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28 竜王様の過去③
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「りゅ、竜の保育園! きゃあああ! 素敵すぎるぅ」
私が突然叫び声をあげたので、隣で聞いていたルシアンさんは目を丸くして驚いている。しかしそんなことに、かまっている暇はない! だって、だって! 諦めていた保育の夢が叶うんだ!
(人間の子どもじゃないけど、竜の保育だってやりがいありそう!)
片言の言葉を話す幼竜がいっぱいいるところを想像するだけでも、勝手に笑いがこみ上げてくる。
(それに、竜王様が私の夢を覚えていてくれたのが、すごく嬉しい!)
「その保育園の生徒第一号が、クルルでいいんじゃないかと思ったのだが、これでも嬉しい報告じゃないか?」
「嬉しすぎます! 竜王様、最高です! ありがとうございます!」
『ママがせんせ~! ぼくも、せいとになる!』
もう人目などどうでもいいから、竜王様に抱きついて感謝の気持ちを表したいくらいだ。すると私が大騒ぎしているので、とうとう団長さんやヒューゴくんまで集まってきてしまった。
しかしこの喜びを一人で抱えることは、とうていできない! 興奮しきった私は、集まったみんなにベラベラと話し始めた。
「みなさん! 聞いてください! 実は私――」
「それは凄い! 国境の辺りは落竜も多いですし、みんな喜びますよ!」
「リコ様、素敵です! 私もお手伝いさせてくださいね!」
「俺だって手伝いますからね!」
『ぼくも、手伝います!』
団長さんたちの話によると、幼竜を育てるのは竜に慣れている騎士団でも大変で、出産シーズンになると各地の騎士たちが愚痴をこぼすほどだそう。なので保育園の話を聞いたら、問い合わせが殺到するとまで言われてしまった。
「ヒューゴも手伝うと言ってくれてますし、さっそく帰りは彼の背中にクルルを乗せましょう」
竜王様の気がすごいので、クルルは私たちと一緒にはいられない。なので穏やかな気質のヒューゴくんと鎖でつないで、背中に乗せてもらうことになった。
『リコ様、この子はしばらく僕が面倒を見ますね』
「いいの? 無理してない?」
『誰かの世話をするのは、嫌いじゃないです。それにこの子も、僕に懐いたみたいで』
最初はおびえていたが、どうやら二頭は波長が合うようだ。クルルはヒューゴくんの背中に顔を擦り付け、甘えている。
「親だと思ったのかな?」
『もしかしたら、本当の家族にも、似た性格の兄竜がいたのかもしれません』
その様子を隣で見ていたルシアンさんも、ホッとした様子だ。「これなら大丈夫そうですね」と言ってほほ笑んでいる。
「迷い人リコ様、また会える日を楽しみにしていますよ」
「ルシアンさん、お世話になりました! クルルは大事に育てますね!」
『ばいば~い』
クルルという思わぬお土産をもらい、私たちは順調に王宮まで戻っていった。トラブルといえば、途中クルルが眠ってしまって、ヒューゴくんの背中から落ちてしまい、鎖で宙ぶらりんになってしまったことくらいだろう。
「この世界で初めての旅は楽しかったか?」
「はい! 竜も性格がさまざまで、面白かったです」
「フッ、そうだな。お、そろそろ王宮だ。どうやら出発と同じで、騎士たちが出迎えてくれてるようだぞ」
「わっ! 本当だ! キールくんもいる」
『りゅうのけはい、いっぱい』
窓からのぞくと、たくさんの騎士や王宮のスタッフが出迎えてくれていた。手を振ってくれたり、キールくんなんてこっちに飛び出しこようとするのを、三人がかりで止められていた。
「竜王様、お戻りお待ちしておりました。おや? ヒューゴの背中に知らない幼竜が乗っていますね。どうしたのです?」
「実は面白いことがあってな――」
竜王様が私が幼竜と話せること、王宮に竜の保育園を作ることを皆に伝えると、わあ!と大きな歓声があがった。
「それは凄い! 騎士の仕事がだいぶラクになりますよ!」
「もうすぐ出産シーズンですから、すぐに取り掛かりましょう!」
「リコ様がこの国に来てくださって、本当に良かった!」
(嬉しい……、みんな喜んでくれてる! これならタイミングを見て、竜王様に告白できそう!)
そう思うと、すぐに胸がバクバクと緊張してくる。いつ言おうか? 今日はまだちょっと心の準備ができてないから、明日にしようかな。そんなことを思っていると、遠くから竜王様を呼ぶ声が聞こえてきた。
「きゃっ! 誰?」
「どけてくれ! 私を誰だと思ってるんだ!」
すると一人の知らない男性が、騒ぐ群衆を強引にかき分け、竜王様の前にひざまずいた。
「竜王様、お帰り大変お待ちしておりました!」
「リプソン侯爵ではないか。そんなにあわてて、どうしたのだ」
(リプソン侯爵……ということは、この人がアビゲイル様のお父さん?)
