めるために、リュディカの頭をどかすと、顔が不満気だ。


「ほら、リュディカも執務室に戻って」
「まだ、リコが足りないのだが?」
『パパ、もう行きなよ~』
「フン。まだ人間にもなれないおまえの注意など聞かんぞ」
『むうう!』


(ああ、もう! あっちもこっちも、竜人というのは本当に短気で、喧嘩好きなんだから!)


 するとリュディカの言葉にそうとう腹が立ったのか、トレジャーがポケットから出てきた。


『ぼくだって、人間になれるもん! ふんんんん!』
「もう、無理しないで……わあ!」


 体に障るから止めようとした瞬間、ポンと音を立ててトレジャーが三歳くらいの男の子になった。


 ただし、――


「できたー! ほら! パパ見て!」
「おお! さすが俺の息子だ! ものすごくかわいいぞ!」
「えへへ! パパ大好き! ママも見て~」
「かわいいけど、服を着て~!」


 さっきまで喧嘩していた二人は大喜びで抱き合って、服を着ていないことなんて気にしちゃいない。しかもそのまま王宮や騎士団のみんなにお披露目しようと、トレジャーを抱えたまま走り出してしまった。


「わわ! 二人とも待って!」
「ママ、早く来て~」
「リコ! 置いていくぞ!」


 トレジャーの着替えをあわてて掴んで走り出すも、興奮したリュディカの足には追いつけそうにない。それでも二人が本当に楽しそうに笑っているのを見ると、その姿に涙がこみ上げてきそうになる。


(この世界に来たばかりの私に、教えてあげたいな)


 竜王の運命の花嫁である私は、殺されないですんだけど、地味に生きられるわけもなく。今日もドタバタと幸せな毎日を、愛する家族と生きてるよって。


「ママ~」
「リコ!」


 二人が振り返り、私に手を振っている。まぶしいほどの笑顔に、胸が熱くなっていく。


 きっとこんな素晴らしい日が、ずっとずっと続いていくだろう。


「今、行く!」


 私は元気な声で返事をし、愛する家族のもとに駆けよった。

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