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27 水晶の守り人③

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「あなた、しゃべれるの?」
『ちょとだけ』
「うわあ……かわいい! 名前はあるの?」
『クルル』
「クルルくんか」
「迷い人様、もしかして今の会話は、この竜がクルルを自分の名前だと言ったのですか?」


 メモをしながら私とクルルくんを観察していたルシアンさんが、急に会話に入ってきた。


「はい、そうですけど、どうかしましたか?」
「その名前は、私がつけたんです。クルルと鳴くので、仮の名前だったのですが……」
「気に入っちゃったみたいですね」


 本人が自分の名前だというのだから、今から変えることはしなくてもいいだろう。私がクルルくんの喉元をカリカリと撫でると、ルシアンさんが言っていたように、「クルル」と鳴いた。


「それにしても血か……そういえば、俺も最初、リコの血を甘い匂いだと感じたな」
「迷い人様の血には、竜王様の癒やしのように、何か竜にだけ効果がありそうですね」


 私がクルルくんを抱っこしながら、傷を舐めて甘いと言われたことを話すと、竜王様たちが納得した顔で話し合いを始めた。


「リコ、競技会で竜のキールがおかしくなった後、おまえの血を舐めていなかったか?」
「あっ……! たしかに舐めていました」

「ふむ。では迷い人様の血に、竜たちが正気に戻る、何かが入っているのでしょうね」
「そういえばあの時も、竜たちが私の血が甘いとか、幸せな気持ちになれるって言ってました」
「ほう! それは、おもしろいですね!」


 ルシアンさんの目の奥がキラリと光って、ちょっと怖い。何かスイッチが入ったようだ。


「でもキールくんは私の血を舐める前に、助けに来たと言っていました。だからその頃には葉っぱの効果が切れていたのかもしれません」
「なるほど。それなら少量の血なら、気持ちを鎮める効果があるといったところでしょう。竜王様が飲んでいるお茶みたいなものですね」


(リュディカのことか。少量の血なら、リラックス効果がある。じゃあ大量なら……)


 そこまで考えて一人でゾッとしていると、ルシアンさんも似たようなことを考えていたようだ。


「しかし、このことは、秘密にしておかなくてはいけませんね。迷い人様の血を狙うという愚か者が出る可能性があります」


 結局私の血の効果については、竜王様、ルシアンさん、リディアさん、そしてシリルさんだけが知ることとなった。


「そうだ。忘れないうちに、例の葉の欠片を渡しておこう。それと、これがシリルからの報告書だ」


 竜王様がポケットから分厚い封筒と、小さい紙袋を渡した。


「ふむ。欠片なので断定はできませんが、昔、隣国の山に自生していた葉に似ていますね。効果も似ていたはずです。しかしあれは隣国がすべて燃やして、絶滅させたはずですが……」


 ルシアンさんは眉間にしわを寄せ、真剣な表情で考え込んでいた。するとそんな空気などまったく気にしないクルルくんが『すいた、はら、メシ』と、ご飯のおねだりをし始める。


「ルシアンさん! クルルくんが、ご飯をご所望です!」
「おお! それはすごい! では私たちも食事にしましょう」


 その後クルルくんは、竜王様以外の竜気にも少しずつ慣れていった。特にリディアさんを気に入ったようで、膝の上で寝てしまっている。これからもたくさんの人の竜気に慣れていけば、普通に飼い竜として育てることができるみたいだ。


 しかし気になるのは、さっきから無反応な、お腹の卵くんだ。


(卵くん、やっぱりずっと、寝てるのかな?)


 食事も終え、案内された客室でようやく一人になると、すぐにお腹に向かって話しかけた。トントンとお腹を叩くと、やっぱりずっと寝ていたようで眠そうな声が聞こえてくる。しかも今日はいつもより眠いらしく、ぜんぜん話が続かない。


 最後には『ママ~、きょうは、ぼく、もうねるぅ……』と言って、また部屋には静寂が戻った。そして代わりに部屋に響いたのは、扉をノックする音だ。


「リコ、俺だ。今、大丈夫か?」
「竜王様?」


 さっき食事を終えたところで、まだ寝る時間ではない。私も荷物を整理しておこうと、ちょうど立ち上がったところだった。


(もしかしてアレ、持ってきてくれたのかな?)


 竜王様の訪問に思い当たることがあり、私は急いで扉を開けた。


「竜王様、どうしたん……ですか?」


 想像していた竜王様と違い、私は一瞬言葉を失う。そこにいたのは、竜王様(人バージョン)ではなく、竜王様(幼竜バージョン)だった。
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