「お妃様選定の水晶が完全に灯りました! よって明日の朝、水晶の部屋にて、お妃様選定の儀を執り行います!」
そう言って、リプソン侯爵は顔を上げ、私に向かってニヤリと笑った。
私が突然叫び声をあげたので、隣で聞いていたルシアンさんは目を丸くして驚いている。しかしそんなことに、かまっている暇はない! だって、だって! 諦めていた保育の夢が叶うんだ!
(人間の子どもじゃないけど、竜の保育だってやりがいありそう!)
片言の言葉を話す幼竜がいっぱいいるところを想像するだけでも、勝手に笑いがこみ上げてくる。
(それに、竜王様が私の夢を覚えていてくれたのが、すごく嬉しい!)
「その保育園の生徒第一号が、クルルでいいんじゃないかと思ったのだが、これでも嬉しい報告じゃないか?」
「嬉しすぎます! 竜王様、最高です! ありがとうございます!」
『ママがせんせ~! ぼくも、せいとになる!』
もう人目などどうでもいいから、竜王様に抱きついて感謝の気持ちを表したいくらいだ。すると私が大騒ぎしているので、とうとう団長さんやヒューゴくんまで集まってきてしまった。
しかしこの喜びを一人で抱えることは、とうていできない! 興奮しきった私は、集まったみんなにベラベラと話し始めた。
「みなさん! 聞いてください! 実は私――」
「それは凄い! 国境の辺りは落竜も多いですし、みんな喜びますよ!」
「リコ様、素敵です! 私もお手伝いさせてくださいね!」
「俺だって手伝いますからね!」
『ぼくも、手伝います!』
団長さんたちの話によると、幼竜を育てるのは竜に慣れている騎士団でも大変で、出産シーズンになると各地の騎士たちが愚痴をこぼすほどだそう。なので保育園の話を聞いたら、問い合わせが殺到するとまで言われてしまった。
「ヒューゴも手伝うと言ってくれてますし、さっそく帰りは彼の背中にクルルを乗せましょう」
竜王様の気がすごいので、クルルは私たちと一緒にはいられない。なので穏やかな気質のヒューゴくんと鎖でつないで、背中に乗せてもらうことになった。
『リコ様、この子はしばらく僕が面倒を見ますね』
「いいの? 無理してない?」
『誰かの世話をするのは、嫌いじゃないです。それにこの子も、僕に懐いたみたいで』
最初はおびえていたが、どうやら二頭は波長が合うようだ。クルルはヒューゴくんの背中に顔を擦り付け、甘えている。
「親だと思ったのかな?」
『もしかしたら、本当の家族にも、似た性格の兄竜がいたのかもしれません』
その様子を隣で見ていたルシアンさんも、ホッとした様子だ。「これなら大丈夫そうですね」と言ってほほ笑んでいる。
「迷い人リコ様、また会える日を楽しみにしていますよ」
「ルシアンさん、お世話になりました! クルルは大事に育てますね!」
『ばいば~い』
クルルという思わぬお土産をもらい、私たちは順調に王宮まで戻っていった。トラブルといえば、途中クルルが眠ってしまって、ヒューゴくんの背中から落ちてしまい、鎖で宙ぶらりんになってしまったことくらいだろう。
「この世界で初めての旅は楽しかったか?」
「はい! 竜も性格がさまざまで、面白かったです」
「フッ、そうだな。お、そろそろ王宮だ。どうやら出発と同じで、騎士たちが出迎えてくれてるようだぞ」
「わっ! 本当だ! キールくんもいる」
『りゅうのけはい、いっぱい』
窓からのぞくと、たくさんの騎士や王宮のスタッフが出迎えてくれていた。手を振ってくれたり、キールくんなんてこっちに飛び出しこようとするのを、三人がかりで止められていた。
「竜王様、お戻りお待ちしておりました。おや? ヒューゴの背中に知らない幼竜が乗っていますね。どうしたのです?」
「実は面白いことがあってな――」
竜王様が私が幼竜と話せること、王宮に竜の保育園を作ることを皆に伝えると、わあ!と大きな歓声があがった。
「それは凄い! 騎士の仕事がだいぶラクになりますよ!」
「もうすぐ出産シーズンですから、すぐに取り掛かりましょう!」
「リコ様がこの国に来てくださって、本当に良かった!」
(嬉しい……、みんな喜んでくれてる! これならタイミングを見て、竜王様に告白できそう!)
そう思うと、すぐに胸がバクバクと緊張してくる。いつ言おうか? 今日はまだちょっと心の準備ができてないから、明日にしようかな。そんなことを思っていると、遠くから竜王様を呼ぶ声が聞こえてきた。
「きゃっ! 誰?」
「どけてくれ! 私を誰だと思ってるんだ!」
すると一人の知らない男性が、騒ぐ群衆を強引にかき分け、竜王様の前にひざまずいた。
「竜王様、お帰り大変お待ちしておりました!」
「リプソン侯爵ではないか。そんなにあわてて、どうしたのだ」
(リプソン侯爵……ということは、この人がアビゲイル様のお父さん?)
「お妃様選定の水晶が完全に灯りました! よって明日の朝、水晶の部屋にて、お妃様選定の儀を執り行います!」
そう言って、リプソン侯爵は顔を上げ、私に向かってニヤリと笑った。
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